突撃!!(僕がされます)
あの後、「他の生徒には僕がVTuberであることを他言しないように」と釘を刺し、教室へと戻った僕たちには、あらぬ誤解から嫉妬と好奇心の目に晒されながらも窓側の席に着いた。当の本人である、委員長はフフフーン♪と鼻歌まで歌って更に僕への視線が鋭くなるのを感じていた。
「ふぅ、なんとかなった……かな」
午前の授業も終わり昼食の時間となった。
「おい、お前委員長に告られたってマジか?」
ワックスで金髪を固めた右耳にピアスをつけ、Tシャツのボタンを外した男の子が話しかけてくる。
「快士君助けてよ~」
僕は、その男に泣きつく。彼は、僕の男友達である、東海道快士である。一見チャラそうに見えるが、幼馴染である僕のことを色々守ってくれたりと友情には熱いところがある。多分彼がいるから野次馬の男子の一部も気安く僕に絡んでこなかったのだと思っている。
現に今も高貴の目に晒されてはいるものの誰も近寄ってこない。
見た目はちょっとイケイケで怖いけどいい奴なのに……。
「助けてよって、何助ける必要あんだ? 他の男子からしてみたら嫉妬の的だろうに」
彼は、笑いながら窓に腰かけて開けてない缶コーヒーを片手で投げて取ってと繰り返す手遊びをしている。
僕はかっこいいなとボケーっと見て……ってそうじゃなくって、委員長のことであらぬ誤解されているんだった。
「違うんだよ。別に告白されたって言っても付き合うとかそういうのじゃなくて……」
僕は、快士君に「VTuber活動していることバレてたんだ」と耳打ちをする。
「あぁ~、それでお前に惚れて付き合うって流れか?」
「それが、付き合ってくれっていうのもその活動を手伝ってくれって意味で……」
「なんだそういうことか」
僕は、快士君に素直に打ち明ける。彼は僕がVTuber活動していることを知っている数少ない人なのである。と言っても、僕から伝えたわけではなく、彼が、フォロワー十万人のSwittwerでバズッた僕の動画の切り取りを見て特定した一人なのだが。
「そんなん、簡単よ。素直に手伝ってやればいいじゃん」
「って言っても女子と二人っきりだと何話していいか……」
僕は、廊下側に座っている委員長を見る。今は、女子と楽しそうに談笑しいている。僕のこと何にも言ってなければいいけど……。
「お前、YouTubeではコラボとかで女の子とバンバン話してるじゃん。 それに、向日葵とは普通に話せるじゃん」
「ようつべだと顔合わせないし、あれは僕であって僕じゃないからね。 ライトちゃんだから……。 それに、向日葵は向日葵だし……」
「よくわかんねー」
快士君がそう言って購買から買っていたらしい揚げパンを一口食べた時、
「ひっかる~~~~」
教室のスライド式のドアが勢いよく開けられイノシシみたいに何かがこちらに向かってくるのが見える。
快士君は「噂してたら来たよ、まぁ、頑張れ!!」と言って僕から離れる。
「ひっかる~」
「どっわ~~~」
僕は、椅子から吹っ飛ばされてしまう。床に倒れ込んでしまう。
「イテテ」
床に仰向けに倒れ込んでしまった僕はゆっくり目を開ける。僕の視界に最初に飛び込んできたのは、向日葵のドアップの顔で――――。
「ひ、向日葵っ!?」
「むぅ~~」
何やら、餌を口の中に蓄えているハムスターのように頬を膨らせている小動物みたいに可愛らしい顔をした向日葵がいた。表情はなんだか、怒っているようでっ……
快士君なんかは、こんな状況を見て「あらあら、お熱いこと」とにやけちゃっている。
――――ていうか、この状況はまずい!!
床ドンの体制になってしまっているからだ。しかも、床ドンされているのである。男の子である僕が、”床ドンされている”のである。しかも僕の胸辺りには何やら柔らかい感触が……
「ひ、ひ、ひ、向日葵っ//// 一旦離れよっか」
「――――ッ!?!? やだっ!! 絶対離さない!!! 向日葵とずっと一緒じゃなきゃやだもんっ!!」
「一緒ってどういういm(ry むぐぐ……」
全身に、柔らかさと人肌の温かさが伝わってくる。のしっと全体重が僕に乗ってきて、白い腕が僕の首の後ろに回っていく。
頭がぽけーとして僕の志向が停止していると、
「あ、あなたたち、は、は、は、破廉恥ですっ!!!」
委員長と女子取り巻きに無理やり引き離されてなぜか二人ともピュイッと廊下に放り出さる。
「イテテテ、向日葵いきなりどうしちゃったの?」
僕が聞くとまたハムスターのようにほっぺを膨らませていた。
「もう光なんか知らないっ!! 今度お弁当一緒に食べる機会があっても、唐揚げ弁当の唐揚げ一個もプレゼントしないで全部食べちゃうもんっ!! ふんっ!!」
そう言って向日葵は自分の教室へと帰っていった。
「向日葵のやつどうしたんだ?」
僕は、一人残された廊下で一人ポツンと向日葵がいなくなった廊下を眺めていた。




