エルフの里へ
「私は……」
答えは、決まった。
「私は、それでもメラの母親になりたいと思う」
目の前の女性が笑う。
「ふふふ、やっぱり貴女は頑固なのね。そう言うと思っていたわ」
たとえ、私が親の愛を与えられずに育ってきたとしても。
普通、を本で読んだことはある。人の話を聞いたこともある。
やる前から、出来ないと思っていては出来ることも出来なくなる。
「私は、貴女の覚悟が聞きたかったのよ。意志が固まったのなら良いわ」
夢は、そこで途切れた。
☆ ☆ ☆
新しい朝が来た。
希望の朝だ。
誰も見たこと無いような花が咲くでしょう。
ん?何か別のものが混じった気がする。まあ良い。
今は朝の6時。起きるのには少し早かった。メラも私が動いたせいで目を覚ましてしまった。
どうしようか考えて、仕方がないから早めに食堂に行くことにする。
廊下で、一人の女性と鉢合わせする。
綺麗な金髪に長い耳。白い肌に華奢な体。
この人は、噂に聞くエルフと言うものだろうか?
「ん?私の顔に何か付いてますか?」
おっと、ついついジーっと見てしまった。
「いえ。所で、貴女も食堂に行くんですか?」
「そうですが……。あ、もしかしてエルフが珍しいんですか?」
そりゃそうだ。
私が召喚されたシーラ聖王国は人間至上主義だったから、エルフや獣人なんて居なかった。正確に言えば居るらしいが、奴隷として劣悪な環境に居るらしい。
「ええ、そうですね。話を聞いたことはありますが、お会いするのは初めてです。なので、折角ですし食堂に行くのであればご一緒にと」
人間以外の生活習慣なんかにも興味がある。噂によると、エルフにはお風呂の習慣があるらしい。
それに、森の中にあるエルフの集落は位置が解りにくい。だから、物見遊山に往くとしても場所を知っておきたい。
「私も丁度食堂にいくところでした。そうですね、私も事情があってこちらに来ているのですし、良い情報が手にはいるかもしれません。こちらこそ、是非一緒に」
食堂には私たち以外に客は居なかった。
厨房の方から、数人の声が聞こえる。
一番奥の四人掛けテーブルに座る。私とメラの反対側にエルフさんが座る感じだ。
しばらく待っていると、厨房からお茶が運ばれてきた。
「私は森の民の成人、シュバリエの末裔のミリアと申します」
「私は行商人のシキ。この子は娘のトロイメライと言います」
お茶を一口飲む。薄い。
「シキさんは行商人なのか。どんな商品を扱っているんだ?」
「特に決まってないです。世間の情勢を見て、売れそうな物を売りさばいています」
「なら、今穀物が少ない理由はわかるか?われわれ森の民は少々事情があって穀物が足りていないんだが、街には在庫が殆どないと言われてしまって……」
「なら、私の商品を融通しましょうか?穀物なら馬車に沢山ありますので」
なるほど、何故穀物が高く売れるのかがわかった。
人間は戦争で、エルフは不作か何かで穀物が足りていないんだ。だから、需要と供給の需要の方が高くなり、値上がりしている。
話によると、私が買った後で一気に上がったらしい。買いすぎただろうか?
「おお、それはありがたい。さて、私達の話が終わったところで、貴女の聞きたいことは何かな?と言っても、答えられないこともあるかもしれないが……」
何を聞こうか?
一番興味があるのはお風呂、その次は食事だ。
「お風呂の話ですね。それと、食べ物についても」
そう言うと、ミリアさんはとても驚いたような顔をした。
「ん?我々の秘薬の製法とかじゃ無いのか?てっきりそちらを聞かれると思ったのだが……」
エルフの秘薬。
飲めばどんな傷も癒し、疲労すら取り払うと言う薬だ。
生産量が少なく、しかもエルフの里での有事の際のために殆どが貯蓄されるため、世に殆ど出回らない一品。
まあ、冒険者や家族が病気の人間は欲しがるだろうが、私からしてみたらどうでも良い。
「いえ、そちらはどうでも良いので」
「ど、どうでも……?本当に秘薬の話じゃなくても良いのか?食生活や風呂なんて、今聞かなくても良いと思うが……」
いや、むしろ使い道のない秘薬の話の方がどうでも良い。
「ま、まあ、貴女がそれで良いなら良いのだが……。まずは風呂の話からだ……」
少し長かったので端的に纏めると、
①風呂は、日本のように湯船に貯めるのではなく、シャワーの様な物らしい。暖かい水を出す木があって、それを利用するらしい。
②食生活は、猪の肉を丸々煮込んで出汁を取り、それを活用するものが多い。菜食主義とか、そう言うことは無いらしい。ただ、家畜などは好まれず、自然の物が好まれる。
纏めてみると、ファンタジーのエルフと言われて思い浮かべるものとは少し違う。
「シキ殿は、商品を我々に売っていただけるのだよな?なら、せっかくだから我々の村に招待をしよう」
「良いのですか?エルフは排他的で、特に人間を好んでいないと聞きますが」
「なに、構わない。我々の恩人だ。それと、そこまで固くならなくても構わない。普通に、ミリアと呼び捨てにしてくれ」
これは嬉しい。
交遊関係は金では買えないものだ。
それに、木々と共存するエルフの村の暮らし方は、メラに良い影響を与えてくれるだろう。
「ありがとう、ミリア。なら、私もシキと呼び捨てにして欲しいわ。この子もメラと呼んでくれて……」
隣のメラを見ると、コクリコクリと船を漕いでいる。
私もミリアも、暫くメラを眺める。
「メラはシキの娘なのだよな?」
「ええ。血の繋がりは無いけれどね」
「そうか。血の繋がりは無くても、本当の親子と変わらない。私も母親に会いたくなってきた」
七時頃になり、食堂が騒がしくなると、メラも自然と目を覚ます。
「さあ、メラ。ご飯を食べたら出発するわよ」
寝ぼけ眼でご飯を食べるメラに言う。
朝食はベーコンエッグとパンだ。パンは酵母のせいか、少し酸っぱい。
三十分ほどかけてゆっくり朝食をとったあと、馬車の用意を始める。
「し、シキ?この馬車って、魔道具だよな?」
「ええ、そうよ」
軽く配線をチェック。車輪で跳ね返った小石が配線を傷つけることがある。直ぐに動かなくなることはないが、山道で突然片方の車輪が動かなくなったら馬車が曲がってしまう。崖に落ちることすらあるかもしれないから、慎重に。
「凄い技術だ……。これは、どこで手に入れたんだ?」
「私が作ったのよ。一時間もあれば作れるわ」
「い、1時間?こんなもの、どこの国でも金貨三十枚は下らないぞ。王族の専用馬車にしたがるだろうな」
「まあ、必要以上に作るつもりはないわ」
最悪、馬車を1台買って魔道具にして売れば金貨二十枚程度の儲けになる。まあ、最後の手段だが。
「さあ、乗って。私は御者台に座るから」
元から二人乗りに設計しちゃったせいで、三人目は御者台に座る必要がある。
鎧は馬の上に座らせれば良い。
さて、用意もできたし出発だ。
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