二人で過ごす、異世界キャンプ
今回は2600文字程度。
少女との見つめ合いは暫く続いた。
ぐぅ、と少女のお腹が鳴る。なるほど、お腹が空いていたのか。
鍋を渡すように言うと、素直に渡してくる。それを火にくべる。もう一度火を起こし、パンを少し切り串に刺して焼く。
「その燃料の山に、もう一個椅子があるから座って」
私がそう言うと、少女は椅子を出して、私の反対側におそるおそる座る。
まだ信用されてないな~、と思いながら沸騰した鍋からスープを皿に入れ、カリカリに焼けたパンを渡す。
少女はクンクンと少し匂いを嗅いでから、私の手からスープとパンを受けとり食べ始める。
美味しそうに食べる姿を微笑ましく見つめる。まるで小動物を見てる気分だ。
暫くして、少女はパンとスープを食べ終わった。
改めて少女を見るが、結構汚れている。何も考えずに食べ物を食べさせてしまったが、先に綺麗にするべきだった。
とりあえず、広場の噴水で体を洗う。季節的に、風邪を引くことは無いだろう。
先ずは髪の毛。髪は女の命だ。ボサボサになって、血やほこりで汚れているのを、石鹸で丁寧に洗い落とす。なかなか落ちない汚れは持ってきたお湯で洗い落とす。
汚れを取れば、綺麗な銀髪だ。月の青い光で煌めいている。
次は体。ボロ布のような服を脱がせ、スポンジらしきもので丁寧に洗う。
水が表面を柔らかく流れる。きめ細かな白磁のような肌だ。なるべく傷をつけないように、擦るよりも洗い流す事に力を入れる。
十数分かけてやっと終わった。
少し前の、浮浪児のような格好は鳴りを潜め、今は柔らかい綿のような素材の服に身を包んでいる。綺麗な水色のワンピースは、色素の薄い少女にまるで誂えたように似合っている。
まだ少し怯えられている気がするが、最初ほどではない。手を差し出せば、すこしビクッとしたあと、ちゃんと握り返してくれた。
「さあ、夜も遅いしもう寝ましょう」
即席テントの中にはたくさんの布団やタオルを持ち込んである。少女一人増えたところで余裕がある。
寝てる間に刺されたり、と言うことも有るかもしれないが、別に気にしない。むしろ寝ている間なら苦しまなくて済むだろう。
目を閉じながら考える。
今日は色々なことがあった。
まさか到着した街の住人が一人を残して全員死んでいるとは思わなかった。しかも、犯人と思われる少女と一緒に寝ることになるとは。
久しぶりの味のある料理も美味しかった。お酒も少し飲めたし、最後の晩餐だとしても十分だろう。
明日の朝は何を食べようか?
とりあえずチーズは確保してある。元々カビで水分を取り除く食材だし、表面のカビを取り除けば多分食べれるだろう。
パンはまだ残っているし、チーズを焼いて載せるのが良いか。
ふと、左手に重さを感じて目を開ける。
左手を見ると、少女が抱きついている。振り払うのも可哀想だからそのままにする。
暫く見ていると、急に痛みを堪えるような呻き声を出す。どうすれば良いかわからないが、とりあえず右手で頭を撫でる。
一分ほどで収まったが、私の左手には痛いぐらいの力が込められている。
痛いとかそう言うのは慣れているから、意識の外に放り出し、目を閉じる。
さあ、明日は朝から物資漁りだ。死人に物は使えない。私がちゃんと使ってあげることにしよう。
☆ ☆ ☆
朝日が顔に当たって目を覚ます。
左手を見ると、少女が気持ち良さそうに眠っている。
「起きて。もう太陽が昇っているわ」
暫く揺すると、パチリと目を覚ます。
眠そうに目を擦る姿はやはり小動物のようだ。
「さあ、朝御飯の用意をしましょう」
テントから外に出る。
着替えはもう済んでいる。私は緑の長袖に黒い長ズボン。少女には空色のワンピースを着せている。誰に見せるわけでもないが、やはり年頃の女の子はファッションを考えなくては、と考えて選んだ。自分の服は、作業しやすいような奴を適当に選んだ。私は着飾るほどの素材でもないし、誰も見ていないから適当だ。
とりあえず昨日の残りの火に燃料を追加。
適当にチーズを木の棒にのせて暖める。熔けた部分をナイフで削いでパンに乗せる。ハイジのお祖父さん風チーズパンだ。
「火傷しないようにね」
まだお腹が空いているのか、乗っけたそばからどんどん消費されるパン。5、6個食べるとさすがに満腹になったようだが。
私も2枚ほど食べて立ち上がる。
この街の地図らしきものは詰め所から貰って盗んできた。
中心の広場から八方向に伸びる大通りで町は区画割りされている。
北と西は住人が住んでいる『居住区』。
東は商店や宿屋の多い『商業区』。
南は集会所や同業者組合ギルドがあり、政治に関係した『行政区』。
それさえ把握しておけば、略奪が効率良く行えるのは東だと解るだろう。
さて、『奪え、犯せ、殺せ!』がキャッチコピーの盗賊タイムだ。とは言え屍体愛好家ネクロフィリアじゃないから犯さないし、もう死んでるのに殺すことはできないから奪うしかないのだが。
☆ ☆ ☆
日が西に沈もうとしている。
辺りは闇に包まれ、空は少しだけ赤く光っている。
「夜ご飯はシチューで良いかしら?」
少女に確認を取る。
1日商業区で資材を集めてきた。
食料や衣服、石鹸や入れ物、他にも沢山集まった。
一番運が良かったのは、馬車の荷車があったことだ。
馬は縄が切れたのか逃げていたが、四輪の荷車は破損もなく置かれていた。
大きさは四畳程度。多分大きい分類に入ると思う。
私が勇者になるときに貰った能力が魔道具をつくる物で良かった。この馬車を魔改造して自走するようにするなり、適当に動力を別に用意するなりすればある程度の量の物を運べる。
「気をつけて食べなさいね」
そんなことを考えている間に料理が完成した。
とは言っても小麦粉をバターとミルクで炒めて、野菜や肉を入れた簡単なものだ。でも、それだけのことで美味しくなるのがシチューだ。
煮込むだけで美味しく、野菜と肉をバランス良く取れる。しかも、パンにもご飯にも合う。放浪者の見方だ。
冷ましながらゆっくりと、でも美味しそうに食べる少女。
可愛い。とても可愛い。まるで娘が出来たようだ。
食後は、お湯を鍋に沸かして暖かい濡れタオルをつくる。
少女の服を脱がせ、丁寧に拭く。お風呂がないが、毎日水に浸かるのも嫌なのでこれで我慢する。体を清潔に保つならこれでも十分だ。
私は1日動き回ったが、少女はどちらかと言えば付いてきただけだからそこまで汚れていない。
少女が終わったら自分の番だ。
掃除をする人間が消えて久しいのか、店も民家もほんの少しだが埃が積もっている。そのせいか髪の毛が汚くなってしまっていた。
自分も一通り終わったので、さっさと着替えてテントに入る。
少女も私に続いて入る。
布団に入ると、少女はすぐに眠ってしまった。
私は何故か寝付きが悪い。昨日もそうだった。風の吹く音や水音で何故か目が冴えてしまう。
暫く目を閉じてじっとしてみる。すると、左腕にまた重みを感じる。
そこには昨日と同じように少女が、魘されているように私の腕に強く抱きついている。
暫く頭を撫でると、少し力が弱まる。
そんなことをやっているうちに、だんだんと眠気がやって来る。それに逆らわず、少しずつ体の力を抜いていく。
さあ、明日も早い。さっさと寝てしまおう。
思いの外早く書き上がりました。
このペースのまませめて2章辺りまで終わらせたい……
2018 6/28 一部修正