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始まりは死の街で

 今回は2000字程度です。

 毎回これと同じか、少し多いか少ない程度で投稿します。


 国を追い出されて三千里。


 異世界に訪ねる母もなく、もとの世界の母とも会いたくない。


 何をすることもなく、歩いている。


 渡された金貨五十枚は使うことも出来ない。


 銀貨百枚分、銅貨十万枚分の貨幣は、日本円で例えるなら一枚百万円だ。本来なら都会の両替商に銀貨と交換してもらい使うのか普通な金貨は、田舎の村で使おうとしてもお釣りが足りない。


 お釣りは要らないから、と言っても相手は受け取らない。そんな出所もわからない怪しい金なんて受け取らない。



 食べるものも飲むものも自然の恵みから。


 川があれば予備の水筒を含めた入れ物に汲み、魔道具の、矢の要らない弓を使って動物を仕留めて食べる。


 捌き方なんぞ分からない。


 内臓は見た目も臭いも食べる気にならなかった。骨に何度も引っ掻けながら、何とかナイフで肉を切り出し、調味料も何もないから素焼き。


 塩なんて海が近くにないこの辺りでは取ることは出来ない。



 一口噛むと、堅い肉が私の歯を押し返す。中からは肉汁と呼ぶのも烏滸がましいほどのエグみの汁が出てくる。


 ただ美味しくない肉を無理矢理噛みきる。それを水で喉に流し込む。口の中には苦味とほんの少しの塩分とベタつく油を残した。


 豚や牛などの家畜は食べるために品種改良されている。それに対して、野兎は品種改良なんてされていない。様々なものから逃げ回り、ペットの兎とは全く別種のように筋肉が筋張っている。


 すぐ側に首だけの兎が口や断面から生乾いた血を流しながら転がる。生気を無くした瞳がじっと私を見つめる。


 この兎は生きて居たかったのだろうか?私が足に矢を撃ち込んだときには、必死に逃げようとしていた。多分生存本能だろう。


 じゃあ、私はどうなのだろうか?この兎のように足に矢を撃ち込まれたら。逃げるのだろうか?それとも黙って殺されるのだろうか?


 どうせ死ぬなら苦しまずに死にたい。この兎のように足を撃ち抜かれるなんて御免だ。



 数日ほど歩くと偶然にも大きな街にたどり着いた。


 20mを越える壁に頑丈そうな門。



「この街なら両替商も居るかしら?」



 生きるにしても死ぬにしても、味のしない臭みの強い肉を食べるのはもう飽きた。せめて塩、欲を言うなら胡椒も欲しい。


 兎の肉を焼いただけの物は酷い味だった。


 食べるのを止めれば良いかと何度も考えたが、飢え死には辛そうだ。死ぬとしても、出来れば苦しまなくて良いようにササッと首を飛ばすとかして欲しい。


 しかし、街が何か不自然な気がする。


 日が傾いているとはいえ、まだ3時だ。出入りの商人が居てもおかしくないし、それどころか門すら開いていない。



「不自然ね。戦争中かしら?」



 それなら良い。適当に紛れ込めばうまく殺して貰えるだろう。



 しかし、そうでもなさそうだ。


 そう判断した理由は匂い。


 血の臭いがする。兎を捌いたときのような、鉄の臭いだ。


 これはもしかしたら全滅パターンか、中で殺人パーティーが起こってるかどちらかだろうか。


 人の死体は疫病の元になる。


 腐れば異臭を放つし、見た目も宜しくない。まともな神経をしている人間であれば、埋葬なりする筈だ。


 それがされていないと言うことは、できる人間が居ない、もしくは死体が出来上がってすぐなのかどちらかだ。


 どちらにせよ、私には関係のない話だ。


 中に入って殺されたらそれでおしまい。殺されなければそれはそれ。今死ぬか今度死ぬかの違いしかない。


 さて、吉凶どちらに転ぶか。


 そんなことを考えながら歩いていると、門の前に到着した。



 ☆ ☆ ☆



 酷い有り様だ。


 門番の兵士は死体になっていた。


 しかも、堂々と前から首を刺されている。顔は苦痛でひきつっている。


 駐屯所の連絡口を通って中に入る。一応、門の明け方もわかるが、馬車でもないのにそれをする必要はない。


 しかし、駐屯所の反対側でも兵士が殺されている。


 扉を開けて外を見ると、あまりの光景に暫く唖然とした。



 死体、死体、死体。


 右にも左にも前にも沢山の死体が転がっている。


 道を歩いていた人びと、家の中に居た人びと。誰もが平等に死体となって殺されている。


 どの時間にこの虐殺が起こったのかは解らないが、少し乾いた血や、カサカサした死体の表面から既に数日が経過していることが解る。



「さて、どうしたものかしら?」



 さっきから視線を感じる。


 悪意を持ったものではない。どちらかと言えば警戒されている。


 しかし、どうすることも出来ないから放置する。


 どうやら生きている人間はその視線以外には存在しないようだ。


 資源は沢山ある。持ち主はこの世に居ない。つまり取り放題だ。


 しかし、もう夕方だ。


 最低限の食べ物、毛布や布類を集めて、一纏めにする。


 死体をどかさないといけない。衛生的にも見た目的にも良くない。臭いも酷い。


 大通りを少し進むと、大きな十字路に出る。血や死体が少ない。


 道の上に布を五枚ほど敷き、さらに棒を組んで簡易的なテントを建てる。


 これで風を防ぐことができる。それに、地球ではキャンプをしたことがない。知識は有るが、ワクワクする。


 家の壁を叩き壊し、集める。更に、布を集めてくる。


 火を起こし、鍋でお湯を沸かす。お茶用に鉄のコップで一杯掬い、残ったお湯に干し肉と干からびた野菜を放り込み、塩と胡椒を使って味付けをする。


 一時間ほど煮込んだだろうか。軽く灰汁を取り、器によそう。


 カビていなかった硬いパンを浸けて食べる。



「美味しい……」



 久しぶりの味のある食べ物だ。塩の効いた干し肉は煮込まれたことによって味がましになっているし、逆に野菜には味がついている。酵母のせいか酸っぱいパンも、そう言うものだと思って食べればむしろ食パンより美味しい。


 鍋に蓋をして、火から外す。椅子を側に置き、酒場から貰ってきた瓶を開け、ドライフルーツを入れたコップに注ぐ。


 お酒を片手に暫く火を世話する。


 やがてやって来る眠気に抵抗せずに微睡んでいると、カタンと物音がして目を覚ます。


 物音のした方を見ると、そこには血まみれの少女が居た。


 血やほこりや土で薄汚れた少女。年齢は10歳程で、ボロボロの布を纏っている。しかし、それも血で汚れている。


 少女は鍋の蓋を持ったまま私を見ている。


 負けじと私も見つめ返す。



 パチン、と焚き火が弾けた。



 そのうち召喚前の主人公の話や召喚されて直ぐの話も書きます。


 2018 6/14 一部修正

 2018 6/28 一部修正

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