勇者九条と勇者黒井
お久しぶりです。
勇者九条。
魔法の勇者だ。
あらゆる魔法への適正と、大量の魔力。それが彼の能力の正体だ。
私はまだ魔法を無効化する術を持たない。
私自身が魔法を使うことが出来ないことが大きな要因となっている。
私が彼とまともに打ち合うことは出来ない。
メラと共に行動するようになってから、私は彼らと敵対した時の事を考えていた。
どうすれば勝てるか。どうすれば負けないか。どうすれば殺せるか。
守るべき家族がいるのだから、私は悪鬼にも羅刹にもなろう。
「さて、九条君。私と貴方で戦ったら私は負けるでしょう。でも、それは1対1なら。悪いけど、貴方に負けるつもりはないわ」
こちらを見て呆然としている九条君に声を掛ける。
「おい、勇者の癖に腰抜けか?たかが女子供にあの程度の鎧なんて、物の数でもねぇぞ!」
「おう!」
九条君を無視して周りの兵士は剣を抜いている。
逃げ帰った兵士は居ないのだろうか?
「よし、お前ら!剣は抜いたな?そこの腰抜け勇者様に勝ち戦を教えてやれ!」
『応!』
兵士達が隊列を揃えることもなく我先にと走ってくる。
私の鎧は数が少ないから、隊列を崩して襲ってくる方がむしろ効果的だ。まあ、彼らはそれを意図しては居ないだろうが。
「あの真ん中の女は上玉だ!一番鎧を倒したやつのもんだ!」
ゲスいな。
それにしても……
「私が上玉か……。ふふ、少し嬉しいわね」
「お姉様!?喜んでる場合ではありません!」
「上玉って何~?リンゴのこと~?」
鎧を着こんだ兵士は遅い。走ってるとはいえ、あまり進んでいるようには見えない。
さてと。
彼らはメラとミリアに剣を向けた。つまり敵だ。
私の家族に剣を向けるのだから覚悟は出来ているのだろう。
慈悲も敬意も恩情も要らない。
「殺しなさい」
情報を引き出す必要は無いだろう。拷問はしない。そういう意味では先日のエルフ達は不幸だった。
鎧達は背中の板のような長剣と十歳の子供程度の大きさの盾を軽々と片手で抜く。
一部の鎧はさらに巨大な両手剣や盾の代わりにもう一本の剣を抜いている。内訳としては盾と剣が15、二刀流が4、両手剣が1だ。
通常装備の剣は長さ2mほど。重さは100㎏程度と普通の人間には扱えない。盾に至っては150㎏を越えるだろう。
大剣は長さ3m。まるで鉄骨のような鉄の板を鈍く研いだ、叩き折るための剣。
それぞれの剣や盾自体が魔道具になっていて、魔法分解や飛刃が付与されている。
「うわああああああ!」
「ぐあっ、腕が!」
鏖す。まさにその言葉がぴったりと当てはまる。
故意的に腕と足を破壊するだけに留めた隊長格の男以外は、まるでダンプカーにでも跳ねられたかのように肉片と化している。
「な、何が……」
九条君の呆然とした声。
隊長格の男は、手足がないのに逃げようともがいている。
さて、九条君。君は敵か、それとも味方か。
「九条君、戦う意思が無いなら危害を加えるつもりはないわ。敵か味方かちゃんと明言してくれるかしら?」
「一応見方のつもりですが……」
「なら、残党狩りは鎧とエルフに任せるわ。中で話をしましょう」
ミリアがエルフの一人に声をかける。
鎧一体にエルフ3体で組む。手元に二体を残し、18方向に進んでもらう。
さてさて。王国の城の中の様子も知りたかった。タイミングが良い。
☆ ☆ ☆
私の家のリビング。
私とメラ、ミリア、九条君がいる。
「さて、事情を聞かせてくれるかしら?」
「例の国王の命令です。評判がさらに下がって焦ったのか、エルフの奴隷でも振り撒きたかったんだと思います。俺は予想外の事が起こったときの対応のために送り込まれました」
「なるほどね。相変わらずのようね。姫様の苦労している顔が見えるわ」
「全くです。それで、そちらの状況はどんな感じですか?」
「ああ、紹介を忘れてたわ。この子はトロイメライ。私の娘よ」
お茶をふーふーしていたメラが九条君の方を向いてちょろっと頭を下げる。
メラの人見知りも結構治ったかな?
「む、娘ですか?まあ、四季さんは美人なので予想できないことでは無いですが……」
「血は繋がってないわ。それで、こっちがミリア。私の妹よ」
「ミリアだ。よろしく頼む」
九条君がさらに驚いた顔をする。
「い、妹ですか……?まあ四季さんは美人なので予想できないことでは……、予想できないですよ!」
「ふふ、ミリアとも血は繋がってないわ」
あたふたする九条君を見るのがたのしい。
「えっと、僕はどうなるんでしょうか……?」
「血祭りにあげたりはしないから安心して。解放しちゃって良いわよね?」
「ああ、お姉様がそうしたいならそうしてくれ。彼らを撃退したのも勇者を捕虜にしたのもお姉様だからな」
「なら解放するわ。王様には私のことは教えなくて良いわ。皆にもよろしくお願いするわね」
「わかりました。俺も四季さんが無事で良かったです」
「あ、あと……」
お茶をのみ、立ち上がりかけた九条君に声をかける。
「子供が出来たら、ちゃんと責任を取りなさいね。さもないと、私は貴方を何よりも酷い方法で殺すわ」
伊織ちゃんには私のようになって欲しくはない。
子供を作る覚悟もなく男女が一晩を共にしてはいけない。
相手だけではなく、生まれる子供も愛せる自信が無いのならやらなければ良い。
幸いにも、この世界にも避妊魔法のようなものもあるようだから、万が一の子とは起こらないだろうが。
「は、はいっ!」
今度こそ、と立ち上がった九条君が立ち去る。
さて、私達も見送りの準備をしないと。
☆ ☆ ☆
「九条君は馬には乗れるのかしら?」
「はい、一応練習はしていますから」
「そう」
誰かが国へ送る必要は無いようだ。
「それでは、四季さん。王にはエルフの抵抗により全員が死んだと伝えておきますね。他の皆には四季さんのことを伝えても良いですよね?」
「ええ。皆にもよろしく頼むわ。私はそろそろ別の国へ移動するから」
九条君が馬の向きを変える。
「四季さん、国に帰ってくるつもりはないんですか?」
「無いわ」
即答する。メラの故郷はメラを虐げていた。あの街だけの風習なら良いが、国の習慣であったりするならばまたメラが辛い思いをしなければいけなくなる。
私がそれをどうにかすることは出来る。
しかし、私が居なくなったら?
メラは住み慣れた場所を離れるか、虐げられるのを感受するかのどちらかの選択をしなくてはいけなくなる。
「そうですか。四季さんならそう言うんじゃないかと思いました。でも、いつか皆にも顔を見せてあげてください」
「善処するわ。さあ旅立ちなさい、少年」
軽く馬を押す。
軽快に歩き去る馬と九条君を静かに見送る。
「ふぅ、何とかやることは終わったか?」
「ええ。私達もそろそろ出発しましょう」
少しエルフの里に長居しすぎた。回るところは他にも沢山ある。早々に出発しないと惰性で居着いてしまいそうだ。
「そうか……。お姉様も出発するのか……」
少し寂しそうな顔をするミリア。
私の今の馬車は二人乗りだが、もう一台用意すれば後数人は乗れる。運べる荷物も増えるから、ミリアを連れていくことは問題ない。
でも、ミリアはどう思っているのかがわからない。
族長の娘だ。責任と言うものを理解しているだろうし、私が簡単に口を出していいものではない。
どうするのだろう?
そんなことを考えながら、一日が過ぎ去った。
エルフの里編は次回でおしまいです。
そろそろ魔王ちゃんも出します。
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