ミリアと兄
さて、メラの安全を脅かそうとは、どうしてくれようか?
「なあ、メラの安否は心配じゃないのか?」
「ええ。ちゃんと対策はしているもの」
さて、彼らは何故このような犯行に及んだのか?
誰がこんな計画をしたのか?
まさかゴルゴムの仕業と言うわけでもないだろう。もしそうなのだとしたら、この世界から秘密結社が一つ消滅してしまう。
「えっと、シキ?お前大体の予想はついているんだろ?」
「ええ」
多分首謀者はミリアの兄だろう。
私を脅迫して食料を奪い取って、交渉して手に入れたとかほざくのだろう。
例えば、ミリアとなにかを争ってるのだとすればーー例えば族長の座とかーー私から交渉で無償の援助を勝ち取れたのであれば、有償の援助を依頼したミリアの功績に勝つことができる。
見た感じ、兄よりもミリアの方が支持者が多い。
優秀な妹を持ったことによる苦労だ。本人のどうこう出来る問題ではないから憐れに思う。
でもメラに手を出そうとしたのだから同情はしない。
「えっと、その……」
「何?ミリア」
「あの、兄のやろうとしたことは到底許されることではないが、その、エルフの種族全員の総意では無いんだ……」
「ええ、そうね」
「だから、関係ない人達には手を出さないで欲しいんだ。最悪、連座で私の首まではどうにでもして良いから……」
「あら、私はそんなに血に飢えているように見えるかしら?」
あんなお粗末な襲撃をされた程度で種族単位で滅ぼす気はない。私をどんな非人道的な人間だと思っているのだろう?
「い、いや……。奴等を殺したときの雰囲気が……な?」
失礼な。私は敵には非道かも知れないが、無関係の人間には手は出さない。
「大丈夫よ。もしメラに手でも触れようものなら少しは考えるけど……」
さて、何人襲撃に来ているだろうか?
☆ ☆ ☆
部屋の前に倒れているのは9人。
全員が体をピクピクと痙攣させ、倒れている。
「シキ、これは?」
「非致死性の毒よ。少し多目に投与されているようだから、もしかしたら後遺症は残るかもしれないけど……」
まあ、彼らに後遺症はどうでも良いことだ。
「さて、一人一人椅子に縛って」
用意された九つの椅子に九人が縛り付けられた。
このままだと舌も痙攣して喋れないから、解毒薬を投入する。
正確に言えば、神経の伝達経路をおかしくする毒を、正しく直す薬で中和する。
勿論、本来合わせて使うのは負担が大きく危険だが、まあ関係ない。
「そうだ。ミリア、お風呂の用意をしてくれるかしら?」
「お風呂……?ああ、用意させよう」
「そうじゃなくて、ミリアが用意してくれるかしら?」
「え?いや、そう言うことか、分かった。何時ぐらいだ?」
「夜明け前には終わらせるわ」
ミリアが立ち去ったのを確認する。
メラの部屋には防音をしてあるから問題ない。
「さて、質問したいことがあるのだけど……」
ナイフを一人目の太ももに突き刺す。
悲鳴をあげて悶えるが、縛られていて体は殆ど動かない。
「耳障りね」
悲鳴をあげている一人目の首をナイフで刺す。
暫くすると、動かなくなった。
「次」
二人目の太ももに突き刺す。
先程の惨状を見ていたからか、必死に悲鳴をこらえている。
「それじゃあ、質問の一つ目。首謀者は誰かしら?」
「だ……れが……い……うものか……」
「次」
二人目の両手首を鎧に切り落とさせる。
さすがに堪えられなかったのか、悲鳴をあげる。やがて、動かなくなる。
「三人目ね。さっきと同じ質問よ」
今度は両太ももに突き刺す。
「……い……うもの……」
「次」
今度は片足を切り落とさせる。
不快な程に生暖かい液体が私に掛かる。
「……い……う……もの……か……」
声からして、少女だろう。
「貴女達、黙りしていれば良いと思っているのかしら?」
三本目の薬を投与。
暫くすると不自然にケラケラと笑い始める。
「あらら、灰人になっちゃったわ」
先程の薬は強力な自白剤。自分の内面をさらけ出させる劇薬だ。
まれに、この少女のように『自分の心の中の幸せな世界』を現実に投影し、壊れる人も居る。
「殺す必要もないわね。次」
四人目。
「……次期族長様だ。貴様のような下等生物にあの資源は勿体無いからな。我々が有効に……」
「次」
首が飛んだ。
「貴方達は自分の立場が理解できていないのかしら?言葉遣いには気を付けるべきよ」
別に言葉遣い程度気にしなくてもいいが、しっかりと上下関係を理解させないと。
「さて、二つ目の質問よ」
悲鳴は、朝方まで止まなかった。
☆ ☆ ☆
死体はクリファヌスーーミリアの兄ーーの私室に放り込んだ。
頭がおかしくなった少女は真ん中の木の枝に吊るしてある。
ミリアが少し驚いていたが、メラを傷付けようとしたからだと説明したら納得してくれた。
暖かいシャワーを浴びる。
血と体液と、何か良くわからない不愉快なものが洗い流されていく。
情報を吐かせることは出来たし、個人的な恨みも果たせた。
あとはクリファヌスを処理すれば目的は完了する。
ふと扉をみると、人影がある。
「なあ、シキ。私も入っていいか?」
「ええ。構わないわ」
扉を開けて入ってくる。
メラよりも肌色に近い白い肌。腰までの金髪。瞳は翠。
いつも着ている白い服は勿論脱いでいる。
「悪いな。背中でも流してやろうかと思ったんだが、決心がつかなかった」
そして、私の方を見て固まる。
「……その傷は?」
「別に大したこと無いわ」
「古いな。誰にやられたんだ?」
「私の両親よ。まあ、他にも居るけれど」
「そうか」
私に無言で椅子に座るように促す。
柔らかい泡の感触。ふわふわとした泡は、お湯で立てられたからかとても暖かい。
「綺麗な黒髪だな」
「そうかしら」
「ああ、とても綺麗だ……」
髪を鋤くように指が触る。
「あら、髪も洗ってくれるなんて至れり尽くせりね」
「……ああ。こんなに綺麗なのに血に汚れるなんて勿体無いからな」
シャンプーからはとても良い花の香りがする。
「……辛くは無かったのか?」
「私にとってはそれが普通だったもの。他人と違うことは理解していたわ」
「痛くは、悲しくは無かったのか?」
「痛かったわ。でも、痛みがあるということは生きているということだもの。意味がなくても、必要とされなくてもね」
泡が洗い流される。
背中を伝う水滴が、少しくすぐったい。
「なあ、シキ。メラは……、お前の娘はお前を必要としている」
「ええ」
「生意気かも知れないが、私もシキを大事に思ってる」
「ええ」
「どこにも行ったりしないよな?そんな世界に帰ってしまわないよな?」
「ええ。私にはメラが居るもの。……それに貴女も」
ミリアが抱きついてくる。
背中に感じる温もりは、白い肌には見会わないほど人間味があった。
「妹が出来たみたいね。そういえば、貴女の年齢は?」
「18だ。エルフの寿命は200程度だからまだまだ子供だな」
若いだろうと思っていたが、まさか年下だとは。
「なら本当に妹みたいね」
「そうだな。御姉様と呼んだ方が良いか?」
「貴女の好きなようになさい。私は気にしないから」
「ああ、わかった」
ミリアがお姉様、とモゴモゴとしながら呟く。
「大丈夫。私は、死ぬまで貴女達を見捨てたりはしないわ」
寿命の長いエルフと、十歳以上年下のメラ。
よっぽどのことがない限り、私の方が先に死ぬ。
それまでに、この世界を変えよう。
私の娘が、私の妹が笑って生きていけるような世界に。




