エルフ
馬車は木々の中を走っている。
半分森に埋もれたような道を駆け抜ける。
もう少しで集落に着くらしい。山賊は運の良いことに現れなかった。
周りを見ると、少し明るい緑の葉をつけた木が多い。
「木が変わっただろう?私達の集落は地脈の近くにあるからな。魔力を多く含んだ木が多くなる。杖の材料として最適なんだ」
なるほど。木自体が魔力によって変質しているのか。
この木材で馬車を用意したらとても乗り心地を良くできるだろう。
「ほら、見えてきた。私達の集落だ」
何もないと思い上を見上げると、沢山のツリーハウスがある。
縄ばしごはなく、蔦が木を這っている。
「この森は、低い位置には虫が居るが木の上には虫は飛んでこない。だから木の上に家を建てているんだ」
マラリアの多い熱帯雨林で聞いたことのある話だ。
「我々は自然と調和することを良しとし、無益な殺生を好まないし、自分達のために環境を大きく改編することを良しとしない。人間の街には、基本的に動物避けの魔法があるが、我々は高い木の上に家をたてることによって動物や虫をよけているんだ」
なるほど。
暫くメラと景色を見る。
緑の葉の中に隠れて家が見える。窓ガラスは無い。虫が入ってこないし、風も木に阻まれて吹き込んでこないからか。
ペイン、と音をたてて目の前に飛んできた矢が斬られる。
驚いて前を見ると、向こうの木の上に弓を持ったエルフの男性が一人。矢を斬ったのは馬に乗った鎧だ。
「ここはエルフの里だ。欲にまみれた俗人が入って良い場所ではない!立ち去れ」
弓に二本目の矢をつがえている。
「兄上、この人達はエルフに食べ物を売りに来てくれたんだ!」
馬車の中からミリアが言う。
「我々は誇り高いエルフの血族だ!人間の助けなど要るものか」
「誇りのために民に死ねと言うのですか!?」
「それもそうだな。よし、馬車を置いて今すぐに去れ。食糧は我々が貰ってやる」
なんかうざそうな男だ。
ミリアに視線で帰って良いか伺う。
「すまない……。兄上は少しばかりアホでな。皆のために、それだけは勘弁してくれないか?」
ミリアも苦労しているのだろう。
「誇りだけでは腹は膨れないわ。でも、自尊心は膨れる。あれは、誇りを棄てて生き残るのではなく、誇りと共に死ぬ者よ」
死して捕虜の辱しめを受けず。
死より恥を恐れる昔の日本人によく似ている。
「本人だけなら良いのだが、他人を巻き込むから始末に負えないんだ」
自分の理想を他人に押し付ける人は嫌われる。
しかも、自分が正しいと信じて疑わないから何度言ってもやめない。
社会によくいるダメな上司の典型例だ。
「取り合えず、長老に話をつけよう。きっともてなしてくれる筈だ」
☆ ☆ ☆
到着したのはひときわ大きな木だ。
屋久杉よりも大きい。大体直径二十メートル程だろうか?
地面から十メートル程度のところに洞があり、幹に階段のように枝が打ち込まれている。
「長老。ミリア、ただいま帰還しました」
中は思ったほど大きくない。
大体直径十メートルの円形の空間だ。
中心には大きな椅子があり、髭の長い老人が座っている。。その前にはいくつかの座布団が置かれている。
「そこに座ってくれ」
座布団に座る。隣を見ると、メラが見よう見まねで正座をしている。
ミリアは老人の隣へ。
「お爺様、このお二人が食糧を持ってきてくれた商人です」
老人が髭に隠された口を開く。
「ミチコや、ご飯はまだかね?」
ミリアがずっこけた。
「お爺様、永眠させてあげましょうか?」
ミリアが壁に飾られていた大きな剣を老人の首に突きつける。
あの感じからして、たぶんボケてない。
「お客人が来たときはふざけないで欲しいって何度も言いましたよね!?」
「ミリア、落ち着いて」
そう言うと、ミリアもさすがに剣を置く。
「はぁ、客人が来てるんですからマトモにしててくださいね」
「わかっておる。それじゃあ、仕切り直しじゃ」
柏手をポンと打つと雰囲気が変わる。
さっきまでの孫と戯れる老人の雰囲気は影を潜め、エルフと言う種族を纏める年長者の貫禄がにじみ出していた。
「儂の名はグリーディール・リ・マ・デイリー。エルフの長老じゃ。人族の勇者よ、我々の危機に対しての援助、ありがたく思う。謝礼として、そは何を求める?」
「お風呂、と言うものを見てみたく思います。あと、こちらの食事を食べてみたいと思っております」
そう言うと、何故か驚いたような顔をする。
長老にミリアが耳打ちする。何て言っているのかは聞こえない。
暫くすると、突然笑い出す。
「ふぉっふぉっ!面白いぞ人間。霊薬も霊樹も興味がないと申すか!よし、夕食の用意をしよう。風呂も手配しよう!」
良くわからないが食事とお風呂は体験できるらしい。
「さて、お祖父様の許可も出たから案内しよう」
ミリアが手招きする。
視点戻ります。
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