五人の勇者と始めの王国
「四季さんは今どうしてるんだろう?」
俺、九条宗二が呟く。
一ヶ月前、この国に六人の日本人が召喚された。
九条宗二。
島田伊織。
三島麟太郎。
二条院陽香。
柴田林之助。
そして、黒井四季。
俺と伊織、麟太郎と陽香は高校生。四季さんは社会人の24歳、柴田さんは49歳だ。
この国は魔族との前線がある。現在は戦争中で、不利になった人間の戦線を立て直すために俺たちは召喚された。
☆ ☆ ☆
「暑いな」
四畳半の私室。クーラーは故障し、夏の光は部屋の気温を青天井に上昇させていた。
俺は、いわゆるオタクだ。
クラスカーストは最底辺。そもそも、コミュニケーションが苦手で運動神経も悪い俺に友人なんて居ない。
それだけなら良いのだが、もちろん高校にもいじめは存在する。進学校である故か、ストレスの多い学生はそれの捌け口を求める。
要するに、いじめられて引きこもっていた。
幸いにも勉強は得意で、テストの時だけ学校に行っているが、上位20位を落としたことはない。
五の並んだ成績表を見せているから、親に表立って何か言われることはないが、あまり良い顔はされていない。
外に出ることも多々あるが、ご近所の視線は良いものではない。彼らに成績表を見せたら少しは態度が変わるだろうか?
まあ、そんなはずはない。
人とは、社会からずれた人間を排斥したがる。敵が居ることによって隣人と仲良くできる。キリストも汝隣人を愛せと言ったが、隣人以外を愛せとは言っていない。
この場合の隣人とは社会一般の人間であり、そこから外れた人間は魔女裁判で殺される。
「はあ、どうすれば良いんだろうな?」
どうせなら、どっかの物語みたいに異世界に召喚でもされて、勇者にでもなりたい。
いや、それでも駄目だろうな。外面を取り繕っても人の本質は形を変えない。俺は一生こんなもんだろう。
そんなことを考えていた俺は、周りの景色が変わっていることに気がつかなかった。
☆ ☆ ☆
「よくぞ来てくださいました!」
目の前には白いドレスにティアラの少女。まるで物語のお姫様だ。
横を見ると、俺以外には五人の男女。
キラキラしたイケメンと社会の荒波に揉まれたような中年男性。眼鏡お下げの黒髪の委員長に金髪のお嬢様見たいな少女、そして20代後半の背の高い女性。
まるで異世界召喚もののような、いや、まさに異世界召喚ものだった。
六人は、それぞれ一つ特技を持っていた。
俺は魔法。
島田伊織は回復。
三島麟太郎は盾。
二条院陽火は剣。
柴田林之助は政事。
黒井四季は魔道具。
何で俺が魔法なんだ。
こういう流れで良くあるのは盾とか魔道具の特技を持ってて、虐められたりして、何かの事件で死んだことにされて、チートになってハーレム作り上げるとかだろ!
いや、苦労しなくて済んで良かったってことか?
そうだよな。最初からチートって言うのも良くある話だからな。苦労はするよりしない方が良いよな。
でも、調子には乗らない方がいいな。復讐される側にはなりたくない。他の人たちの動向も気にしないと。
そんな心配は杞憂だった。
まず、麟太郎。運動神経が良くて、平然と剣も使えるようになっていた。性格も人当たりも良くて、正統派イケメンって感じだ。
次に柴田林之助。元々は普通の会社員だったらしいが、政事の知識が物凄い。姫様によると、たったの三ヶ月で政事は三十年分進歩したらしい。
最後に黒井四季。女性最年長と言うことで女子二人に頼りにされていた。姫様も頼りにしていた。と言うか、他の皆も頼りにしていた。
どいつもこいつも普通にチートじゃないか。
特に最年長二人。亀の甲より年の功とは良く言ったものだ。
対応、知識、予測、それらすべてが俺達を遥かに越えている。