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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
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弟 4



 それから、1週間ほどの時が過ぎた。俊次のことは気になっていたけれども、今年のみのりは3年生の授業のみで、1年生の教室へ行くこともない。

 日々の業務で相変わらず忙殺されていて、敢えて時間を見つけて会いに行く…ということも出来ずじまいだった。



――…俊次くんは、ラグビー部に入ってくれたかな…?



 普段仕事をしている時には、他のことに意識が向かないみのりだが、この日の放課後、溜まっていた課題のチェックをしている時、ふとそのことが頭に過った。


 急ぐ仕事ではないこともあって、みのりはほとんど無意識にその手を休め、席を立っていた。古庄の机の周りにたむろしている女子生徒の間を抜けて、職員室を出る。



 もう4月も下旬に差し掛かっている。部活に入る生徒のほとんどは、すでに入部を済ませているだろう。もしかして俊次は、ラグビー部ではなく他の部活に入ってしまっているかもしれない。


 そこまで思いが至ると焦燥感に駆られ、みのりは俊次がラグビー部に入ってくれるよう、何とか説得してみようと思った。『マジでウザい』と思われないように…。



 俊次が1年8組に在籍していることは、名簿を見て確かめていた。

 教室を覗いて見ても、終礼が終わってずいぶん経っているので、生徒もまばらで俊次の姿もなかった。教室の中にいた女の子数人をつかまえて、俊次がどこかの部活に入ったか尋ねてみたけれども、よく知らないようだった。



 ため息をついて、思案に暮れる。1年生の校舎の廊下から中庭を見下ろして、久しぶりの風景を眺めつつ、俊次の姿を探した。


 すると、そこで出くわしたのは、俊次ではなく……伊納だった。



「お!1年生の教室に、何の用?」



 面倒な人物に出会ってしまったと、みのりは心の中で天を仰いだが、念のため伊納にも俊次の所在を訊いてみる。



「ん~?狩野俊次…?どんな子かな?」



と、伊納は8組には授業に行っていないようで、俊次の存在自体を知らなかった。


 みのりはただ頷いて伊納から視線を逸らし、俊次を探すために、職員室とは反対方向へ進路を変えた。



「3年部の仲松さんが、1年生のその生徒に何の用があるの?」



 そして伊納も、予想通り職員室へは戻らず、みのりにまとわりついてくる。



「いえ、ちょっと。部活動のことで…。」



 みのりも無視するわけにもいかないので、言葉少なに返答だけはしておく。すると、気を良くした伊納は、寄り添って一緒に歩き始めた。



「ね!それより、一緒に食事に行く件。どうしよっか?どうせなら、食事の後に、飲みに行きたいよね。」



 またこの話題が出てきて、みのりは本当にうんざりする。食事ならまだしも、飲みに行くなんてとんでもない。下心見え見えの、こういう類の男性とは、あまり関わりたくない。



 関わりたくないどころか、現に今、隣で歩いているこの距離感…。どう考えても近すぎる。伊納の肩とみのりの頭がぶつかりそうで、見ようによっては肩を抱かれてるみたいだ。


 みのりはジワリと横に移動し、伊納との距離を空けた。でも、伊納の方も、すかさずその間を詰めてくる。これには、みのりもさすがに身の毛がよだち、その場を逃げ出そうかと思い始める。



「みのりちゃん…!」



 男の子の声がして、後ろから大きな足音が近づいてきたと思った時、みのりの手首は何者かに掴まれていた。


 その人物はみのりの腕を引っぱって、いきなり走り始める。みのりが走りながら振り返ると、伊納が呆気にとられて立ちすくむ姿が、遠ざかっていく。

 それでもまだ、男子生徒と思われる後姿は、みのりの手を握ったまま走り続けた。先に階段を下りていくその後姿に、みのりは見覚えがあった。



「俊次くん!!ちょっと待って、俊次くん!私、そんなに速く走れない!!」



 やっとのことでそう訴え、みのりの足がもつれて転げそうになった時、グラウンドが見渡せる〝あの〟犬走りで、ようやく俊次は止まってくれた。





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