表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
92/199

弟 3




 新年度になると新しい職員も入ってきて、3月のしっくりとなじんだ職員室から一変する。雰囲気も様変わりし、落ち着かなげにざわめいている。


 特に強烈なキャラクターがいたら、なおさらだ。

 こういう人間は、周りに醸し出す雰囲気のようなものがあって、自分を新しい環境に溶け込ませようとはしない。



「仲松先生!」



と、声をかけてきたこの伊納いのうという数学教師もそういう人間だった。



 みのりより2つ年上のこの伊納は、いつもパリッとした三つ揃えのスーツを着て、髪もきちんとセットをし、細部まで身だしなみには気を遣っている。


 古庄ほどではないが容姿も整っており、この伊納から発せられる『どうだ!俺はイケメンだぜ!』というオーラと身のこなし、何と言ってもオトナのオトコの魅力に、多くの女子生徒たちは一目で瞬殺された。



 けれども、みのりが相手ではそうはいかない。

 近づいてきた伊納の黒いスーツに黒っぽいネクタイ、光沢のある黄金色のワイシャツとそれに合わせたポケットチーフ…。そんな姿を見て、みのりは呆気にとられた。



――…なに?この人!?……踏切みたい…!



 黒と黄色のコントラストは、みのりに踏切の警報器を連想させ、到底その目に〝カッコいい〟とは映らなかった。

 それに、いくらオシャレに気を遣っているとはいえ、伊納のこの姿は、まるで夜の街で活躍するホストのようで〝教師〟ではない。



 名前を呼ばれたので、みのりも立ち止まって伊納に目を合わせた。すると、伊納はまるで恋人のようにみのりに近づき、その耳に向かって囁きかける。



「今度、一緒に食事に行こうよ。」



 転任してきた伊納は1年部に配属されていて、3年部のみのりとはほとんど接点がないにもかかわらず、着任早々から顔を合わせれば、こうやって誘いをかけてくる。

 まだ出会ったばかりで打ち解けてもいないのに、いきなりこんなふうに誘うなんて、みのりの感覚では人格を疑ってしまう。でも、逆に出会ったばかりなので、邪険にして人間関係を壊したくもない。


「ええ、また。少し落ち着いたら…。」



 みのりは肩をすくめながら、苦く微笑んだ。今はこうやって、やんわりとかわしておくしかない。



「少し落ち着くっていつ頃かな?3年部って、落ち着くときあるの?」



 それでも、伊納はみのりと関わりを持って打ち解けたいと思っているのか、しつこく食い下がってくる。



――ああ、もう…!マジでウザいんだけど!!



 みのりは、先ほど俊次が言っていたのと同じセリフを心の中でつぶやき、舌打ちした。

 女性なら誰でも自分に気がある…とばかりの伊納の態度には、本当にうんざりくる。



 その時、二人で話をしている目の前を、ちょうどいいことに古庄が通り過ぎていく。



「あっ!古庄先生。」



 伊納から逃れるために、思わずみのりは声をかけた。



「なに?仲松ねえさん。」



 オシャレなどに気を遣わなくても常にカッコいい、ナチュラルなイケメン古庄は、いつも通り爽やかな笑顔と共に振り返る。

 すると、効果覿面。古庄と並ぶと自分は見劣りすると思ったのか、伊納はあっという間に姿を消した。



――お、これは使える…!



 今度から伊納がしつこい時には、古庄をダシに使うことにしようと、みのりはほくそ笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ