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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
誠意と愛情 Ⅱ
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誠意と愛情 9




 みのりと想いが通じ合って、付き合った状態でいたのは一ヶ月足らずだったが、その時のことは彩恵と一緒にいた数か月間のことよりも、鮮明に思い出せる。


 思えば、彩恵といた時のように常に神経を研ぎ澄ませて気を遣うようなこともなく、気まずい気持ちで謝ることも、ワガママで困らせられることもなかった。


 それどころか、みのりは常に遼太郎の気持ちを先回りして察し、優しい言葉や励ましをくれた。

 心地よい空気で包み込まれて、柔らかく笑ってくれるとき、愛しさが募って同じものをみのりへと返したいと思った。


 みのりは遼太郎の全てを否定することなく、何でも受け容れて共有してくれた。ラグビーに夢中になる遼太郎を暖かく見守り、自分もラグビーについて知り、好きになってくれた。

 きっとみのりならば、ラグビースクールのコーチの話だって、自分のことのように喜んでくれたに違いない。



 自分を好きだと言ってくれるのは同じなのに、どうして彩恵は自分の全てを共有しようとしてくれなかったのだろう…。

 同じ女性なのに、「好き」という想い方は違うのだろうか…?



 そんなことをただ漠然と考えていた時、遼太郎の記憶の中に、かつて聞いたみのりの言葉が響いてきた。



――本当に、心の底から人を好きになったことがある…?



 その問いを反芻したとき、彩恵の自分に対する「好き」は、心の底からのものではなかったと、遼太郎は気が付いた。そして、恋愛に未熟な彩恵自身、それに気づいていないのだろう。



――先生とは、想いの次元が違うんだ…。



 それだけみのりは、彩恵と違って懐が深く、成熟した大人だということなのだろう。


 そんなみのりも、初めてのキスは「気持ち悪かった」と言っていた。きっと色んな失敗や経験を重ねて、本当に人を好きになることが解っていったのだと、遼太郎は想像する。



 みのりはその試練で鍛えられた心で、自分を好きになってくれた…。


 その想いは紛れもなく本物だ。



 そう思うと遼太郎の心は震えたが、同時に、みのりが与えてくれる居心地の良さに浸り、知らない内に甘えていた自分も、彩恵と同じく未熟な存在なんだと痛感する。

 そんな未熟な自分だから、あんなふうに彩恵を傷つけてしまった。



 みのりの想いの深さと自分の未熟さと…。

 それに気づかせてくれただけでも、彩恵には感謝したいと思った。

 それだけではない。この数か月間、彩恵と一緒にいた中で経験できたことはたくさんある。それは、〝みのり〟という優しいぬるま湯に浸かっていては得られなかったことだ。


 遼太郎にそれを教えてくれる代わりに、彩恵は辛い感情を味わわねばならなかった。



――やっぱりちゃんと、茂森さんには謝らないと…。



 東京へ戻って大学が始まったら、真っ先に彩恵に謝ってケジメを付けようと、遼太郎は決心した。





 大学が再開されて、いつものように遼太郎が自転車で登校していると、大学に到着する少し前で、歩いている樫原と出会った。



「狩野くん!明けましておめでとう~♪」



 まるでずっと会っていなかった恋人にでも再会したかのような、樫原の屈託のない嬉しそうな笑顔。



 樫原が走り寄ってきたのと同時に、遼太郎も自転車から降りて歩き出す。



「明けましておめでとう。今年もよろしく。」



 遼太郎がそう言うと、



「…うん!こちらこそよろしく!」



と、樫原はもっと顔を輝かせた。

 そして楽しそうに、気さくな会話を始めてくれる。



「狩野くんは帰省してたんだよね?初詣とか行った?」


「ああ、ラグビー部のOB会で、ウォーミングアップを兼ねて。」


「ウォーミングアップ?」


「高校の近くの神社、階段が100段以上あるから、そこを一気に駆け上がるといい運動になるんだ。」


「なるほど~。」



 そんな会話をしながら、前方に目を移した樫原の視線が、ある場所に止まって動かなくなった。



 大学の正門前で、多くの学生が行き交う中、樫原は足まで止めて視線の先を確かめている。



「どうかした?」



 樫原の不自然な動きが気になった遼太郎も、一緒になって樫原の視線をたどった。




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