誠意と愛情 2
――…茂森さんは、俺のことが信じられないんだ……。
サッカーのゲームをしながら、遼太郎はぼんやりとそう思った。
もっと厳密にいうと、遼太郎からの愛情を感じられないから、それを確かめたがっている。
いくら一緒にいる時間が積み重なっても、遼太郎はただの友達に毛が生えたくらいのポジションから動こうとしない。彩恵からの想いが積もれば積もるほど、満たされない感覚が強くなる。
…多分、『好きだよ』というたった一言を、言ってあげさえすれば、何かにつけて生じる彩恵の苛立ちも収まるのだろう。
だけど、その一言は、シンプルだけれども究極の言葉だ。かつては何度もみのりに囁いていたその言葉だけは、どうしても言えなかった。自分の心を偽れるほどの無感覚さや勇気が、遼太郎には足りなかった。
「…おい!遼太郎!!ボール行ったぞ!なにボーっとしてんだ!」
ゲームに勝つことに躍起になっている佐山の喝に、遼太郎は我に返る。とっさにパスを受け、ドリブルで一人かわすと、フワッと浮くようなシュートを打った。
プレーボーイの肩書の通り、佐山はスポーツにおいても女子の期待を裏切らない。何にでも器用にこなせるのは、何にでも熱中できるからかもしれない。それは、サッカーにおいても然りだった。
遼太郎の存在は、佐山にとっては重要な得点源だ。ラグビーとサッカーの違いこそあれ、どちらも同じフットボール。遼太郎のラグビーで培われた身体能力は、サッカーにおいても遺憾なく発揮されるので、佐山はどんどん遼太郎へとパスを出す。おかげで遼太郎は、この日ハットトリックの大活躍だった。
「狩野くんって…。ラグビーだけじゃなく、サッカーも上手なんだねぇ~。」
樫原はうっとりと、先ほどの遼太郎のシュートを思い浮かべるように視線を宙に漂わせた。
「猛雄、お前。遼太郎ばっか見てて、全然プレーに参加してなかっただろ?」
着替えをしていた手を止め、訝しそうな目つきで、佐山が樫原を振り返った。
「えへへ…。だって、カッコいいんだもん~。」
樫原の熱い視線を背中に感じて、遼太郎はその鍛えられた背筋をそそくさとTシャツで隠した。
樫原のこんな言葉には、あまり深い意味はないのかもしれないが、出会った時に胸囲の大きさを訊かれたことが思い出されて、ゾワゾワと冷や汗が出てくる。
「…転がってきたボールが楕円形じゃないと、一瞬ちょっと戸惑うけどね…。」
遼太郎は、自分の落ち着かなさをごまかすために、そう言って謙遜した。そんな遼太郎をよそ目に、佐山は分析を始める。
「まあ、遼太郎がめちゃくちゃサッカーが上手いことは確かだな。足も速いし、小回りなんかのフットワークもいい。」
「当たり前だよ。狩野くんはラグビーやってたんだから。何でも少しずつかじってるだけで、ちょっと上手な晋ちゃんとは違うよ。」
と樫原は、まるで自分のことのように、遼太郎のことを褒めたたえた。
「猛雄―…。何もやらねーお前に言われたかねーよ。ま、俺だって女の子の声援があれば、もっとテンション上がって活躍できたんだけどなぁ。」
「女の子は関係ないでしょ?狩野くんは鍛えてて、ひょろい晋ちゃんとは体つきからして違うじゃない。」
ピクリと遼太郎の体がこわばった。樫原が男を対象としてないことを、願わずにはいられない。
いつもは樫原のこんな言動を一蹴する佐山も、挑発されてムキになる。
「だったら、野球だとそうはいかねーぞ。俺は、遼太郎よりかっ飛ばせる自信がある!」
「あ!晋ちゃん、言ったね?それじゃ、対決してみてよ。僕、狩野くんがバッドを握るところも見てみたいし♪」
「よし!じゃあ、バッティングセンター行って、対決だ!!いつ行く?」
と、樫原と佐山の間で、勝手に話が決まっていく。
遼太郎は別に異を唱えることもなく、着替えを済ませながら屈託のない二人の会話をただ楽しんだ。