恋の正しさ 2
「みのりちゃん。こんな時どうしたらいいと思う?」
すがるような目で、愛はみのりに訴えかけた。みのりも、そんな愛を見ながら深く息を吐き出して、少し考える。
1年生の宮園のことは全く解らないが、宇津木にしてみたら、愛への想いを試合で戦う原動力にしているのだろう。そうやって気持ちを高揚させて試合に臨めば、思ってもみないような力が発揮できたりもする…。
でも、だからといって愛がそれに流されることはない。試合で勝つことと恋とは関係ない。大事なことは……。
「大事なのは、愛ちゃん自身の気持ちよ。相手のことが好きだったら、その人と付き合えばいいんだから。」
「うん。そうなんだけど、どっちも同じくらい好きだし…。もう、どうしたらいいか……。みのりちゃんは、どっちがいいと思う?」
この問いに、みのりは絶句した。
みのりの感覚では、『同じくらい好き』というのは極めて幼稚な想いでしかなく、突き詰めれば『どっちも好きではない』というのと同じことだった。
だけど、それをダイレクトに伝えてしまうのは、あまりにも厳しすぎる。考えあぐねて、ようやくみのりが口を開いた。
「それは…、愛ちゃんが自分で決めることよ。他人の意見を聞くことじゃないと思うけど。」
突き放すようなみのりの答えに、愛はますます追い詰められた顔をした。
「それは分かってる…、分かってるけど。自分の力だけじゃ、結論が出ないの。ちゃんと告白されたから、ちゃんと考えて応えたいし。」
「うん、ちゃんと向き合って真剣に考えて応えたいと思うのは、偉いと思う。」
みのりはそう言って、二人の男の子に対する愛の誠意を褒めてあげた。すると、愛も少し表情を緩める。
「じゃあ、どっちがいいかは訊かないから、みのりちゃんはこんな状況をどう思う?」
質問の方向が変えられて、みのりは再び考える。
ここで自分の考えを言うことは、愛に影響を与えると分かっているので慎重になった。
けれども、適当な言葉であしらえるような質問ではなく、真剣に向き合って真心でもって答えてあげたいと思った。そして、みのり自身の中にある確かなものを、愛に伝えずにはいられなかった。
「どっちにしよう……なんて選んでるようじゃ、本当に好きになったとは言えないと思うよ。」
「本当に好きになる……」
愛は、みのりの言葉をつぶやいて、それを噛みしめる。
「でも、愛ちゃんはまだ若いから、好きになれそうな人と、付き合ってみるのもいいかもね。一緒にいるうちに、いいところがどんどん見えて、好きになっていくかもしれないし…。そんな経験をする中で、本当に人を好きになることがどんなことなのか解るようになると思うよ。」
「みのりちゃんは大人だし、そんな経験をして、解ってるんだよね?本当に人を好きになるって、どんなふうに好きになることなの?」
「……それは、愛ちゃんが自分で見つけていくことよ。」
「うん、分かってるけど、みのりちゃんの場合はどうなのか、知りたい!」
愛は、椅子から立ち上がらんばかりに身を乗り出した。
真剣な目をした愛にそう訴えられて、みのりもため息を吐き、思いをまとめて口を開く。
「……その人とじゃなきゃ、自分は生きていけない…。自分の一部のように何でも一緒に喜んだり傷ついたりして……。その人の全てを、何の疑いもなく信じて…。自分の命より何より、その人のことが大切で、その人のためなら、自分の人生の全てだって捧げられるくらいの想いを、本当に好きになる…って言うんじゃないかな。」
そんなふうに語りながら、みのりの思考の中に一つの面影が浮かび上がる。
いつもみのりを見下ろして、優しく微笑んでくれていた遼太郎――。
その像がはっきり姿を現すと、みのりの胸に切ない痛みが走る。その痛みに耐えようと唇を噛んで息を止めると、涙が両方の目から零れ落ちた。




