会いたい気持ち、辛い決意 5
夏休みが終わり、遼太郎は再び東京の喧騒の中に身を置くようになった。
遼太郎は講義が終わった後、図書館へ行き、勉強をすることを日課にしていた。それに、図書館へ行けばいろんな新聞も読める。
その日もまだ暑く、西日の射すキャンパスを、遼太郎は図書館へ向かって歩いていた。
「狩野くん!」
突然、張りつめたような声に呼び止められて振り返る。
そこにいたのは、……確か、同じクラスの茂森彩恵という女の子だ。
ただならぬ様子に何事かと、遼太郎が彩恵を凝視すると、彩恵は今度はためらうように切り出した。
「あの…、話したいことがあるんだけど、ちょっといいかな…?」
そう言うと、彩恵は、遼太郎をひんやりとした校舎の陰にまで連れて行った。ちょうどここは木立に目隠しされて、人目に付きにくい。
前にも経験したことのあるようなこのシチュエーションに、遼太郎も何かを感じ取り、心が落ち着かなくなる。
彩恵は改まって遼太郎に向き直り、伏し目がちに話し始めた。
「あのね…、佐山くんから、狩野くんは付き合っている人はいないって聞いて…。それで……。」
自分の予感が当たっていることに、遼太郎は思わず身構える。
「あのっ…私!狩野くんが好きです!…付き合ってくださいっ!!」
彩恵は頭を下げながら、思い切ったように告白した。
何と言って答えたらいいのか戸惑って、遼太郎は絶句する。するとその沈黙に、彩恵はますます焦りの度合いを強めた。
「…狩野くんとはあんまり話したこともないのに、いきなりこんなこと言われても困っちゃうよね?」
沈黙の中で、遼太郎の思考はせめぎ合っていた。
もちろん、好きなのはみのりだけだ。それは遼太郎にとって真理のようなもので、これからも変わることはない。
けれども、この状況をどうするべきか…。彩恵の好意をどう受け止めるべきか…。
あまりにも沈黙が長いので、彩恵はそれを否定的な意味に受け取ったらしい。
影の射した寂しそうな諦めの笑顔を作る。
「…迷惑だったみたいだね。ごめんなさい。…このことは忘れて、今まで通り友達として仲良くしてね。」
そう言って、彩恵はこの話をそれで終わりにしようとした。
「…いや、迷惑じゃないよ。」
突然口を利いた遼太郎を見上げて、彩恵は驚いたような顔をする。
「……え?」
「…うん、いいよ。付き合おう。」
遼太郎の短い答えに、彩恵の表情に歓喜が加わる。
「ホントに?!嬉しい…!ありがとう、狩野くん。」
喜びにほころんだ彩恵の顔を見ながら、遼太郎は決意して心に鎧をまとった。
――……これは、先生から出された宿題だ……!
そう自分に言い聞かせて、遼太郎は辛く苦しい試練の中へと、敢えて一歩を踏み出した。




