会いたい気持ち、辛い決意 3
――先生は、俺が来るのに気がついて、……逃げ出したんだ。俺には会いたくないと思ってるんだ……。
それを自覚すると、遼太郎の中の哀しみが再燃して、爆発しそうになった。唇をきつく噛んで堪えようとしたが、目頭が熱くなって涙がにじむ。
「どういうことだよ?遼ちゃん!!どうして、遼ちゃんが一緒だったら、みのりちゃんに会えないんだ?」
そんな質問を投げかけながら、顔色を変えて二俣が職員室からの階段を駆け下り、追いかけてくる。
「みのりちゃんと何があった?」
察しのいい二俣は、親友の尋常ではない様子を心配し始める。遼太郎の前に回り込んで、その顔を見ると、自分のその心配が取り越し苦労でないことを悟った。
「……先生とは、もう会わないことにしたんだ……。」
「どういうことだよ?!」
二俣は同じ質問を繰り返す。
「俺の…、彼女ではいられない…って言われた。」
「……ウソだ!!だって、あんなに二人とも想い合ってたじゃないか…!」
血相を変えて、二俣は反論した。
その事実を示されると、遼太郎の胸が鋭く貫かれる。痛みに耐えながら、遼太郎はウエイトトレーニングをする器具の横に座り込み、目を閉じた。
二俣も、遼太郎を見守るように、隣にそっと腰を下ろす。
「俺が大学で成長するには、自分は邪魔な存在だ…って、先生は言ってた…。」
遼太郎はそう口を開くと、あの春の日の夕方にみのりから言われたことを、そして別れを告げられたことを、ポツリポツリと説明した。
それを黙って聞いていた二俣は、深いため息を吐いて、ようやく言葉を返した。
「みのりちゃんって……、やっぱり大人なんだな……。普通の女なら、好きな人とはずっと一緒にいたいって思うもんだぜ…。」
遼太郎は顔を上げて、二俣の真面目な顔を見つめた。
大学生になって、子どもから卒業したと思っている遼太郎も二俣も、みのりから見れば、まだまだ子どもだということだ。
「そんなみのりちゃんを好きでい続けたいなら、遼ちゃんも覚悟がいるってことなんだろうな…。けど、その大人のみのりちゃんから本気で好きになってもらえたんだから、遼ちゃんは自信を持っていいと思うぜ。」
励ましになっているのかいないのか……、二俣はそう言って、精いっぱい遼太郎を元気づけようとした。
二俣はスッと立ち上がると、目の前に転がっていたラグビーボールを拾い上げて、グラウンドへ向かって思い切り蹴り上げた。
空中に大きな弧を描いて、ボールは落ち、思ってもみない方へと転がっていく。
「花園予選の決勝戦で、遼ちゃんが最後に見せてくれたあのドロップゴール。俺はあれを見て、『さすが遼ちゃんだ!』って思ったんだぜ。俺がスタンドオフだったら、あのまま攻め続けた挙句、都留山にターンオーバーされてノーサイドだったと思う。何て言うかさ……、遼ちゃんはきっと、そんなふうに状況や物事を読んで、何かを判断したり計画したりすることに向いているんだろうな。」
そう言って二俣はニッコリ笑うと、ボールを拾いに陽炎が立ち上る熱いグラウンドへと走り出た。
そんな二俣の後姿を見ながら、遼太郎は息の詰まるような苦しみからは、少し解放されていることに気が付いていた。
何でも前向きに考えることの出来る二俣の力をもらって、もう一度自分の足元をしっかりと見つめ直せたような気がした。




