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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
ライブの夜
58/199

ライブの夜 2




 ライブは聴衆を熱狂の渦に巻き込んだまま、アンコールも終わり、終演となった。



「晋ちゃん。終わったら、一緒にご飯食べようって言ってたよね?」



 樫原が遼太郎に確認する。


 もう8時を過ぎているが、そう言えば夕食を食べていないことに、遼太郎は気が付いた。本来ならば空腹で死にそうになるはずなのに、それを感じないとは、それほど佐山のステージの衝撃が強かったみたいだ。



「樫原くん。帰るの?一緒にゴハン行かない?」



 同じ環境学部だと言っていた先ほどの女の子たちが、声をかけてきた。

 人懐っこい樫原は、同じクラスの女の子の大部分と友達になっているらしく、とても親しげに話を始める。女の子と一緒にいても、まるで同化してしまって、全く違和感がない。



「狩野くん、彼女たちも一緒に来るって。ちょっと晋ちゃんに連絡入れとかないと。」



 樫原はテキパキと、こういうことには余念がなく、早速スマホを取り出して電話をかけている。



「初めて見たけど、佐山くん、カッコよかったねー。」


「そうそう、普段とは全く違うから、びっくりしちゃった。」



 夜になり幾分涼しくなった街角で、女の子たちのそんなおしゃべりを聞きながら、遼太郎は樫原の電話を終えるのを待った。遼太郎は個人的に、この女の子たちとは親しくないので、こんな時どうすればいいのか困ってしまう。



「ご飯、一緒に行けるなんてラッキーだったね。」


「バンドのメンバーの人たちも来るのかな?」


「うん、どこに行くんだろう?」


「狩野くん、どこに行くのか聞いてる?」



 女の子の一人からいきなり話しかけられて、遼太郎はびっくりして固まってしまった。



 自分は顔も覚えていない女の子なのに、自分の名前を知っていることが気持ち悪い。



「…え、いや、聞いてない。」



 遼太郎は肩をすくめて、首を横に振る。あまりにも素っ気なくすると女子の反感を買いそうなので、それはそれで怖い。



「晋ちゃんがいろいろお店知ってるから。前に『シモキタは俺の庭だ』って言ってたし。」



 電話を終えた樫原が助け舟を出してくれて、遼太郎はホッと胸をなでおろした。



 別に敢えて避けているつもりはないけれども、遼太郎は個人的に女の子と関わるのが苦手だった。もちろん昔から得意だったわけでもない。特に大学に入ってから男女間で隔てなく関わりを持つのが普通になると、なおさら遼太郎のぎこちなさは際立った。


 それでも、気さくな女の子は、こんな遼太郎にも声をかけてくれる。

 それに対していつも、ありがたいような気持ちと迷惑な気持ちが入り混じり、結局あまり乗り気でないような受け答えしかできなかった。



 そんな遼太郎と女の子たちとの間を埋めてくれてたのが、樫原と佐山だった。

 樫原はあの通り、自分も女子と同化できるようなタイプだったし、佐山もプレーボーイと言われるだけあって、まだ十代だというのに女の子の扱いにはソツがなかった。



 それから、樫原と女の子たちの他愛のないおしゃべりを聞きながら佐山を待ち、次第にライブの興奮も冷めてくると、遼太郎も空腹を感じるようになった。

 目が回りそうになったころ、ようやく佐山がバンドの他のメンバーたちと出て来てくれた。



「遼太郎!来てくれて、うれしいよ!!どうだった?俺。」



 ギターを担いだ佐山は真っ先に遼太郎を見つけて駆け寄り、そう言って声をかけてきた。



「うん、本格的でびっくりしたし、男が見てもカッコいいと思ったよ。」



 それを聞いて、佐山は恥ずかしそうに、それでいて満足そうに、



「カッコいい遼太郎からそう言われると、マジでうれしいよ!」



と、ニッコリと笑った。



「佐山くん!私たちも来てるのよー!」



 女の子たちの声が背後から響き、佐山は顔つきを遼太郎に対するものからガラリと女の子仕様に変え、クルリと振り向いた。



「分かってるとも!ステージからも見えてたからね。来てくれて、ありがとう。」


「えー?!ステージから私たちが見えたのー?」


「もちろん、みんな可愛いからすぐに分かったよ。」



 この会話を聞いて、遼太郎の全身に、先ほどとは違った意味で鳥肌が立った。



 よくもまあ、こんな歯の浮くような言葉が出てくるものだと、遼太郎は感心する。佐山は彼女がいるのに、それ以外の女の子のご機嫌をとる必要が、どうしてあるのだろう?



「晋也!どうするんだ?メシ、一緒に行くんなら、早く行こうぜ。腹が減って死にそうだ。」



 バンドのメンバーの一人が、そう言って急かしたので、佐山も肩をすくめておしゃべりをやめ、早速食事に行くことになった。


 「シモキタは俺の庭」と言っていた佐山だが、バンドのメンバーと女の子たち、それと樫原と遼太郎、総勢10人もの人間が予約もなく入れる店がなかなか見つからず、佐山に引き連れられて、あちこち下北沢を放浪して回る。




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