お見合い 9
急いで車のキーを回し、アクセルを踏み込む。一刻も早く、この場所を蓮見の側を離れたかった。早く、自分を解放できる一人きりの場所に行きたかった。
運転をしながら、堪えきれずに顎が震えてくる。涙が溢れてきて視界が歪み、どうにも運転が難しくなって、みのりは車を路側帯に停めた。
「………遼ちゃん……!!」
震える両手で顔を覆い、食いしばった歯の間からその名がこぼれ出てくる。
みのりが自ら繋がりを断ち切ってしまったとはいえ、まだこんなにも好きでたまらない。
心の奥底へ押し込めようとしても、忘れ去ろうとしても、みのりがそうしようとすればするほど、みのりの中の遼太郎の存在は大きくなっていく。
蓮見のような男性に想いをかけられても、何にも増して愛しいと思い、みのりの心に住み続けられるのは遼太郎しかいないと、なおさらに思い知らされる。
辛うじて平静のかたちを保っていたみのりの心は、蓮見の気持ちの負荷に耐えかねて砕け散ってしまった。息もできないくらい、胸が痛くて苦しい。
あのまま当たり障りなく、普通に食事をして帰っていればよかった…。余計な詮索などせずに、蓮見の気持ちを聞き出すきっかけなど作らなければよかった…。
深い後悔が、みのりの全身をじわじわと侵していく。
こんなにも好きな人がいて、結婚する気もないのに蓮見とのお見合いをしてしまった。
遼太郎と別れてまだ1か月しか経っていないのに、お見合いという新しい出会いを求める行為をしてしまっている。
――私って、……どうしようもない女だ……。
自分は、蓮見にも遼太郎にも不実なことをしていると気が付いて、みのりは激しく自分を責めた。
自分自身が嫌でたまらない――。
自分で自分をどうすればいいのか分からない――。
みのりは路肩に停めた暗い車の中で、ただ泣き続けた。
時折、脇を通り抜けていく車のヘッドライトに照らされる。その度に、みのりは自分を奮い起こして家路に着こうとしたが、あまりにも心の闇は深く、どっちに向いて歩きだせばいいのか分からない。
……そのまま混沌とした闇の中で、まだしばらくは動けそうになかった。




