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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
お見合い
52/199

お見合い 5



「大事なのは、年齢よりも相性だと思います。」



 みのりの心の中はまだ乱れていたが、なんとか自然な感じで答えることが出来た。



「そうですか。……よかった。」



 蓮見はみのりの言葉を聞いて、ニッコリと笑った。

 みのりはその笑顔を見て、これまであのカフェで見せてくれていたのは作り笑いだったのだと気が付いた。それほど、この時の笑顔は屈託のない心からのものだった。



――『よかった』って、言われても……。



 みのりは心の中で、困り顔をした。このお見合いの後、断りを入れようと思っているみのりだったが、こんな蓮見の顔を見ると良心がチクチクと痛んだ。


 断るのならば、期待を持たせるようなことは、言わない方がいいのかもしれない。でも、あれがみのりの本心だし、失礼なことを言うわけにもいかない。他にどう言えばよかったのだろう…。


 そんなふうに、あれこれモヤモヤとした思考がみのりの中を充満し始めた頃、車は蓮見が予約を入れていたレストランへと到着した。



 小高い山の中腹にあるこのレストランに、みのりは来たことはなかったが、名前だけは知っているような有名なところだ。


 イタリアンレストランと言っても、みのりが普段女友達と行くようなカジュアルなところではなく、結婚式なども行われることもある格式のある店で、当然予約は必須条件だ。その予約をしても、何か月も待たねばならないということを、かつてみのりは聞いたことがあった。


 急きょ決まったこのお見合いに合わせて、この店が使えるなんて、蓮見はどんなコネを使ったのだろう……?


 そんなみのりの思惑をよそに、蓮見はにこやかにみのりを迎えて、背中を押すように、先に店内へと入れてくれた。


 眼下にまばゆい夜景が、夕闇の中に浮かび上がっている。街の灯りの向こうには、光に縁どられた湾が見渡せ、みのりは思わずその光景に見入ってしまった。


 ガラス張りの窓から、それが一望できる特等席に案内されて、二人は腰を落ち着けた。



「せっかくだからワインでも飲みたいところですが、僕もみのりさんも運転しなきゃいけないので残念ですね。」



 メニューに目を落とす間、蓮見からそう話しかけられる。

 そう言われても、初対面の人間の前で、みのりには酔っぱらう勇気などない。ましてや、身構えてガチガチになっている今のような状態で、『飲みたい』なんて思えるはずもない。



「…ワインを楽しむのは、またの機会にしましょうか。」



――えっ?!またの機会?



 みのりの意識が、その言葉に引っかかる。


 蓮見は、再びこうやって一緒に食事をする機会があることを、期待しているのだろうか……。



 お互い結婚相手を探してお見合いをしているのだから、これから前向きに交際が進んでいくと思うのは、至極当然のことだ。

 そう考えると、今この瞬間でさえ、断る口実を考えている自分が、とても不実な女のように思えてくる。



「…前菜とメインとパスタを、それぞれ選ぶんでしたっけ?」



 これからの展望を話題にしたくないみのりは、たくみに話を変えた。



「ええ。…決まりました?」


「はい。」



 蓮見はウェイターに手を上げて合図をし、注文を始める。

 このスムーズな動作といい、先ほどの店内に迎え入れてくれる時の身のこなしといい、蓮見はその草食系の外見とは裏腹に、こういった状況や女性の扱いにずいぶん慣れているみたいだった。




 それから、食事をしながら、お互いの仕事のことなどの話をした。

 蓮見は何でも、みのりのことについて知りたがった。学校における授業以外の細かい仕事のことや、部活動のこと。


 みのりの専門教科である日本史のこともいろいろと訊いてきたが、蓮見自身も新聞記者ということもあるのだろう、みのりでさえ「えっ!」と驚くようなことも知っていた。

 学校現場の問題点のようなことにまで話が及び、話をしながらみのりは、いささか取材を受けているような気分にさえなった。



 みのりの方は、根ほり葉ほり蓮見に質問することはなかったが、蓮見は自ら自分を語ってくれた。それでも、新聞記者という未知の職業についての話を聞くのはとても面白く、みのりは自然と蓮見の話に引き込まれていった。




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