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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
お見合い
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お見合い 4





「それじゃあ、後はお二人でお食事にでも行かれたらどうですか?」



 御堂夫人からそう言葉を投げかけられて、みのりは固まってしまった。



――ええっ!!?ここで終わりじゃないの?



 ここでの小一時間を我慢すれば解放されると思い込んでいたみのりは、想定外のことに目を瞬かせた。



「はい。隣町のイタリアンレストランに予約を入れてますので、そこで食事をしましょう。」



 蓮見がそう答えながら、みのりへと優しく笑いかける。予約まで入れているなんて、夕食を共にすることは、蓮見は初めから想定していたことみたいだ。


 当然、断れるような雰囲気ではなく、みのりは同意の意味の微笑みを作るしかなかった。



「みのりさんの車は、ここに置いたままでいいからね。」



 御堂夫人はそう言って、自分の仕事はここまでとばかりに、にこやかに送り出してくれた。


 みのりは抗う術もなく、言われるがまま、蓮見の車の助手席へと乗り込んだ。


 夕焼けが空を覆う西へと向かって、車はすべるように走り出す。みのりはバッグを膝の上に置き、その上にきっちりと両手を重ね、体を硬くした。



 この状態はすでに、お見合いではなくデートだ。

 それを意識すると、ますます気分が重たくなる。けれども、その本心は覚られないように、ずっとにこやかにしていなければならない。こんな状態で食事を共にするなんて、いくら料理がおいしくとも、それはまるで拷問のようだ。


 体の底から湧き上がって、口を衝いて出てきそうになる溜息を、みのりは必死で押し殺した。



「……みのりさんのご都合も考えずに、レストランを予約してしまいましたが、もしかしてこの後、何かご予定がありましたか?」



 みのりが浮かない顔をしているのを察知して、運転をしている蓮見が声をかけてきた。



「いえ。何もありません。」



 いっそのこと、ここで引き返せるほどの火急の用事などが入ってくれれば、どんなにいいだろう。



「そうですか。じゃあ、よかった…。お仕事が大変で、お疲れなんじゃないですか?」


「いえ、大丈夫です。連休中は、仕事をしていませんから。」



 御堂夫人がいなくなり、初めて二人だけで会話をすることになって、みのりは気まずさのあまり素っ気ない感じで答えてしまった。



「それじゃあ、申し訳ありませんが、もう少し僕にお付き合いください。そんなに夜遅くならないようにします。」



 それを聞いて、みのりはハッとした。

 蓮見には何の落ち度もないのに、一方的に気を遣わせてしまっている自分が、とても恥ずかしく感じた。



 どんな事情があるにせよ、ここに一緒にいるということは、お互いの立場は対等のはずだ。この後、結婚する意志がなくとも、今この時間だけは、蓮見にも心地よく過ごしてもらわなければならない。……それが、大人の女性の対応というものだ。



――…この人は、職場の同僚よ……。



 みのりはそう思うことにした。職場の同僚だったら、出張先や仕事帰りなどに、共に食事をすることだってある。


 そう思い直すと、幾分気分も軽くなって、みのりは普通の会話くらいはできる感じになった。



「みのりさんは、僕より2つ年上だって聞いていましたが、そんなふうに見えませんね。」



 蓮見から持ち出されたこの話題に、みのりは敏感に反応した。



「えっ……?!私の方が年上なんですか?」



 初めて知るその事実に、みのりは驚きを隠せない。

 お見合いを申し込んでくるくらいだから、自分と同年齢か、蓮見の方が年上だと思い込んでいた。男性で20代だったら、まだ結婚を焦る年齢でもないのに、何を好き好んでお見合いを申し込んできたのだろう。



 それに、蓮見のこの落ち着き方は、どう見ても20代ではない。みのりは一番身近な20代男性の古庄を思い浮かべながら、そう感じていた。



「そうなんですよ。でも、みのりさんは普段高校生に接しているからか、とても若く見える…って言ったら、失礼かな?とにかく、僕よりも年下かと思うくらいです。」


「いえ、私は年相応だと思いますが、蓮見さんの方こそ、とても落ち着いていらっしゃって…とても、私より年下には……。」



「年下の男性は、ダメですか…?」



 会話の中から飛び出してきたその問いに、みのりはグッと言葉を呑み込んでしまった。


 突然、目の前に遼太郎が現れてきたかのような錯覚に、みのりの心臓が跳び上がる。


「年下の男性」が、ダメなはずがない。現に今、意識の大半を占拠しようとしているのは、12歳も年下の男性だ。


 こんな時にもかかわらず、遼太郎の存在は、みのりの体を芯から震えさせる。みのりはギュッとバッグを握りしめて、あらんかぎりの平常心を総動員させて、遼太郎を意識の中から締め出した。




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