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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
お見合い
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お見合い 3




 それから、急きょ日程が調整され、お見合いはみのりが帰省している連休中、みのりが同意をしてから2日後に設定された。


 お見合いと言っても、振袖を着るような堅苦しいものにはしないと申し合わせたが、それでも帰省した時の普段着で会いに行くわけにもいかず、みのりは喜美代にせっつかれて、大急ぎでデパートまで新しい洋服と靴を買いに行った。



 新しい服に袖を通すというのに、みのりの心はちっとも浮き立たない。それどころか、気が重いせいで体に倦怠感が充満し、動くのさえ億劫に感じる。


 昨年、数枚のお見合い写真を見た中で、一番「ヤバい」と思った相手だ。

 会う前から、当たり障りなく断る理由を探して、みのりの頭はいっぱいだった。


 落ち合う場所は、高台にあって眺望が開けたカフェ。白を基調としたすっきりとした印象のこのカフェは、例の酒造メーカーの社長、御堂さんの夫人が経営しているものだった。


 カジュアルなお見合いを…ということで、両親などは伴わず、みのりは一人で自動車に乗りこのカフェに訪れた。何度か顔を合わせたことのある御堂夫人は、カフェの外にまで出て、快くみのりを迎え入れてくれる。



「まあ、みのりさん。お写真よりもずいぶんお綺麗になられて、見違えました!」



と、歯の浮くような言葉を捧げてくれるが、どこまでが本当でどこまでがお世辞なのかよく分からない。


 けれども、この日のみのりは、喜美代とデパートの店員が選んでくれた清楚で男性受けしそうな洋服に身を包み、いつもよりもしっかりとメイクを施して、誰が見てもハッとするように綺麗だった。



 見晴らしのいい窓辺の席へと案内されると、そこにはすでに町長の息子が待っていた。出されている紅茶がずいぶん減っているので、かなり前に到着していたらしい。


 御堂夫人に連れられてきたみのりが、自分の見合い相手だと気が付くと、スッと立ち上がり、丁寧に頭を下げてくれた。

 釣られて、みのりも同じようにお辞儀をする。顔を上げるとパチッと目が合い、その瞬間、町長の息子は眼鏡をかけた顔でニコリと柔らかい笑みを作った。



「みのりさん。こちら、蓮見はすみ桂一けいいちさん。町長さんのご長男だということは、ご存じよね?」


「はい。」



 御堂夫人が紹介してくれたのを受けて、みのりはただ短く答えた。



「桂一さん。こちらは仲松みのりさん。日岡ひおか智徳寺ちとくじのお嬢さんよ。」



 同じようにみのりが紹介されると、蓮見は柔らかい笑顔のまま目を伏せて、軽い会釈をした。


 スラリと長身で、清潔感漂う洗練された感じのイケメンだ。それこそ、お見合い写真で見たよりも、ずっと。



 それからカフェの一角で、御堂夫人も一緒に、少し話をすることになった。カフェは通常営業しているので、他にもお客さんはいるのだが、従業員がそれに対応している。


 御堂夫人は、こういうことに慣れているのだろう。初対面で会話が弾まないだろう二人の間に入って、身の上話をうまく引き出してくれる。



 みのりが大学院を出た後、1年ほど県立史料館に勤め、数年の講師期間を経てから正式採用されて芳野高校で教員をしていることや、現在の仕事の内容や生活のことなど。御堂夫人から質問されることに答えるうちに、みのりは知らず知らずに話してしまっていた。


 会話をする中で、蓮見のこともいろいろと知ることが出来た。慶応大学を出てから、地元の県民新聞社に就職したこと。社会部や政治部の記者として、東京や大阪の支社にも勤務し、昨年地元に戻って、会社の近くに独り暮らししていることなど。



 蓮見は見るからに真面目そうで、典型的な草食系の男だ。柔らかい物腰に接して、きっと優しくていい人なんだろうと、みのりは感じ取った。


 そして、愛想笑いとは裏腹に、心の中で顔をしかめる。



――……困ったな……。



 断る理由が見つけられない…。

 どんな理由があったにせよ、こんな蓮見をねつければかどが立ちそうだ。だからこそ、この蓮見は〝ヤバい〟相手なのだ。




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