表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
高校入試と免許証
5/199

高校入試と免許証 5




「ふっくんは、車で沙希ちゃんとどこへ行く?」



 それとなく、そういう経験のある二俣に訊いてみる。



「うーん、そうだなぁ…。彼女とちょっと遠出って感じで出かけるなら、普通遊園地とか映画とかじゃないか?」



 二俣は大きな目をギョロリとさせ、先ほどとは打ってかわって、真面目に答えてくれた。



「ふーん…。」



 含みのある相づちを打った遼太郎に、二俣は続ける。



「今までは電車で遠出するしかなかったからなぁ。そう考えると、やっぱ遊園地かな。この辺の遊園地は車じゃなきゃ、行けないから。映画は暗闇の中でずっと黙ってないといけないし、面白いのやってなきゃつまんないし。」



――…なるほど…。



と、遼 太郎は心の中でうなった。



 さすが二俣は、中学の時から彼女がいるだけのことはある。言われてみれば「そうだ」とは思うけれども、やはり経験がなければそこまで思いが及ばない。



「よし!今度の休みは、遊園地デートだ!遼ちゃん。」



「…えっ!?」



 二俣の言っていることの意味が解らず、遼太郎は二俣を凝視した。



「どうせ、みのりちゃんと何処に行こうかって考えてたんだろ?いいじゃん、遊園地で。」



 またしても二俣のこの勘の鋭さに、遼太郎は舌を巻く。しかし、二俣が真面目に考えてくれているので、遼太郎の方も真面目に相談する。



「遊園地って、子どもっぽくないかな?」



「うーん。みのりちゃん、大人だからなぁ…。相手が沙希みたいにはいかないか…。」



 二俣も険しい顔になって、眉間にシワを寄せた。



「でもまあ、いいんじゃないか?みのりちゃんが、子どもみたいに遊ぶところも見てみたいだろ?」



 それも一理ある。そんな風に遊ぶみのりは、どんなにか可愛いだろう。



「うーん、それとも、みのりちゃん、歴史オタクだから、城とか遺跡とかの方が喜ぶかな?」



 それを聞いて、遼太郎は思わずプッと笑いを漏らす。


 すでに、城跡には初デートで行っ ている。遼太郎はそのことを思い出して笑ったのに、二俣は自分の言ったことが遼太郎に受けたのだと勘違いした。ニヤリとして、いつものイタズラっ子の顔になった。



「そうだよ。みのりちゃん、歴史好きなんだから、いっそのことシルクロードまで行って来たらどうだ?」



「はぁ?シルクロードって、日本史とは関係ないし、何でいきなりそう言うところが出てくるんだよ?遠すぎて、行けるわけないだろ?」



 顔をしかめて、真剣に答える遼太郎に対して、二俣は面白そうに白い歯を見せて笑いをかみ殺している。



「それが、そうでもないんだな。砂漠を越えていくシルクロードもいいけど、あるじゃないか。橋本町から隣町へ抜ける県道沿いに…。」



 何のことを言っているのか分からない遼太郎は、険しい顔のまま首をかしげた。



 橋本町から隣町へ抜ける県道は、吉田高校から高速道路に乗る時に通るので、ラグビーの試合の時にはバスに揺られながら、いつもその車窓の風景は見ているはずだ。

 隣町へ抜ける峠道には人家などはなく、ましてやシルクロードなんて…。



――…あ…!



 遼太郎の脳裏に、県道沿いに建つ、古めかしく怪しい建物が浮かんできた。そのラブホテルの名前は、確か…「シルクロード」だった。


 それに気が付いた瞬間、遼太郎の顔はゆでダコのように真っ赤になった。どう反応したらいいのか分からなくて、 わなわなと震えて二俣をにらんだ。

 二俣は、そんな素直な遼太郎の反応が面白くてたまらないらしく、声を上げて笑い出した。



「…お前!何考えてんだ…!そんなところ、行ったりするわけないだろ…!?」



 一通り蒸気があがって落ち着いた遼太郎は、二俣をにらんだまま、そう振り絞ると唇を噛んだ。



「嘘だ。いくら遼ちゃんだって、みのりちゃんのことが好きなら、そういうことしたいって思ってるはずだ。」



 またしても、二俣に心の底を見透かされていることに、遼太郎は気づいていた。二俣に言われるまでもなく、そういう願望が自分の中にあることは、遼太郎自身が一番よく知っている。



 文化祭の迷路の中での感触と、みのりのアパートで見たその胸元は、遼太郎の想像力の源となった。

 幾度となく繰り返される遼太郎の空想の中で、服を脱いだみのりは、透き通るほどに白く輝いて、触れることさえも憚られるほど美しかった。



 しかし、実際のみのりに相対すると、そんな自分の妄想が恥ずかしくなってくる。手を繋ぐことを考えただけでも、体が震えて思うように動いてくれない。キスをするときだって、自分が何をしているのか分からないような状態だ。


 そんな状態でみのりに触れても、醜態をさらしてみのりに呆れられるのが落ちだ。

 なによりも、初めて結ばれるのに、街道沿いの

あんなうらぶれたラブホテルにみのりを連れ込むなんて、みのりを侮辱するようなものだと遼太郎は思った。みのりにだけは、そのことばかり考えているような男とは思われたくない。


 それはみのりだけではなく、二俣に対しても同じだ。二俣に言われたことに関しては、やはりすんなりとは肯定できない。いくら親友でも、そこまで自分の心を吐露することはできなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ