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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
新生活
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新生活 5




 入学式を終えた遼太郎の毎日は、めまぐるしかった。

 何事も高校とは勝手が違う大学で、周りに手取り足取り教えてくれる人もいない中で、その生活は始まってしまった。


 第一、大学の敷地内にはいくつも高層の建物があって、講義を受けるためにはどこに行かねばならないのか…というところから迷ってしまう。講義を受けることに際しても、簡単なガイダンスがあっただけで、その取り方も手探り状態だった。


 こんな時、みのりは、分からないことは先輩に訊いたりすればいい…と教えてくれていた。芳野高校の先輩もいるのかもしれない。しかし、その存在自体を把握していないので知り合うことさえできない。

 付属高校から上がってきているわけでもなく、同じ高校から来ている同級生もいない遼太郎には、まだ友達というものがいなかった。



 心が枯れている遼太郎は、友達なんてどうでもいいと思っていた――。

 だが、やはりこういう時、確認し合い相談し合う仲間の必要性を感じ始めていた。



 大学の構内は緑が多く、本当にここが東京の都心だということを忘れてしまうほどだ。遼太郎の通う環境学部は、大学が持ついくつかのキャンパスの中でも一番大きなところで、大学付属の図書館なども同じ敷地内にある。



 緑の葉を茂らせる木々の下、芝生の広場に面したベンチに座って、遼太郎は先ほど売店で買ってきたパンを取り出した。

 本当はこんなパンくらいでは、おやつにもならないのだが、ごった返している大学生協で一人のランチをする気にもならず、こうやってとりあえず空腹をごまかすことにした。



 パンを食べながら、講義の要覧を取り出して、遼太郎はそれぞれの講義の内容を確認する。

 1年生はまだ一般教養が中心で、特に前期は専門の講義は全く入っていないらしい。でも、一般教養と言っても、すべてを取るわけではなく、各分野から自分で選択できるものもあるらしい。



 時間割の提出の期日が迫っているので、早く決めてしまわなければならないのだが、慎重な性質の遼太郎は、まだそれらを決めかねていた。



「あの……、胸囲……。何センチですか?」



「………………えっ?!」



 突然尋ねられて遼太郎が顔を上げると、ベンチの隣に新入生と思しき男子が座っている。



「……え?……胸囲?!……な、何で?」


「いえ、細身に見えるけど、けっこう立派な体格してるなぁ~…って思って。」


「…………!!」



 その言葉を聞いた途端に、遼太郎の全身に鳥肌が立った。



――……こ、コイツは、〝そっち系〟の男に違いない……!!



 そう直感すると、遼太郎はどう対応していいのか分からなかったが、無視するわけにもいかず、ゴクリと口の中のパンを呑み込んだ。



「…さ、さあ?測ったことないから、分からない…。」



 ラグビーをやっていた時には、身長と体重の計測は頻繁にしていたけれども、女性じゃあるまいし、あまり胸囲には頓着がなかった。



「そうだよねぇ。測ったりしないよねぇ~。」



 その男子は、そう言って屈託のない笑顔を見せてくれたが、やはり仕草がナヨっと女っぽい。顔つきも端正でアクがなく色白で、それこそ女の子みたいだ…。


 その男子は会話が途切れても立ち去るわけでもなく、ニコニコとして遼太郎の隣にいる。気色が悪いので、遼太郎の方が場所を変えようとした時、その男子の方から口を開いた。



「僕、樫原かしはら猛雄たけおって言うんだけど、君、担当教官は川谷教授だよね?僕も一緒なんだ。」

 


 新入生はまだゼミには入っていないので、便宜的に学籍番号でクラスを分けられ、学部内の教授や准教授を指導教官として割り当てられていた。



「ああ、そう。俺は狩野遼太郎。よろしく。」



 遼太郎が言葉を返すと、樫原は嬉しそうにいっそう笑顔を輝かせた。

 けれども遼太郎は、そんな笑顔を見ても、嬉しいどころか身の毛がよだってしまう。とても、笑い返せる気分にはなれなかったが、気を良くした樫原はお尻を浮かせ座り直し、遼太郎との距離を縮めた。



「今、講義の要覧見てたよね?もう時間割決めた?よかったら、一緒の講義取らない?」



――……冗談じゃない!勘弁してくれよ!!



 心の中でそう叫んで、遼太郎はベンチを立ちたくなった。けれども、樫原のあまりに罪のない笑顔を見て、無下に邪険な態度も取れなくなった。



「一般教養と言っても、どれを選択していいってわけじゃなくて、やっぱり環境学部の教官が担当している講義を取った方がいいって知ってた?」



 さらに、樫原のこの助言に、遼太郎はピクリと反応する。



「……え。そうなんだ。知らなかったよ。」



「それじゃ、どれでも適当に、自分の好きな科目を取ってるの?ちょっと時間割見せてみて。」



 そう言われて、遼太郎はバッグの中からクリアファイルに挟みこまれた時間割を取り出す。

 それを見せると、樫原はその時間割の問題点を指摘してくれた。もう一度要覧を見直して、かなり時間割を変更させた。そうすると…、結果的には、学部が同じ樫原とは、ほとんど同じ時間割となってしまった。




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