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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
高校入試と免許証
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高校入試と免許証 4




 そこには電光掲示板を見上げる人の群れがあった。


 自動車学校での卒業検定に合格していた遼太郎と二俣は、二人そろって免許センターへと学科の試験を受けに来ていた。

 無事に学科試験に合格していれば、この電光掲示板に受験番号が表示されるはずだ。二人を含める受験者たちは、固唾を呑んで合格発表を待っている。



「遼ちゃん、何番だっけ?」



 二俣が落ち着かなげに遼太郎へと声をかけた。



「俺は、1549番。ふっくんは?」


「俺は、1543番。」



 一緒に来たのに番号が離れているのは、受付をするのに並んでいた際、途中で遼太郎がトイレに行ったためだ。



「1543年って、黒船来航だよな。」



 隣でいきなりそう言い始めた二俣を、遼太郎は信じられないものを見るような顔で見上げる。



「黒船来航は、1853年だろ?」



 遼太郎の指摘に、二俣は大きな目をぎょろりとさせて口を尖らせた。



「そうだっけか。何かなかったっけ、1543年…。」


「1543年は、ポルトガル船の来航。鉄砲伝来だ。」


「そう…!そうだよ、どっちも船が来たんだから似たようなもんだろ。」


「時代が全然違うだろ?300年も違うし。」

「じゃあ、1549年は何があった?チッ、チッ、チッ…。」



 二俣は当てずっぽうで、自分も忘れてしまっていることを遼太郎に質問する。



「その年は、キリスト教の伝来だ。フランシスコ・ザビエルが来たんだよ。」


「おお!すげえじゃん、遼ちゃん!さっすが、愛の力があると違うねぇ~。」


「何言ってんだ。中学生だって知ってることだろ?」



と言いながらも、二俣が何のことを言おうとしているのか察した遼太郎は、顔を赤らめた。



「遼ちゃんがあんなに日本史頑張ってたのは、みのりちゃんのことが好きだったからだろ?」


「あれは、先生から個別指導をしたいって言われて…。」


「みのりちゃんも、遼ちゃんのこと好きだったから熱が入ったんだろうなぁ~。」



 ニヤニヤとして面白そうに、二俣は遼太郎を覗き込んだ。みのりと想いが通じ合ったことを二俣に打ち明けてから、二俣からはこんなふうに幾度となくからかわれていた。



「言っとくけどな。先生の個別指導って、『好き』とかそんな余計なことが頭を過ることも許されないくらい、ものすっごく厳しかったんだぞ。」



と言いつつ遼太郎は、本当は指導の間、すぐ側にいるみのりに対して、何度もド キドキして意識していたことを、二俣には隠していた。



「へぇ~、イチャついてたんじゃないわけか。」



「……!!…俺が、いつ先生とイチャついてたよ!」



 遼太郎の声が本気になってきたので、二俣はクワバラとばかりに肩をすくめて、謝るそぶりを見せた。



 その時、周りの人たちから歓声が上がったので、遼太郎と二俣は顔を上げて電光掲示板へと目をやった。二人して表示された数字を目で追って、自分の番号を探す。



「1543…、1543…。お、やったぁー、俺は合格だぜ!遼ちゃんは?」



 二俣は遼太郎の答えを聞く前に、自分で遼太郎の番号を確認する。



「遼ちゃんも、合格!やったな!」



 二俣にそう言われても、遼太郎は大げさに喜ぶことなくただニッコリと笑った。



――これで、一安心だ…。



 これからはみのりと出かけるときには、自分が運転することができる。


 みのりには、助手席に座ってゆっくりしてもらいたい。そして、いつものように楽しい話をして、明るく優しい笑顔でいてほしい。その笑顔を思い浮かべて、遼太郎の心はキュンと絞られた。



 遼太郎のその思考を遮るように、視界に二俣が入ってくる。



「遼ちゃん、今、みのりちゃんのこと考えてただろ?顔に書いてあるぜ。」


「…え?」



 図星なだけに、どぎまぎとした表情で遼太郎は答えに窮した。



「みのりちゃんと車に乗って、どこかデートに行くことでも妄想してたんだろ?」


「…も、妄想じゃねーよ。」



 眉間に皺を寄せて、遼太郎は二俣を怪訝そうな目で見遣った。二俣は悪びれずに、



「俺は、沙希と一緒にどこに行こっかなぁ~。」



と、さも楽しそうにニッコリと笑う。


 それを聞いて遼太郎は、この前のデートのとき、みのりからある提案をされていたことを思い出した。


『この次に二人でどこかに行くときは、狩野くんが行きたいところへ行こうね』


 ということは、自分がどこに行くかを決めないと、行動が起こせないということだ。


 でも、こういう場合、普通どんなところに行くんだろう…?経験もなければ、そんなことを考えたこともない遼太郎にとって、それは皆目見当もつかないことだった。




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