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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
あなたのためにできること Ⅱ
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あなたのためにできること 7




「好きです…。」



 気が付くと、目の前にあった遼太郎の唇が、みのりの中で繰り返される想いと同じように動いていた。



 その唇がみのりの視界から消え、唇の上に重ねられる。

 そのキスは初めから熱を帯び、それだけでは終わらないという遼太郎の意思を感じさせた。


 力強く抱きしめられたまま、息も吐けないほどの長く深いキスを交わす。一旦唇が離されたときには、みのりはあまりの息苦しさに他のことは何も考えられなくなっていた。

 しかし、みのりに呼吸する猶予も与えず、遼太郎は再び唇を重ねてきた。



「…んっ…。」



 思わずみのりの唇の端から声が漏れる。唇から全身に広がる甘い感覚に耐えようと、みのりは遼太郎のシャツを握りしめた。


 幾度か唇を重ねて、遼太郎はみのりの頭を両手で抱え、頬や額やまぶた、みのりの顔中にキスを繰り返す。

 そして、髪をよけて耳に口づけた時、



「…あっ…!んんっ!」



 みのりは思わず鼻から抜ける甘い声を上げてしまった。



 「遼ちゃん」と優しく呼ぶのとは違う、もちろん授業中や個別指導の時とも違う、聞いたことのない声色。そのみのりの艶のある声は、遼太郎の中の火をさらに燃え盛らせ、その行為に拍車をかけた。



 みのりを玄関のドアへと押し付け、耳から首筋へと唇を滑らせる。首周りのシャーリングを絞る紐を解いて、先ほど目にしたみのりの肩を露わにし、その滑らかさを手のひらと唇で確かめる。


 胸元にキスする遼太郎の唇の感覚に、みのりは大きな吐息を繰り返し、無意識に、



「遼ちゃん…。」



と、うわ言のようにつぶやいた。


 名前を呼ばれて、遼太郎は顔を上げる。熱に浮かされたような目にみのりは見つめられ、その目が近づいて再び唇が重ねられた。



 先ほどよりも欲望がはらんだキスを繰り返しながら、みのりの頬から首筋、肩から胸元へと、たった今唇が辿った通りに今度は遼太郎の手のひらが辿る。

 そして、みのりの胸のふくらみにたどり着き、その柔らかさにそこが胸なのだと感じ取ったとき、みのりの体は新たに加わった感覚に、一瞬こわばった。


 かつて暗闇の迷路の中で体験したことのあるその柔らかさを、今遼太郎は自分の意志でもって確かめている。



「…ぅん…。」



と、遼太郎の唇の下からみのりの声が漏れる。


 その声を聞きながら、遼太郎はみのりを抱き上げて、ベッドへと連れて行こうと思った。

 けれども、みのりの肌は遼太郎を引き寄せる魔力を持っているかのようで、今触れ合っているみのりから、遼太郎は一瞬たりとも唇を離したくなかった。



 その時、ふくよかな胸を優しく包む遼太郎の手が、みのりの手によって引き剥がされた。

 手首に持ち替えられて、無理やりに腕を下ろされる。

 そして、みのりは遼太郎の胸を強く突いて、密着していた二人の間に隙間を作った。



 行為を拒否された遼太郎は、荒くなっている息を呑みこみ、当惑した表情でみのりを見つめた。

 みのりは下を向き、遼太郎と視線を合わせることなく、はだけている胸元を元に戻す。



「……外で待ってる……。」



 みのりは一言短くそう言うと、背中を向けドアを開けて、遼太郎の前から姿を消した。




 遼太郎はすぐにみのりを追ってドアの外に出ようと思ったが、臨戦態勢だった体が反応してしまっていた。

 こんなカッコ悪い姿を、みのりに見せるわけにはいかない。とりあえず、この反応が収まるまでは人目を忍びたかった。



 一人取り残されて、言いようのない動揺が遼太郎に襲い掛かってくる。


 みのりは自分のことを好きでいてくれているはずだ。それに、男と深い関係になるのも初めてではないはずだ。

 それなのに、どうして拒んだりするのだろう…。



――時間がないからかもしれない…。



 素直で健気な遼太郎は、そう思うことにした。でも、もしそうだったら、あまりみのりを待たせるわけにはいかない。

 満たされなかった欲望と心に過った不安を、深呼吸して落ち着ける。



 そして、ようやく遼太郎がドアを開けると、みのりはアパートの通路の手すりに身を預けて、側を流れる川の遠い上流を眺めていた。



「…時間がないのに、すいません。」



 背後から遼太郎が声をかけると、みのりは振り向いて、何もなかったかのように薄く笑みを浮かべた。


 手にあった鍵でドアを施錠し、階段の方へと歩きはじめる。遼太郎はみのりの動きをただ黙って見守り、溜息を一つ吐いてからみのりの後に続いた。




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