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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
切ない心の中
28/199

切ない心の中 1




 泣いていたらしいみのりが気になっていた二俣は、みのりを何とかして笑わせようと必死になった。



「みのりちゃん。みのりちゃん。知ってっか?試合をした後は、穴という穴から砂が出てくるんだぜ!」



 二俣のその言葉に、他のラグビー部員たちからドッと笑いが起こった。



「そうそう、特に今日みたいに砂煙にまみれた時なんかは!」


「家に帰っても、最初に風呂に追いやられるし。」


「洗濯機が泥と砂で壊れる…って、言われたこともあるかな。」



 ラグビー部員たちは、自分たちの汚れ自慢を始める。汚れることを嫌がっている風は全くなく、却ってそれを勲章のように思っているみたいだった。



「遼ちゃんだって、あんなに涼しい顔してっけど、家に帰ると出てくるんだぜ。おぞましいものが…!」



 そう言われて、みのりが疑問に首をひねると同時に、遼太郎の方が眉根を寄せて口を開いた。



「何だよ。おぞましいものって?」


「…真っ黒な、鼻くそ!!」


「ギャハハハ…!!」



 二俣のその一言に反応して、同じ経験のあるラグビー部員たちの更なる大爆笑で、周りは騒然となった。



 底抜けに明るいラグビー部員たちの中で、みのりは釣られて笑顔になる。けれども、心に差した影は、そんなことくらいでは拭い去れるものではなかった。


 二俣は、心の底からみのりが笑っていないことに気が付いて、顔は笑いながら気分は浮かなかった。



 その時、江口から集合の号令がかかり、部員たちは江口を囲んで輪になった。そして江口からの話が終わった後、グラウンドに向かって整列し、礼をして、今日は解散となった。



「先輩!俺らこれからお好み焼きを食いに行こうって言ってるんすけど、一緒にどうですか?」



 礼をした後、荷物のところへ歩く二俣と遼太郎を追いかけてきて、宇津木が声をかけた。



「お前ら…、差し入れをあれだけ食っといて、まだ食うのかよ!それに、こんな砂埃だらけで食いもの屋に行ったら、嫌がられるぜ。」



呆れたような二俣の物言いに、宇津木も極まりが悪いような顔になる。



「…って、俺らも当然食いに行くに決まってんだろ!!なっ?遼ちゃん♪」



と、打って変わって、二俣は同意を求めて遼太郎を振り向いた。しかし、即座にみのりの存在を思い出す。

 遼太郎がこの後、みのりと予定があったかもしれないと気を回した二俣は、遼太郎へと耳打ちした。



「…みのりちゃんも誘えよ…!」



 そう言われても遼太郎は、みのりをそこへ連れて行くと必然的に奢らせることになるのでは…と懸念した。


 しかし、それを懸念するよりも、当のみのりの姿が見当たらない。遼太郎と同時にそれに気づいた二俣が、声を上げた。



「みのりちゃんがいないぜ?まさか、帰ったのか?」



 そう言いながら、マネージャーのところへ、所在を確かめに走って行った。



「…みのりちゃん、用事があるからって帰ったらしい…。」



 戻ってきた二俣は消沈した面持ちで、遼太郎の様子を窺った。


 何も言わずに帰ってしまうなんて、みのりの様子がおかしいのは気のせいではないらしい。

 先ほどのみのりの声の響きを思い出して、遼太郎は後悔で唇を噛んだ。



 遼太郎は自分の感情を二俣に読まれまいと懸命になったが、勘の鋭い二俣には隠しようがなかった。



「…ま、遼ちゃん。とりあえずお好み焼き食いに行こうぜ。話はそれからだ。」



 二俣は、息を抜きながら遼太郎の肩を叩いた。



 できることなら、二俣に自分の中に渦巻いていることの全てを打ち明け、相談したかった。しかし、遼太郎の悩みはあまりにも深く混沌としていて、どれも切り出せるようなものではなかった。





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