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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
練習試合
25/199

練習試合 5



「もうない?…ウソだろ!?」



 数分後、遼太郎が差し入れのところへ行き、人垣をかき分けた時、すでにみのりのおにぎりはなくなってしまっていた。


 密かに楽しみにしていた遼太郎にとって、この落胆は大きい。恨めしそうな顔つきで、チームメイト達を見回す。



「徳井が、5個も6個もアホみたいに食ってたぜ。」



 それを聞いた徳井が跳び上がって、口に入っている物をゴクリと飲み込む。



「…ふ、二俣さんだって、5、6個どころじゃなく食べてたじゃないですか~!ってか、まだ手に持ってるし。」



 徳井も負けじと、二俣が両手に一つずつ持っているおにぎりを指さした。



「よし!それ、よこせ!!」



 遼太郎が迫ってくるのを二俣は察知して、小走りで逃げ出した。そして瞬く間に、両手に持っていたおにぎりは、口の中に消えてなくなっていく。



「ああっ!!」



 遼太郎が落胆の声をあげると、二俣は悪びれずにニンマリと笑って、指に付いたご飯粒もキレイに舐め取った。



「遼ちゃんは、またいつでもみのりちゃんに作ってもらえるじゃんかよ。」



 そう言えば、遼太郎が何も言い返せないことを、二俣は知っている。



「このやろ…!」



 遼太郎はすかさず、二俣の両脇をくすぐった。ここが二俣の弱点ということを、遼太郎は知っている。


「ギャハハハ…!や、やめ…遼ちゃん。まだ他にも差し入れあったぜ。早く行かねーと、なくなっちまう。」



 ラグビー部員たちの尋常でない食欲を知っている遼太郎は、二俣にそう言われてハタと手を止め、もといた所へ踵を返した。



 みのりはそんな姿の遼太郎を見て、自分といる時との違いを感じ、やっぱり高校生なんだなぁ…と、つくづく思う。とてもイキイキしていて楽しそうだ。


 その様子を見て、みのりの胸に、キュッと切ない痛みが再び走った。



「先生も、どうぞ。」



 マネージャーの一人が、楊枝に刺したリンゴを一切れ、みのりのところへ持ってきてくれた。

 そのリンゴを食べ終わらないうちに、



「みのりちゃん。」



と、二俣がみのりの方へと近づいて来た。

 その手にはバナナが2本ほど握られている。

 いつもは仁王立ちする熊を連想するみのりだったが、バナナを食べる二俣を見て、思わず大きなゴリラを思い描いてしまった。



「みのりちゃん。こっち来て、部室見てみて。俺と遼ちゃんとで片付けたんだぜ。」



 得意そうに言う二俣の後を、みのりは笑いをかみ殺しながら付いて行った。



 以前の部室をあまり見たことはなかったけれど、キレイに整理整頓され、掃除が行き届いてるのは一目で分かった。足を踏み入れてみても、運動部の部室特有のスッパイ臭いもしない。



「ここまでするの、すんげえ大変だったんだぜ!隅の方には、10年くらい置かれたままになってるような物もあったりして。」



 バナナを食べながら、二俣は大きな目をさらに大きくして説明する。



「エトちゃんのスパイクなんか、5、6足出てきたしよ~。なっ、遼ちゃん。」



 そう言いながら、戸口に立った遼太郎に目を向けた。

 遼太郎は、目を細めて楽しげな笑みを浮かべ、鼻から息を抜く。


 振り向いて、その笑顔を見たみのりの心臓が、一つ大きく鼓動を打った。こんな風に、遼太郎の些細な仕草にもみのりの胸は感応し、この人のことが好きなんだと改めて自覚する。



「そう言うふっくんだって、やっぱり何足か置きっ放しになってたけど。」



という遼太郎の指摘に、二俣は肩をすくめて聞こえないふりをして、みのりに向かって続ける。



「使えないコンタクトバッグなんかも何個も出てきて、それやら何やらを全部二人で片付けたんだぜ!」



「全部二人で?!それはすごい!ホントにキレイになってるから、ずいぶん頑張ったんだね。」



 みのりがそう言ってあげると、二俣はそれを聞きたかったとばかりに、ニッコリと笑った。



「ま、遼ちゃんに馬車馬のようにこき使われて、練習前にかなり疲れたけど、みのりちゃんにそう言ってもらえれば、頑張った甲斐があったよ。」



と、二俣は相変わらず馴れ馴れしく、みのりと肩を組んだ。みのりも拒むに拒めず、二俣の腕の下で小さくなって笑っている。


 それを見た途端に、遼太郎の表情が険しくなる。その視線を気取った二俣は、クワバラとばかりに両手を上げた。



「邪魔者は消えま~す。」



 ニヤニヤとしながら遼太郎に向かって眉を動かし、一瞥すると、二俣はするりと戸口から出て行った。



 二俣がいなくなってしまった瞬間、二人の間にはぎこちない空気が漂い始める。完全な二人きりだったら、もう少し打ち解けられるのかもしれないけれど、部室の外からは部員たちの楽しげな声が響いて来ていた。




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