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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
宿題の代償 Ⅱ
198/199

「彼氏」と「彼女」 2




「大きな失敗する前に、それに気付けて良かったじゃないか。」



 それを聞いて、佐山は虚をつかれたように顔をあげて、遼太郎に目を合わせる。そして、じっと見つめた後、フッと息を抜いた。



「……そだな。これからは、もう少しマトモな恋愛ができそうだよ。……って、なんで俺が遼太郎に励まされてんだよ?」



 遼太郎は佐山に応えるように、ニコッと笑顔を向ける。

 こうやって心配して来てくれて、励まそうとしてくれている友達の存在を、本当にありがたいと思った。



「そうだ。佐山って、女の知り合いたくさんいるだろ?ちょっと頼みたいことがあるんだけど。」



 薮から棒に、遼太郎からそう切り出されて、佐山は首を傾げる。



「……たくさんって。そりゃ、いなくもないけど。」



 否定をしない佐山に、遼太郎は少し苦笑した。


 佐山のように、女性の扱いに慣れていたならば、もう少し自分の陽菜に対する態度が違っていたならば、こんな状況に陥ることはなかったのかもしれない……。

 今は、何をしても何を思っても、後悔に繋がってしまう。それほど、遼太郎の罪の意識は深かった。




 遼太郎が佐山に頼んだこと。それは、みのりの下着の着替えを代わりに買って来てくれる、女の子を連れてきてもらうことだった。



「だから、私に下着を買ってきてほしいわけね?」



 回りくどい言い方をしてくる遼太郎に対して、佐山が連れてきてくれた女の子〝由加里(ゆかり)〟は、はっきりとした口調で確認した。



「……う、うん。そう、お願いできるかな?」



 少し迷惑そうな由加里に、遼太郎は小さくなって頭を下げる。



「ごめん、遼太郎。いざとなると、こんなヤツしか思い当たらなくて。ガサツなヤツだけど、一応オンナだから。……おい!お前。自分の趣味で買うなよ?遼太郎の彼女のなんだから、ちゃんとオシャレなもの選べよ?」



 佐山からそう釘を刺されて、由加里は怪訝そうな顔つきになって、遼太郎を見返す。



「何?オシャレって?スケスケのエッチな下着を買ってこいってこと?」



「……いや、そんなんじゃなくても……!」



 遼太郎は真っ赤になって、首を横に振った。そんな下着を買って、みのりに渡そうものなら、〝そんなこと〟ばかり考えていると思われそうだ。



「じゃ、サイズ教えてよ。」


「サイズ?」


「そ、サイズ。ブラジャー買うなら、サイズが分からないと買えないじゃん。」


「え……!?」



 そんなこと知るはずもない遼太郎が、困って佐山の顔を見やると、佐山もテキトーなアドバイスをしてくれる。



「ほら、だいたいどのくらいの大きさだったか……思い出してみろよ?」


「……だいたい?」



 と言いながら、みのりの柔らかいそれの感触を思い出そうと、遼太郎は無意識にあたかもそれがそこにあるような手つきをしてみせる。

 佐山と由加里の視線は、遼太郎の両手の動きに釘付けになった。



「…………。」


「……あ!いや、その。」



 遼太郎は焦って赤くなりながら、とっさに両手を背中の後ろに隠す。そして、苦心しながら、言葉を絞り出した。



「君より、少し細身の人なんだけど、胸は君よりひと回りくらい大きいかな……?」



 その説明に、由加里は顔をもっと険しくさせる。



「……。今、地味に、お前は寸胴で魅力がない……って、言われたような気がするんですけど。」


「いや……!別にそんなつもりじゃ!!」



 遼太郎はますます焦って、激しく首を横に振った。ここで、由加里に拗ねられて帰られてしまうと、本当に途方に暮れてしまう。

 すると、それを見かねた佐山が、由加里の肩をポンポンとたたいた。



「『お前は寸胴で魅力がない』……それは、真実なんだからしょうがない。現実を素直に受け入れるためには、他人からはっきり言ってもらえることも必要じゃないか。」



 佐山のフォローは全然慰めにもならず、由加里はますます不穏な顔つきになる。遼太郎が肝を冷やして〝ヤバいな〟と思った瞬間、由加里はパッと花が咲くように笑って見せた。



「さ、冗談はこれくらいにして。サイズも大体わかったから、それじゃ買ってくるね。また電話するから、この辺で待ってて。」



 と言いながら、由加里は手を振って、街の中に消えていく。呆気にとられる遼太郎に、佐山は声をかけた。



「由加里は、近所に住む幼馴染なんだ。兄妹みたいなもんだから信用もできるし、気兼ねせずにこんなことも頼めるんだ。」



 遼太郎は、〝なるほど〟といったふうに頷いた。どうりで、今まで会ったことのある佐山の彼女たちとは感じが違うと思った。由加里の笑顔を見ただけで、その気さくな性格が透けて見えるようだった。


 こんなふうに思ったことを素直に言い合える由加里のような女の子となら、佐山の恋も旨くいくのではないかと遼太郎は思ったが、それを口に出しては言わなかった。



 それから、遼太郎と佐山は、近くのコーヒーショップで由加里を待つことにした。

 その間も、遼太郎は幾度となくため息をつき、落ち着かなかった。佐山と一緒にいても、不安の種が遼太郎を苛んで、その表情を曇らせている。



「……遼太郎の彼女って……、どんな人なんだろうな。そんなに一途にずっと思い続けられる人って……。さっきの説明じゃ、どうやらスタイルも抜群みたいだし。」



 佐山は、遼太郎の気を紛らわせようと、その〝彼女〟の話題を持ち出した。





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