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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
初めてのあとで
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初めてのあとで 3




 焦ったように言い返してくる遼太郎を、みのりは探るようにじっと見つめた。



「な、なんですか?」



 その視線の意味を読み兼ねて、遼太郎は落ち着かなげに問い返す。すると、みのりはもっと目を丸くして口を開いた。



「遼ちゃん。……想像してたの?私のハダカ。」



「え……!?」



 みのりの言葉に、今度は遼太郎の方が火がついたように真っ赤になった。赤くなりながらも、みのりから目も逸らせず、何と言って答えようか言いよどむ。

 しかし、今更恥ずかしがることもないと思い、遼太郎は素直に肯定することにした。



「い、いや、……その。俺も一応、〝健康な18歳の男子〟だったんで。」



 それを聞いて、みのりは遼太郎を覗き込むように首をかしげ、確かめた。



「……18歳って、高校生のとき?」


「はい。先生の授業を受けながら、『服を脱いだら綺麗なんだろうな…』なんて想像してました。」



「は……!」



 みのりは大きな口を開けて、いっそう驚いたような顔を見せる。



「やだ。あのクラスで真面目に授業受けてくれてるのって、遼ちゃんくらいだったのに。その遼ちゃんも、そんな妄想してたの?」



 遼太郎は何も言い返せなくなり、きまり悪そうにいよいよ目を逸らした。



「遼ちゃん……。そんな涼しそうな顔してて、案外スケベなのね……。」



「……ス……!?」



 それを指摘されて、遼太郎も口に手の甲を押し当てて絶句し、そしてもう開き直るしかなくなる。



「そ、そりゃ、俺だってスケベですよ。スケベだから先生をそうやって裸にもするんです。」



「……!!」



 みのりはますます真っ赤になって、胸元を押さえる手に力を込めた。



「もう!服着るんだから。スケベな人は、あっち向いてて!」



 うろたえながら少し怒ったように、みのりがそう言い放つと、遼太郎もしょうがなくベッドに背を向けた。

 シーツが擦れる音がして、みのりが動いている気配を背後に感じる。遼太郎は読みかけの本を読むこともできず、それが終わるのをじっと待つしかない。


 その時、不意にみのりの唇から本心が漏れる。



「……でも。スケベな遼ちゃんも、……好きよ?」



 キュッと胸の痛みを伴いながら、その言葉が遼太郎へと浸み込み、息が止まる。思わず振り向くと、そこにはみのりの白い背中が見え、気づいた時には遼太郎の体は動いていた。

 背後からみのりを抱きすくめ、その耳や首筋に唇を這わせる。


 遼太郎の唇から、甘い感覚がまたみのりの中を駆け抜けて、もう一度抱いてほしくなってくる。けれども、みのりは体を硬くして、遼太郎の抱擁に応えなかった。



「……これ以上触れ合ったら、私帰れなくなる。……きっと、遼ちゃんの側を離れられなくなるわ……。」



 それこそ、仕事も今の自分の立場も何もかも投げ捨てて、遼太郎の側にいるために手段を選ばなくなってしまう。こうやって自制しておかないと、自分を止められなくなる。


 遼太郎は、みのりを抱きしめたまま動かなかった。ただ自分の行動を押し通すように、その腕に力を込めた。



「私、すぐに準備するから、一緒にお昼ゴハン食べに行こ?」



 みのりから諭されるように言われて、遼太郎はしぶしぶその腕の力を緩め、みのりを解放した。


 確かに、このままこの狭いアパートの部屋の中で二人きりでいると、いつまでもその行為に耽ってしまいそうだった。それほど、遼太郎にとってその初めての行為は、甘美で幸福で、快い感覚に満ち溢れていた。


 会えないことに耐えていた時よりも〝好き〟という想いがずっと大きくなって、暴走してしまいそうだった。強すぎるその感情に遼太郎は怖ささえ感じて、キュッと唇を噛んでそれを自分の中に押し込めた。




 アパートの外に出てみると、朝のひんやりした空気が嘘のように、残暑の日射しが照りつけていた。

 二人でランチを食べるのに適当な場所を探して、おもむろに歩き始める。



「ホントに今日、何も用事はなかったの?私が押しかけて来たから、すっぽかしちゃったんじゃないの?」



 並んで歩くみのりが、そう言って気遣ってくれる。



「大丈夫です。何もありません。」



 そう答えながら、遼太郎の頭に今日行われるゼミのミーティングのことがよぎったが、別にこれは強制ではないし、どうしても遼太郎がいる必要のあるものでもない。

 それにとっくに、予定の時刻は過ぎてしまってる。


 遼太郎がスマホを取り出して確認してみると、着信が数件。LINEに「今日は来ないのか?」と佐山から、「風邪でも引いてるの?」と樫原からメッセージも入っていた。



「でも、朝は荷物持って出かけてたでしょ?」



 それでも、みのりはバッタリ出会った時のことが気にかかっているようだ。



「あれは、芳野に帰ろうと思って……、空港へ行くところだったんです。」



「えっ?!芳野に?帰らなきゃいけない用事があったんじゃないの?」


「……芳野に帰って、先生に会いに行こうと思ってました。」


「私に?!」



 それは思いもよらなかったらしく、みのりの旅行カバンを持って寄り添うように歩く遼太郎を、みのりは目を丸くして見上げた。



「ホントは、卒業してきちんと独り立ちしてから会いに行こうって決めてたんですけど、『プロポーズされた』って聞いて、待ってられないって思って……。」



 遼太郎の真意を知り、みのりは立ち止まって遼太郎を見つめ直した。






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