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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
初めてのあとで
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初めてのあとで 1





 深く長いキスの合間に、甘い吐息を漏らしながら遼太郎が囁いた。



「……もう、我慢するのはイヤだ。」



 もう一度熱を帯びたキスを交わした後、今度は力強く断言した。



「もうこれ以上、我慢するのはやめます!」



 そう言うや否や、遼太郎はみのりの手を曳いて居間まで連れてくると、息つく暇もなくそこに置かれているベッドへ、みのりを強引に押し倒した。


 この二年半の間、みのりに会いに行きたいのに会いに行けず、遼太郎は我慢に我慢を重ねてきた。こうやって、やっとみのりに触れることができて、もう遼太郎は自分を抑えることができなくなった。



 驚いて目を丸くしているみのりに覆いかぶさるように、遼太郎は情熱的なキスを再開する。深まっていくキスに、みのりはそのまま流されそうになりながら、自分の置かれている状況に改めて気がついた。



「……ちょ、ちょっと待って。遼ちゃん。」



 遼太郎がみのりの頭を抱えて、頬にまぶたに口づけ始めたので、自由になった唇でみのりは遼太郎を制止した。



「陽菜ちゃんは、どうするの?」



 この期におよんで陽菜のことを持ち出され、水を差された遼太郎は、顔をしかめながら頭をもたげた。



「付き合ってもない長谷川のことは、関係ありません。」



「でも昨日、あなたのことが好きな彼女の前で、ただの先生と生徒のフリしたでしょう?彼女を裏切って……きっと傷つけるわ。」



 たしかにみのりの言うとおりだと、遼太郎も思った。だけど、そんな〝気がかり〟くらいで、遼太郎は今の自分を止められるわけがなかった。



「長谷川を裏切ることよりも、俺はもう、自分の気持ちを裏切ることができないんです。」



 体を起こした遼太郎は、みのりにまたがったまま、そう言いながらシャツを脱ぎ捨てる。


 いきなり目の前に現れた遼太郎の、息を呑むように美しい体。みのりも例に違わず、遼太郎に見入って固まってしまう。


 この芸術品のように美しい体を、かつての遼太郎の彼女たちは知っているのだろうか……。遼太郎はこの体で、どんなふうに彼女たちを抱いたのだろう……。


 そんなことが頭に過ぎった瞬間、みのりの心に言いようのない切なさが立ち込めてくる。



「……まっ、待って!遼ちゃん、ダメなの。……私!」



 みのりの前開きのワンピースのボタンを外していた、遼太郎の手の動きが止まる。遼太郎がみのりを見下ろすと、みのりはワンピースの開かれた胸元を両手で引き寄せて、ギュッとそれを握った。



「私……もう、遼ちゃんの彼女だった二十歳はたちくらいの女の子みたいに、綺麗じゃない。……きっと遼ちゃん、ガッカリするわ。」



 浮かんできた涙で瞳を潤ませながら、みのりは微かに震えていた。たかぶっていた遼太郎も、それを見て表情を緩め、少し恥ずかしそうに笑ってみせる。



「キスだって、先生としかしたことないのに。こんなことするのも、今が初めてです。」


「……わ、私は、……でもっ。」



――初めてじゃない。何人もの男の人と、もう何度もこんなことを……。



 その告白は声にはならず、みのりは心の中でつぶやいた。


 こんなにも純粋に一途に想ってくれる遼太郎…。できることなら、そんな遼太郎には、真っさらな自分を捧げたかった。遼太郎が初めて愛する女性が、若くもなく清らかな自分でもないことを、心の底から申し訳なく思った。



「先生がとても綺麗だってことは、知っています。それとも、……イヤなんですか?」



 何度も遼太郎を制止するみのりを、遼太郎はみのりの頭の両脇に手をついて、じっと見下ろして確かめた。

 その真っすぐ澄んだ目に見つめられると、みのりも自分の心に嘘は付けなくなる。それは、生徒だった遼太郎に対して〝あってはならない〟と、自分の中でずっと否定していた願望だった。



「イヤじゃない。……ずっとこうやって抱いてほしいって思ってた。」



 遼太郎は柔らかく微笑んで、固く握ったみのりの両手にキスをした。みのりも両手を解き、その胸元に遼太郎を迎え入れる。



 肌の上を遼太郎の唇が滑るのとともに、みのりの服が脱がされていく。

 初めての経験に臨む遼太郎は、こういうかたちで女性の体を目にしたことはないはずだ。それを思うと、みのり自身もまるで初めての時のように、遼太郎に全てをさらけ出すのが恥ずかしくなってくる。


 けれども、誰よりも愛しい遼太郎の初めての時を、覚えておきたいと思った。彼がどんなふうに触れて、どんなふうに愛してくれるのか、この体に刻みつけておきたいと思った。



 息つく暇もないほどに早急で、若さに任せた力強く拙い遼太郎の愛撫。みのりはすぐに、その情熱的で激しい愛撫に翻弄され、〝覚えておく〟なんて余裕はなくなった。


 自分が今どんな声をあげて、自分の体がどうなっているのかさえも分からなくなる。「好きです…」と、うわ言のように囁かれる遼太郎の声に、応えることもできなくなる。



「……あぁっ!!」



 そして、ひとつになった瞬間、突然みのりが悲鳴のような声を上げて、遼太郎にしがみついた。


 初めてのことに勝手がわからない遼太郎が、その動きを止めてみのりを覗き込む。



「……先生?……い、痛かったですか?」



 みのりは、久しぶりの感覚……しかも遼太郎の感覚を初めて味わって、いきなり達してしまっていた。






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