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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
夏合宿、恋模様
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夏合宿、恋模様 6



 合宿の最終日は、宿を出て隣町にあるメガソーラーへと向かった。海に面した埋立地に大手企業が建設したこの施設は、日本最大級のものだった。

 見渡す限りに広がっているおびただしい数のソーラーパネルに、遼太郎をはじめゼミ生一同、圧倒されて驚き入る。


 ただただ見聞を広めるのに夢中な遼太郎と、今日もその側にしっかりと寄り添っている陽菜。そんな二人を見る樫原の視線。


 その樫原の心の内が、著しく揺れ動いて変化していることを、遼太郎は少しも気が付くことはなかった。行程がほぼ終わったことに安心して、帰りの飛行機の中では、佐山の隣で爆睡した。




 合宿が終わった後、去年までならすぐさま実家に帰って部活に顔を出していた遼太郎だが、今年はアルバイトをしていることもあり、お盆休みになるまで足止めを食らってしまった。

 お盆前後の1週間、どうにか都合をつけ帰省しても、お盆中は部活も休みになるので、あまり後輩のために貢献はできそうになかった。



 といっても、アルバイトの合間を縫って、夏休みの間に開催されているインターンシップに申し込んだり、就職のためのセミナーに出席したりしていると、夏休みとはいえけっこう忙しい。


 それでも遼太郎は、暇を見つけては大学に足を運んで、課題として出されているレポートに取り組んだり、気になっていることを調べたりと、何もない日にもアパートでゆっくり過ごすことはなかった。



 こんな遼太郎の行動パターンを読んで、同じく大学によく顔を見せたのが、陽菜だった。


 メールなどで連絡を取り合ったりしているわけではないのに、彼女は遼太郎がいる場所に頻繁に現れた。遼太郎がいるのは図書館かゼミ室か…、勘のいい彼女は、大体の目星をつけて遼太郎を探しているらしかった。



 〝健気〟というべきか、〝しつこい〟というべきか。

 元々優しい性質の遼太郎は、そんな陽菜を、邪険にする言葉で無理やりに追い払うことはしなかった。それをいいことに、遼太郎からはほとんど相手にされていないにもかかわらず、陽菜はいつも遼太郎の側でニコニコと楽しそうにしていた。



「ここに座っていいですか?」



 ある時、陽菜が大学生協のランチルームで昼食を食べていた遼太郎に声をかけた。

 食べながら覗いていたスマホから、遼太郎が目を上げると、陽菜がテーブルの向かいの席を指し示している。


 ゼミ室にいた陽菜に気取られないよう、こっそりと生協にやって来たつもりだったのに、遼太郎は目の前に現れた陽菜に面食らった。どうやら陽菜には、敏感に察知するレーダーでも付いているようだ。



 遼太郎は辟易しつつ、何も言わずに肩をすくめた。それを、陽菜は「いいよ」という意味に受け取り、向かいの席に腰かける。



「んー!生協の冷やし中華って、やっぱりおいしー♪」



 麺をすすりながら陽菜が明るい声を上げると、思わず遼太郎はその食べている様子に目をやってしまった。

 すると、陽菜も遼太郎に目を合わせ、ニッコリと笑顔を作った。



 これが陽菜の〝計算〟ならば、遼太郎はまんまとその術中にはまってしまったことになるのだが、そんな陽菜の笑顔を見るたびに、いつも遼太郎は何とも言えない気持ちになった。



――……先生に似ているかも……。



 夏合宿の海水浴の日、そう思い、陽菜を意識した。思い返せば、もっと前、明治神宮に行った時にも、陽菜を見てみのりがそこにいるように感じていた。



 いずれにせよ、この思いに気が付いた時から、遼太郎の中で陽菜に対する感覚が変化していった。



――大学生の時の先生も、こんな感じだったのかな……?



 陽菜を見ると、そんな思いがつい頭をもたげてくる。

 陽菜が笑ったり、首を傾げたり、驚いたり…、何気ない仕草の中に、思わず〝みのり〟を探してしまう。


 もちろんそのたびに、みのりとは似ても似つかないと思い知らされる。しかしその反面、思いも寄らない時に、みのりと同じ要素を感じ取ってしまうことも度々あった。


 陽菜に対して、こんなふうに感じてしまうようになって、もう遼太郎は怪訝そうな態度で接することができなくなった。陽菜のペースに乗せられていくのは自覚していたが、いつの間にか側に来るのを拒むことができなくなってしまっていた。


 そんな遼太郎の変化に応じて、陽菜は巧みに遼太郎の懐深くに入り込んでくる。


 こんなふうに二人が時折、図書館にいたり、ランチをしたり、一緒にいるところが他のゼミ生たちにも目撃され、



「あの二人は付き合っている…」



 そんな噂も囁かれるようになった。






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