夏合宿、恋模様 4
自分の中を、何とも言えない奇妙で独特な感覚が落ちていくのを感じながら、遼太郎はごくごくと飲み物を飲み干し、佐山に答える。
「…そう思うんなら、佐山が長谷川と付き合えばいいじゃないか。お前は俺と違って、女の子を口説くのなんて、お手の物だろ?」
「…ばっ、バカ野郎!なんでお前に夢中な女の子を、俺が口説かなきゃいけないんだよ?!」
佐山は途端に顔が真っ赤になり、躍起になった。
「…狩野さん!!」
その時、そこへ当の陽菜が遼太郎を呼びながら、駆け寄って来る。
さすがの佐山も焦って肝を冷やし、ぎこちなく飲み物を口にして平静を装った。
「あっちでビーチバレーしてるんです。一緒にやりましょう!」
と、遼太郎の腕を引っぱり、明るく誘いをかけてくる。
このまぶしいほどの笑顔とビキニ姿の陽菜には、何も怖いものはないようだ。
陽菜の誘いだと、もちろん気は進まなかったが、楽しい雰囲気をぶち壊したくはない。
遼太郎は心の中でため息をついて、「ビーチバレーは嫌いじゃないし」と、自分で自分をなだめながら立ち上がった。
遼太郎が陽菜に引っ張られていく様は、見ようによっては、腕を組んで仲良く歩いているようにさえ見える。
「いいと思うけどなぁ…陽菜ちゃん。彩恵ちゃんの時と違って、絶対うまくいくと思うけどな。」
独り言のように言った佐山の言葉に、それまで黙って会話を聞くだけだった樫原が反応する。
「そうかな?晋ちゃんが言うほど、あの子、いい女かな?」
そう言う樫原へ、佐山は意外そうに視線を移した。
「…『いい女』っていうのは、ちょっと違うかもしれないけど、いい子だよな。なんたってあの可愛さ、本当にナチュラルで嫌味がないし。」
そう言って陽菜を高評価する佐山に、樫原は険しい目を向けた。
「可愛く見せてるのも、…狩野くんのことも、あの子は計算してるよ。」
樫原を見る佐山の顔つきは、ますます怪訝そうになる。
「……お前、なんか言葉にトゲがないか?」
「トゲがあろうがなかろうが、ホントのことだよ。今だって、あの子、僕や晋ちゃんは誘わずに、狩野くんだけ連れて行ったでしょ?」
「…確かに。でもそれが計算か?」
「あの子、晋ちゃんが言うように頭がいいから、しっかり頭の中で計画を練ってるんだよ。それで、知らないうちに狩野くんを操って、自分のこと好きにさせようとしてるよ。」
「……猛雄。お前、それ、考えすぎだって。そんな腹黒い子が、あんなふうに無邪気に笑えるわけないよ。」
あくまでも陽菜を擁護する佐山に、樫原は業を煮やした。
「晋ちゃんはそんなふうに上っ面に騙されて、女を見る目がないから、いつまでたっても『心から好きになれる子』に出逢えないんだよ。」
「なっ、…何だと!?」
樫原の言動がとうとう許せなくなって、佐山の方もつい声を荒げてしまう。
「とにかく、あんな子と関わってると、狩野くんはきっと厄介なことになるよ。」
これ以上一緒にいると、ケンカになってしまう。それを察した樫原は、そう言い残すと、自分の飲み物を持ってその場を立った。
一人になってしまった佐山は、たった今樫原からなされた指摘が、思ったよりも胸に突き刺さっていることに気が付いていた。
それほど、樫原が言ったことは、痛いくらいに真実を衝いていた。
心から愛しいと思える、運命の人と出逢いたい。
探し求めるようにいろんな女の子と付き合っても、どの子ともしっくりこない。付き合う子の数が増えるほどに、佐山の心には虚しさだけが募っていった。
遼太郎と、樫原と佐山。仲の良い三人組は三者三様、お互いに打ち明けられない恋の悩みを抱えていた。




