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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
夏合宿、恋模様
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夏合宿、恋模様 3



 繰り返す波の動きを楽しみながら、ひとしきり泳いだ遼太郎は、仰向けになって浮かび、青い夏の空を見上げた。


 奇声が聞こえてチラリとそちらを見遣ると、ゼミの女の子たちがビーチバレーをしているようだ。

 その中の陽菜に目が留まり、思わず遼太郎はつぶやく。



「…アレが、可愛いのか…?」



 それは佐山の言葉を受けての、遼太郎の素直な疑問だった。


 陽菜の顔は目が大きく、鼻も口も形がよく整っている。弾けるように屈託なく笑ったら輝くようで、それはそれで可愛いんだろうということは、遼太郎だって否定しない。



 けれども、遼太郎の中にはいつも、何においても超越した確かな存在がある。



「佐山のヤツ…。先生の水着姿を見たら、きっと卒倒するぞ。」



 花が咲くように可愛いだけではない。透き通るように綺麗なのに、そこはかとなく匂い立つような色香もある。それほど遼太郎の中のみのりは、完璧だった。



「…って、俺も先生の水着姿、見たことないけど。」



と、遼太郎は自嘲気味に、自分向かってツッコミを入れた。


 大の字になって浮かび、空を仰いだままみのりのその姿を想像する。

 記憶の中にあるみのりの胸元やその感触を思い出して、陽菜と同じ水着を着たみのりの姿が徐々に形作られてくる…。


 と、その時、不意に大きな波が来て、まともに海水を被ってしまった。一瞬にしてみのりの姿は散っていき、遼太郎は水を飲んで大きくむせかえった。



 やれやれと遼太郎が海の家の休憩所に戻ってきた時、佐山と樫原は既に板間の端に腰を下ろしていた。


 潮騒が聞こえ、海からの風が吹き渡って、心地の良いこの日陰は、何時間でも昼寝をしていたくなるような場所だった。



「狩野くん。コレ、飲み物一人一本、取ってもいいんだって!」



 相変わらず親切な樫原は、そう言ってクーラーボックスを指し示してくれた。

 そこからスポーツ飲料を一つ取り出し、一息つくべく佐山の隣に座った遼太郎に、今度は佐山が口を開く。



「遼太郎、お前が隣に来ると、俺はまるで引き立て役だな。ゴリくないマッチョ!ホント、理想的だよ。」


「…なに言ってんだ。」



 そうやって持ち上げられても、遼太郎は一笑に付して相手にしない。



「おい。お前を見る女子のあの視線に気づいてないのかよ?特に陽菜ちゃん。マジで目がハートになってたぜ?」



「………。」



 女子たちからどんな目で見られようが、それは別に気にするところではないが、陽菜のことを持ち出されたら、歯切れの悪いモヤモヤとした気分が立ち込めてくる。


 何も答えない遼太郎に対して、佐山は更に言葉を続けた。



「陽菜ちゃん。完全にお前のことが好きだと思うけど?付き合ったりしないのかよ?」



 陽菜は、佐山や樫原の前でも、遼太郎への気持ちを隠すことなく振る舞っていたので、佐山も一緒にいればおのずと分かってしまうのだろう。


 遼太郎は深く息を吐いて、ようやく口を開いた。



「好きでもない相手と付き合って、あんな悲惨なことになるのは、もうこりごりだ。」



 1年生の時、彩恵と付き合っている間は決して打ち明けなかった『好きではない』という心の内を、遼太郎は初めて明らかにした。



「陽菜ちゃんは、彩恵ちゃんとは違うぜ?あんなワガママで自分を可愛く見せるためだけに一生懸命な、イタい女じゃないだろ?」



 佐山の方も少し考えた後、初めて彩恵に対する評価を口にした。それを聞いて、遼太郎も薄く苦笑する。



「そう言われても、その気持ちが全く湧かないのに、付き合えないよ。」



 まるで無関心な遼太郎に、佐山は信じられないような視線を向けた。



「どうしてだよ?陽菜ちゃん、俺はいいと思うぜ?そこにいるだけでパッと周りを明るくするみたいに可愛いし、あの笑顔を見たら誰だってドキッとするだろ?それに、あの抜群のスタイル!それだけじゃない。頭も良くて、調査したり計画したりする能力もある。よく気が付くし、気遣いもできる。もうあと何年かしたら、可愛いだけじゃなく、すごく綺麗になるだろうな。」



 手放しに陽菜を褒めたたえる佐山の持論を黙って聞きながら、遼太郎の思考の中には別の人物が浮かんでくる。


 可愛くて綺麗で、スタイルが良くて。まっすぐな心で、優しく献身的で、頭が良くて。


 遼太郎だってそんな人物を、恋い慕わないはずがない。遼太郎の中で、そんな人物はただ一人だった。



 でも、佐山が陽菜に対してこう思うのならば、陽菜はみのりに似ているところがあるのかもしれない。


 そんなふうに思考が展開したとき、遼太郎は内心ハッとした。

 これまでに幾度となく陽菜に対して心がざわめいたり、落ち着かなかったのは、これが原因だったのだと、ようやく遼太郎は自覚した。




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