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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
不本意なデート
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不本意なデート 6




 遼太郎からは再び、疲れたため息が湧き出してくる。陽菜の思惑を想像すると、そのため息はもっともっと深くなる。



 別に、どうしても今日のうちにチケット代を返さなければならないわけでもない。陽菜とは、またゼミ室で会う機会もある。遼太郎はそう思いながら財布をポケットに納めて、おもむろに階段を上がり始めた。


 群衆に半ば押されながら、競技場の正面入口にさしかかった時、このラグビー場のシンボル、ラグビーボールを持った少年像の陰から、ひょっこりと陽菜が顔を出した。


 意表を突かれて、またもや遼太郎は言葉を失う。そんな遼太郎に、陽菜は嬉しそうに満面の笑みを見せた。



「…チケット代の代わりに、夕ご飯、奢って下さい。それなら狩野さんも、納得がいくでしょう?」



「………。」



 チケット代を払わないのも、陽菜に夕食を奢るのも、どちらをするにしても遼太郎としては納得がいかない。ここで、チケット代を払ってさっさと帰りたいのが、遼太郎の本音だった。



 しかし、また大学で会っても、きっと陽菜は逃げ回っていて、結局チケット代を受け取ってくれないだろう。陽菜に奢られたままで、負い目を感じ続けるのも嫌だった。

 陽菜のペースにはまってしまうような気がして釈然としなかったが、遼太郎は頷かざるを得なかった。



「…分かったよ。夕飯を奢ればいいんだな?」



 その遼太郎の一声に、陽菜の笑顔がいっそう輝く。満足そうに一つ頷いてから、ちょこちょこと遼太郎の後を追いかけるように歩き出した。



 夕食を一緒に食べることになったのはいいけれども、時計を確認してもまだ4時過ぎだ。お茶ではなく夕食には、如何せんまだ時間が早すぎるだろう。



「少し歩いて、表参道の方へ行ってみます?」



 陽菜の提案を聞いて、遼太郎はあからさまに嫌な顔をした。いつも後輩に接しているように、陽菜に対しても優しい態度でいたかったが、とてもそんな気分にはなれなかった。



 自分たち二人がきらびやかな表参道に行って、何をして時間を潰すというのだろう。


 遼太郎の中に、かつて彩恵にあちこち連れまわされた〝デート〟と言う苦い記憶が甦ってくる。あれは遼太郎にとって、決して楽しい経験ではなかった。ましてや〝彼女〟でもない陽菜を相手に、そんな我慢を強いられるのはまっぴらだった。



「…ダメ、…ですか?それじゃ、どうしましょう?」



 遼太郎の不機嫌そうな顔を見上げて、陽菜は意気消沈する。けれども、陽菜の提案は、遼太郎に別の思考をもたらした。



「そうだ。表参道を通って…、行ってみたいところがあったんだ。よし、まだ時間も早いから、行ってみよう。」



と、言いながら、陽菜の意思を確かめもせず、遼太郎はおもむろに歩き出す。


 大股の上に早足で歩く遼太郎を、陽菜は慌てて、半分小走りで追いかけ始めた。



「…どこに、行くんですか?」



 しばらく歩いて、表参道に差し掛かった頃、ようやく陽菜が遼太郎に尋ねた。

 声をかけられて、遼太郎がチラリと陽菜へと視線をよこす。



「表参道の先にあるものは?」


「……え?」



 逆に遼太郎から問いかけられて、思わず陽菜の歩く速度が緩む。しかし、遼太郎はそのまま歩き続けるので、陽菜はまた走って追いついた。



「表参道の先は、…原宿?」



 どうやら陽菜の頭の中には、表参道や原宿でショッピングをしたり、遊んだりすることしか浮かんでいないようだ。遼太郎から呆れたような顔をされて、陽菜は少し縮こまった。



「表参道って、明治神宮に通じる道だから、『参道』って言われてるんじゃないのか?」


「ええっ!?それじゃ、これから明治神宮まで行くんですか?!」



「うん、俺はそのつもりだけど、もし君はこの辺で買い物なんかしたいんだったら、時間と場所を決めておいて、後で落ち合ってもいいよ?」



 食事をするまで二人で時間を潰せば、それなりにデートのようなものができると目論んでいた陽菜だが、対照的に遼太郎は、そういう思考は皆無のようだ。しかし、ここで別行動をとってしまっては、今日のためにいろいろ苦労をした意味がなくなる。



「…いや、買い物なんて、しなくていいです。もちろん一緒に行ってみます!…実は、私も明治神宮には行ったことないんです。」



 陽菜のこの返答に、遼太郎は意外そうに陽菜を見下ろした。



「へえ?長谷川さんは、東京の人じゃなかったっけ?」



 遼太郎が少しは自分のことを知っていてくれていることに、陽菜も意外さを感じ、そして嬉しくなった。



「私の家は東京って言っても、立川だから。初詣なんかも、近所の神社に行きますし。都心に出てきても、なかなか行く機会は…。」


「そうだな。普段、友達と遊びに行く所じゃないかもしれないな。」



と言いながら、遼太郎がほのかに笑ってくれた。ほんの少しでも打ち解けてくれた気がして、陽菜はもっと嬉しくなって自然と顔がほころんだ。




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