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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
不本意なデート
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不本意なデート 4




 ラグビー日本代表とニュージーランド代表の試合が行われたのは、梅雨の合間の晴れた日だった。


 ニュージーランド代表は、言わずと知れたオールブラックス。それに対して日本代表は、ブレイブブラッサムズと称される。



 チケットが手に入った経緯には引っかかるものがあったが、この日を待ちわびていた遼太郎は、試合開始時刻よりもずいぶん早くラグビー場へと赴いた。

 試合会場は、花園と並ぶラグビーの聖地、秩父宮ラグビー場。ここに来て、緑の芝生と空へと伸びるゴールポストを目にするだけで、心が躍る。


 それでなくても、世界ランキング1位の絶対王者に、日本が挑むというこの一戦。日本が勝利する望みは薄かったが、オールブラックスが来日し世界最高峰のプレーが目の前で観られるということは、おのずと遼太郎を興奮させた。



 ウォーミングアップをする日本の選手たちの、大きな敵に挑む緊張した面持ちを、メインスタンドから眺める。


 代表のメンバーには、大学生ながら選出されて遼太郎と同じ年齢の選手もいた。高校生の時には、自分と同じ境遇にいて同じように花園をめざしていたはずの彼は、今はどんな大学生活を送っているのだろう…。


 彼のように代表メンバーに選ばれることは、万に一つもないだろうが、もし大学でもラグビーを続けていたならば、自分にはどんな生活が待っていたのだろうと思わなくはない。



 実際、大学に入学した直後、ラグビー部に入部することは頭を過っていた。


 しかし、遼太郎の通う大学も大学選手権などにも出場する強豪校で、生活の全てをラグビーに捧げるくらいの気構えがなければ続けていけないだろうと思った。



 …というより、みのりと別れてしまったショックが大きすぎて、何をする気力も湧かず、何も手に付かない状態だった。



 あれから2年が経って、今では少し冷静に、あの頃の自分を顧みることができるようになった。

 思い返してみて、あんな状態になってしまったのはしょうがないと思う。今でも同じことが起こってしまったら、多分同じようになってしまうだろう。



 ただ、そこから抜け出せて一歩ずつでも前に歩き出すことができた。そして、その歩き出す原動力となったのも、みのりへの尽きることのない想いだった。



「…前へ。前へ!…だな。」



 日本代表の練習を見ながら、遼太郎はつぶやいた。「前へ!」というそれは、ラグビーにおいての合言葉のようなもの。ラグビーもとにかく、ボールを1mでも前へ前へと運ぶことが肝心だ。



 今の自分も前へと進んでいかなければ、あの時別れを選んだみのりの決意が無駄になってしまう。


 いつも前を歩いていたみのりを、一足飛びに追い越してこの腕に抱き留められるように…。とにかく今は、自分の選んだ道を信じて、着実に前に進んでいくしかなかった。



 そんなことを考えている間に、試合開始時刻が近づき、一旦姿を消していた選手たちが華々しい音楽と共に入場してきた。

 観客も起立しての両国の国歌の後、オールブラックスの勇壮な「ハカ」が披露され、いよいよテストマッチが始まった。



 目の前に、本当に本物のオールブラックスがいる…。


 憧れの選手だったスタンドオフのダン・カーターは、もう代表の中にはいなくなってしまったけれど(※)、それでもどの選手のプレーも、ため息の出るほど素晴らしい。遼太郎の胸は、ずっと会いたかった人に逢えたみたいに高鳴って、息をするのも忘れた。



 日本もオールブラックスについてしっかりと対策を練って試合に臨んでいるらしく、最初の20分間くらいは五分五分の試合展開となった。


 絶対的な相手に向かって懸命に喰らいついていく日本の選手たちの姿を見て、遼太郎の心が震える。花園予選の決勝で、常勝の都留山高校に向かっていった自分たちの姿と重なって、その心境までも同化する。



 目の前でプレーする選手たちの一挙手一投足を食い入るように観戦していると、あっという間に前半が終わってしまっていた。



 選手たちがロッカールームに戻ってピッチからいなくなると、遼太郎はホッと息を抜いて、いつの間にか額からにじみ出ていた汗を拭った。




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(※ ダン・カーターはオールブラックスのスタンドオフをしていましたが、2015年のワールドカップを最後に、代表を引退しています)

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