表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
さまよう心
141/199

さまよう心 10



 みのりはもう何も言わずに、二俣の言葉を聞いて首を横に振った。こんなみのりを見て、二俣も業を煮やす。



「何が、『狩野くんのため』だよ?自分が傷つきたくなかったから、ありもしないことを一人で勝手に想像して別れたのかよ?」



 二俣の言っていることは、真実を衝いていた。

 高校を卒業して離れ離れになった恋人たちが別れていく様を、みのりは何度も目の当たりにしていた。自分と遼太郎も、そうなってしまうことを恐れていた。



 大人になって価値観が変わった遼太郎に、捨てられてしまうのが怖かった――。



「『遼ちゃんのため』の一番は、みのりちゃんが寄り添って側にいてやることだろ?みのりちゃんだって本当は、そうしたいって思ってるはずだ!」



 二俣の断言を聞いて、みのりは弾かれたように顔を上げ、二俣を見つめ返す。



「…逃げるなよ、みのりちゃん。ちゃんと自分と向き合って、『怖い』と思うことにも立ち向かえよ。」



 だけど、今のみのりには、二俣の言葉を受け入れて行動を起こす勇気はなかった。『逃るな』と言われているのに、足が勝手に動き出して二俣に背を向けていた。


 二俣はそんなみのりを追いかけては行かなかったが、その背中に向かって声を張り上げた。



「それが、ずっと俺らを応援し続けてくれてたみのりちゃんかよ!?」



 みのりは振り返ることもできず、二俣を振り切るように駆け出した。



 このままでは、職員室へは戻れない。涙が溢れ、体の震えが止まらなかった。植え込みと校舎の間の陰に身を隠して、気持ちを落ち着けようと懸命に深呼吸を繰り返す。



 遠くから聞こえるヒグラシの物悲しい鳴き声に加え、近くの木で鳴くツクツクホーシの声が共鳴している。その閑かな空間で、みのりは涙を拭い、ようやく正気を取り戻した。



 傾いてもまだ力強い夏の夕陽が照りつけて、息が詰まりそうな暑さがまとわりつく。夕陽が作る長い影を見つめながら、みのりは今の自分を顧みた。



――…また、逃げてしまった……。



 そのことを自覚すると、またみのりの目から一筋の涙がこぼれて落ちた。




 夜になり、なんとか自分のアパートの部屋にたどり着いても、みのりは何も手につかず、ただほんやりと暗い部屋の中の窓辺にたたずんだ。


 今日の衝撃があまりにも大きくて、こうやって何も考えず、静かに自分を取り戻す時間が必要だった。



 その時、みのりの携帯電話のメールの着信音が鳴る。机の上に置いていたバッグから携帯を取り出してみると、二俣の名前が表示されていた。


 ようやく落ち着きつつあったみのりの心臓が、再び不穏に脈打ち始める。今日のこともあって、そのメールをどうするべきか迷ったが、



『逃げるなよ……!』



二俣の言葉がみのりの頭の中に響き渡った。大きく息を吸い込み、覚悟を決める。



 開いてみた二俣のメールには、「遼ちゃんの住所」と件名があり、東京の遼太郎の住所だけが記されていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ