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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
遊園地 Ⅰ
13/199

遊園地 6



 二人が微笑みを交わして歩き出そうとしたとき、ハンマーゴングの係員をしていた女性がみのりへと声をかけた。



「…仲松先生…?」



 思いがけないことに、みのりは目を丸くして振り返る。


 芳野高校の卒業生かもしれない――。そう勘ぐって、遼太郎は肝を冷やして身を硬くする。みのりはその係員のことをすぐには思い出せず、言葉を逸している。



「山沢商業にいた田端です。」



 係員がみのりの記憶を引き出すのに手を貸すと、みのりもそれに呼応した。



「…え?山沢商業…。ああ!田端さん?!」



 どうやら、みのりの元教え子らしく、みのりは思いがけない再会に、喜びの表情を輝かせる。



「え、ここで働いてるの?頑張ってるんだね!」


「はい。卒業してから就職した所は、半年くらいで辞めてしまって…。それからは、ここでパートで働いてます。…先生は?今日は…。」



 その女の係員は、そう言いながら、遼太郎へと視線を向けた。見据えられて、遼太郎は首をすくめて、みのりを見る。


 みのりも遼太郎のことを何と言って説明しようかと、言葉を探してしていると、



「先生の、弟さん…?」



と、係員は訊いてきた。



「ううん。弟じゃない…。」


「…じゃあ?え!?彼氏?って、ずいぶん若くない?」



 みのりはそれには答えずに、ただニッコリと笑った。係員は、その笑みの意味を解しかねて同じように笑いを作る。



「…え?ホントに彼氏?もしかして、生徒とか…!?」



 係員の笑みが驚きへと変化し、目を大きくして突っ込んだ質問をしてきた。そう言いながら、まじまじと遼太郎のことを眺め回す。


 困惑して遼太郎がもう一度みのりへと視線を投げると、みのりも困ったような笑顔になって係員を見つめ返した。



 その時、ハンマーゴングのところへ、数人の中学生と思われる男の子の集団がやってくるのが見えた。



「田端さん。お客さんじゃない?」



 みのりに言われて、係員は振り返る。



「あっ。先生、それじゃ。」



 軽く頭を下げて持ち場に戻る係員に、



「頑張ってねー!」



と、みのりは声をかける。


 係員はもう一度みのりの方へ向いて、深々とお辞儀をしていた。



「先生の教え子ですか?」



 歩きながら、遼太郎が改めて尋ねてみる。



「うん、山沢商業にいたのは、一昨年だったかな。商業高校だから就職する子も多いんだよね。山沢商業はここからも近いし、ここで働いてる子がいても不思議じゃないけど、まさか教え子に会うとは思わなかったな。」



 みのりも、一息つきながら答える。



「…俺のこと。やっぱり『弟』に見えるんですかね?」


「……。」



 遼太郎の言葉の意味を考えて、みのりは何も答えられずに遼太郎を見上げた。



 恋人同士や友達同士にしては歳が離れていると、他人の目には映るのだろうと、みのりも思った。


 それでは、そうでない男女二人連れとなると、姉弟ということになるのだろうか…。



「…他の人にどう見えるのかなんて考えて、それが気になるのなら、遼ちゃんは私と一緒にはいられないよ。」



 少し間をおいて、みのりがそう口を開いた。今度は遼太郎の方が何も答えられずに、みのりを見つめる。



 みのりも遼太郎にそう言いながら、自分の心の中ではハッとしていた。


 今朝、着ていく服を決めかねていたのは、まさしく他の人にどう見られるのかということを、気にしていたからに他ならない。もっと厳密にいうと、他の人にどう見られるかということを、遼太郎が気にするかもしれない…という不安があったからだ。



「別に…、気になんてしてません。」



 本当は〝弟〟と見られることを気にしていた。そのことを押し隠して、遼太郎は決意を含ませて短く答えた。



 今の遼太郎にとって、何よりもみのりと一緒にいられることが一番大事なことだった。それは、みのりへの想いに気が付いてから、ずっと望んできたことだ。


 みのりに想われて、みのりの一番側にいられるのならば、周りの人にどんなふうに見られようが、どうでもいい――。


 今はもっと、二人でいられる時間を楽しもう。そう思って遼太郎は、人目を気にすることなく、みのりの手を取った。





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