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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
遊園地 Ⅰ
11/199

遊園地 4




 遼太郎の行ってみたかったところ、それは何といっても遊園地に来たからには、やっぱりジェットコースターだった。



 この遊園地は、絶叫系の乗り物が充実しており、ジェットコースターは大小合わせて4つほどある。遼太郎が選んだものは、地上50m以上のところから一気に駆け下り、その速さは時速100kmを超えるというのが売りのジェットコースターだ。


 その側まで来て、みのりはその高さに息を呑んだ。



「大丈夫ですか?先生。」



 みのりの顔付きが、心なしか強張ったのに気がついて、遼太郎はみのりを覗き込んだ。



「大丈夫に決まってるでしょ。遊園地に来て、コレに乗らなきゃ始まらないじゃない。」



 そう言いながら、みのりの方から順番を待つ列へと並ぶ。



 列を待つ人々は、友達同士で来ている高校生や中学生の集団があったり、親子と思われる大人と子どものペア、そしてカップルといったところだ。そのカップルも、中学生同士のような微笑ましい感じから、本当に落ち着いた大人同士のペアまで、実に様々だ。



――俺と先生は、どんなふうに見えているんだろう?



 そんな疑問が遼太郎の思考に過る。横に立つみのりに目を移すと、今まさに上がっていかんとするジェットコースターを、不安そうに見上げていた。



 女性の年齢についてはよく分からない遼太郎でも、みのりはどうみても三十歳には見えない。服の着こなしや落ち着き方から大学生には見えないかもしれないが、二十四、五歳と言われても納得してしまうだろう。



 一緒にいる遼太郎自身は、年相応にしか見えないだろうか?一つでも二つでも、年より上に見られたら、みのりと一緒にいても違和感なく普通のカップルのように、人々の目には映るかもしれない。

 それとも、たとえ年は近く見られても、仲の良い姉弟にしか見られないだろうか…。



 列の前方にいる子ども連れの父親らしき人物が、振り返ってみのりに見惚みとれているのに、遼太郎は気が付いた。眉間にシワを寄せて、牽制する視線を送っても気が付かないので、遼太郎は思わずみのりの手を取った。



 不意のことに、みのりが驚いて遼太郎を見上げる。

 それから、みのりは遼太郎の心をとろけさせる笑顔を見せてくれ、優しくその手を握り返してくれた。



――こんなふうに、手を繋ぐ姉弟なんていない…。



 実際遼太郎には、物心ついてから実の姉と手を繋いだ記憶は、既になかった。

 遼太郎は自分の手の中にある華奢なみのりの手の感触を確かめながら、そのみのりの一番近い存在でいられる優越感を噛みしめた。



 遼太郎とみのりにも順番が回ってきて、ジェットコースターのちょうど中ほどへ乗り込むことになった。

 遼太郎が先に乗り、後から乗り込むみのりの手を取った。先程までは何ともなかったみのりの手のひらが、じっとりと汗ばんでいる。



 その異変を察知した遼太郎は、心配そうにみのりの様子を窺った。しかし、みのりはそんな遼太郎の視線にも気が付かず、宙を見つめ急に無口になってしまった。



 そうしている内にジェットコースターは動き始め、どんどん地上から離されていき、遊園地の隣にそびえていたビルの屋上が見下ろせるようになった。


 本来ならば、これから味わえる急降下にワクワクするところだが、遼太郎はみのりのことが気になって、楽しむどころではない。そして、みのりの方も、到底楽しんでいるという感じではない。


 そして、頂上部に到達して、とうとうみのりは我慢ができなくなった。両脇のガードを握りしめて、



「…遼ちゃん…!」



と、つぶやいた瞬間、ジェットコースターは轟音と共に一気に下り始めた。



 楽しげな奇声を伴いながらジェットコースターが走っていたのは、ものの数分。だけど、みのりには終わりのない、とてつもなく長い時間に感じられた。自分の体が自分ではないような、重力の方向が反転してしまったような感覚になって、みのりが気を失いかけた時、ようやくジェットコースターは止まってくれた。



 元いた場所に到着すると、乗り込んだ時とは反対側に降りることになる。


 遼太郎が先にヒラリと降りて、みのりもそれに続こうと思ったけれど、体に力が入らず立ち上がれない。



 完全に、腰が抜けてしまっていた。次に乗り込もうとする人が、戸惑ったような表情を浮かべて待っている。焦りは募るのにどうすることも出来ない。


 すると、ようやく遼太郎も、動けないみのりの様子に気づいてくれた。



「だ、大丈夫ですか?」



と、遼太郎は声をかけたが、もちろん大丈夫ではない。見れば判る。



 遼太郎は片足をジェットコースターへ戻し、みのりの両脇を掴んで降りる側へとヒョイッと持ち上げた。平らな床に足を付けられても、みのりの足はいうことをきかない。

 遼太郎は一瞬離しかけた手で、再びみのりの両腕を掴み、ゆっくりと出口の階段へと向かった。




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