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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
愛しい想いと体の関係 Ⅰ
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愛しい想いと体の関係 9




 申し訳ないような目つきになって、遼太郎が道子を見つめると、道子も緊張が少し解けて息を抜いた。



「ずっと前は私だって…、狩野くんが言うみたいな、そんな恋愛がいつかできるって思ってた。普通の10代の女の子みたいに、私を好きになってくれる『彼氏』がほしいって思ってたし、普通に好きな人もいたのよ?」



 それを話し始める時、道子は落ち着かなげに唇を湿らせて、覚悟を決めたように見えた。

 遼太郎も、背もたれに預けていた体を離し、前のテーブルに腕をついて、道子の話に真剣に耳を傾けた。


「高2の時の同じクラスの男の子だった。明るくて、クラスの雰囲気を盛り上げてくれて、私にも話しかけてくれる優しい人だった。クラスが変わってしまう前に、勇気を出して告白したんだけど……。どうせ私は、こんな見た目だから当然振られるわよね。……ま、それは分かってたけど、……その時その人に言われた言葉が私を変えたのよ。」



――お前みたいな女、マジでキモイんだよ。このことだって思い出したくねーから、これから俺の視界には入ってくんな――



 その時、その男子から放たれた言葉が、今でも鮮明に道子の頭の中に響き渡る。

 その時の言葉を、到底自分の口から遼太郎に告げることは出来ず、道子の体には震えが走った。



「…〝優しい〟と思ってた人だから、……信じられなかった…」



 道子がそう言った瞬間、唇が震えて細い目からは涙が零れ落ちた。


 遼太郎はその涙を見て、その時どれだけ道子が傷つけられたのか、容易に想像できた。



「そのことで、私はこんな見た目だから、普通に恋愛が出来ないんだって解ったの。だけどね、心がすごく寂しくなって、何か救いがほしくって、……ツイッターで相手を探すようになったわ。」



 『ツイッター』というキーワードを聞いて、遼太郎の表情が険しくなる。寂しさを癒す方法を、どうしてツイッターに求めようとするのか、遼太郎には理解できなかった。


「ツイッターで知り合った人と実際に会ってみて、やっぱり私を見たら、誰も本気で好きにはなってくれなかった…。だけど、この体を差し出せば、その時だけは優しくしてくれるの。」



 道子がそう話したところで、遼太郎の思考が一気に動き出した。もっと真剣な表情になって、道子の話に聞き入る。



「そこに愛情なんてないけど、それをしている時だけは、こんな私でも女として求められている気がするの。…ううん、私はいつも人間としても、必要とされていないから……。…今日だって、あの会社のインターンシップで…、あんな態度をとられて……。」



 そこまで道子が話してくれたところで、遼太郎にはこの不可解だった道子の全容が見えてきた気がした。


 どうして、道子は好きでもない不特定の男に体を委ねるのか。どうして道子は、遼太郎が迎えに行ったあの会社にいなかったのか…。



 何か辛いことや嫌なこと、自分の存在を傷つけられるようなことがあるたびに、自分を慰め現実を忘れるために、道子はツイッターで相手を探し、偽りの愛の行為に浸っていたのだ。


 そして、今日もインターンシップの場で、そこにいられなくなるようなことが起こってしまったのだろう…。



「……だから、俺に……。」



 遼太郎は自分の思考を映すように、思わずつぶやいた。先ほどの道子は、辛い出来事で傷ついた心を、遼太郎に癒してもらいたかったのだ。



 遼太郎は両手を両ひざの上に置き、うな垂れて大きな溜息を吐いた。



「…でも、俺は…。亀山先輩を慰めてあげたいとは思います。先輩の見た目がどうとか言う問題でもないんです。けど、……やっぱり……。」



 遼太郎の内側に、みのりの優しく微笑む面影が浮かぶ。


 みのりを抱き寄せて、この腕の中に包み込んだ時の可憐さ。髪を掻き上げ頬を撫で、唇を重ねた感覚。口づけの合間の吐息と、漏れてくる甘い声。滑らかな肌に唇を滑らせた時の記憶――。


 みのりと想いを交わした時の感覚が、今でもはっきりと甦ってきて、遼太郎の体の中を駆け抜ける。


 心が切なく叫び始めて、遼太郎は目を閉じ、唇を噛み、拳を握りしめた。




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