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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
愛しい想いと体の関係 Ⅰ
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愛しい想いと体の関係 6




――やっぱり何人かと付き合ってみなくちゃ、女の人のことも理解できないし…――。



 あの切ない別れをした春の日、みのりがこんなふうに言っていたことを、ふいに遼太郎は思い出した。



 もちろん、女性のことを理解するために、一人一人と付き合うわけにはいかない。付き合ってみなければ、その人のことを理解ができないわけでもない。


 みのりが言いたかったのは、男とは違う〝女性の本質〟を知るためには、何人かと〝付き合ってみる〟経験が不可欠なのだということだ。



 それは、一人や二人ではない、もっと多くの男と付き合ってきたみのりが、身を以て経験して言えたことなのだろう。



 そのいろんな経験をした上で、みのりは生徒だった自分を好きになってくれた――。


 その現実を反芻するたびに、遼太郎の胸がキュンと切なく痛む。そして、いつもそこから遼太郎は、自分自身を信じる力を自分の中に蓄えた。




「今度の週末、どこかに行きますか?」



 付き合い始めてから2週間。いつも大学のキャンパスで会うだけの関係だった道子に、遼太郎がそう言って持ちかけた。



 道子と一緒にいる時間がそれなりに過ぎていき、気心も少しは知れてきていたし、付き合っているのだからデートの1回くらいは…と、思ったからだ。



「先週の週末は、どうして誘ってくれなかったのよ?」



 細い目で睨まれながら、不機嫌そうにそう返してきた道子に、またしても遼太郎は面食らってしまう。

 先週末は、土日ともラグビースクールの遠征で出かけていたのだが、当然、そんなことまで道子には報告していない。



 前の彼女の彩恵は、メールやLINEなどで、逐一遼太郎の行動を把握しておきたがったが、道子はそんなことはなかった。

 一応メールアドレスの交換はしているけれども、道子の方からも頻繁にメールが来ることもない。


 しかし、それはそれで遼太郎は心配になってくる。

 道子がまた、不特定の相手と体の関係を持っているのではないかと…。



 その気持ちは、決して〝やきもち〟ではないのだが、自分と付き合いながら道子がそんなことをしているとなると、自分の行動は本当に意味がなくなってくる。



 道子のとんがった言葉に、遼太郎が申し訳なさそうな表情で黙ってしまうと、道子の方もそんな遼太郎を見て、語気を少し弱める。



「…今度の週末は、インターンシップを申し込んでるの。土日ともスケジュールはびっしりよ。」


「……ああ、そうなんですか。」



 遼太郎は誘いを断られて残念というよりも、道子が人並みに就活をしているらしいことに、少しホッとしていた。


 すると、すかさず道子は遼太郎のその表情を指摘する。



「何よ?デートが出来なくて、安心した?」



 その勘ぐりに、遼太郎はぎょっとして肩をすくめる。



「と、とんでもない。…そ、それじゃ。日曜日、インターンシップが終わってから、どこか食事にでも行きましょう。」


「……え?!」



 どうせ〝デート〟の話は、それで流れてしまうだろうと予想していた道子は、思ってもいない展開に、戸惑ったような声を上げた。



「終わってからでも、デートはできますよ。何時に終わるんですか?…迎えに行きます。」



 遼太郎の穏やかな表情から発せられる優しい言葉に、道子は細い目を見開いて遼太郎を見上げた。



 その顔を遼太郎に見せた瞬間から、道子はもう遼太郎の前で、自分をひがんで、不機嫌そうにひねくれた顔ができなくなった。



「……よ、4時には終わる予定だけど……。」



 道子らしくない、弱気で可愛らしい声を出す。遼太郎はそれを聞くと、ほのかに笑って頷いた。




 道子がインターンシップに参加していたのは、遼太郎は聞いたことのない会社だったけれども、少し調べてみたら、ちゃんと東証一部にも上場されている総合商社だった。



 遼太郎は約束の4時には会社の玄関前に着いて、道子が出てくるのを待った。



 これから〝彼女〟とデートをするというのに、全くと言っていいほど心が浮き立たないのは何故だろう…。これからの展開を、あれこれ思い描いてみて…、ため息しか出てこない。

 変な緊張に体が縛り上げられて、遼太郎は胃が痛くなりそうだった。




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