愛しい想いと体の関係 4
しかし、遼太郎は間もなく、自分のしようとしていたことを少し後悔することになる。やはり佐山が懸念した通り、道子といても常に居心地が悪かった。
それは、彩恵と付き合っていた時に感じていた、気まずさの比ではない。思わず逃げ出したくなるほどの、苦痛なのだ。
教職課程の講義も取っていた遼太郎にとって毎日の日課はとても忙しく、空いている時間や放課後はとても貴重な時間なのだが、道子は〝彼女〟になったのを口実に常に遼太郎を拘束した。
――この人、3年生なのに、就活はどうなってんのかな…?
目の前でランチを食べる道子を見ながら、そんなことが遼太郎の頭を過ったが、〝深入りしたらマズい〟という本能が働いて、何も道子のことは詮索しなかった。
「食べてるところ、そんなにじろじろ見ないでよ。」
いきなり道子から、そんなふうに言われて、遼太郎は面食らう。
――じろじろ見たり、してねーよ!自意識過剰なんだよ!
心の中でそう思ったが、相手は一応先輩なので言い返さないでおく。
見てないことを証明するために、遼太郎は生協のランチルームから見える紅葉した木々に目をやった。
みのりと〝ご褒美の焼肉〟を食べに行ったのは、もう少し季節の進んだ頃だった。
あの時、みのりが食べ物を口に運ぶ…たったそれだけのことでさえ、本当に美しくて可愛らしくて、遼太郎の胸はドキドキと高鳴った。
食事をするという生理的な行為は、遼太郎のすべての感覚をかき立てて、もうそこから目が離せなかった。
〝彼女〟と食事をするということは、本来そう言う感覚を伴ったものなのだと、遼太郎は改めて思う。
「だいたい、狩野くん。食べるのが早すぎなのよ。女子は食べるのが遅いんだから、それに合わせてゆっくり食べてよ。」
道子のドスの効いた声に現実に引き戻され、遼太郎は一つ溜息を吐いた。
――…食べるのが遅い…ってか、食べる量が多すぎるんじゃねーの?
道子から言われること一つ一つが癪に障り、遼太郎は思わず心の中で苦虫を噛む。
しかし、遼太郎でなくてもそう思ってしまうほど、本当に道子はカフェテリアの料理をあれもこれも、トレーに載せていた。
きっと、道子は直感的な欲求に素直なのだろう。食欲に対しても、……性欲に対しても…。
遼太郎は、道子が食べ終わるのを黙って待ちながら、目の前の道子を観察し、そんなふうに分析した。
それでも、どうして道子は、好きでもない相手に身を任せることができるのか?
本来、女性は愛していない相手とそんな行為をするのは、苦痛なはずだ。それなのに、この女はどうしてそんなことを繰り返してるのか…。
道子のことを詮索したくないと思っているにも関わらず、遼太郎は単純にそれが知りたかった。
道子とは勢いで付き合うということになってしまったけれど、それを知ることができるまで、とりあえず今の状態を続けていこうと思った。




