愛しい想いと体の関係 3
英語の講義が終わった後、こんな事の顛末を、遼太郎は佐山と樫原にかいつまんで説明した。
それを聞いても、彼らの中にわだかまる疑問は解消されない。理解できないのは、どうやって付き合うようになったか…ではなくて、どうして遼太郎は道子と付き合おうと思ったのか…ということだ。
「俺は、遼太郎がアイツのことが好きだなんて、到底思えないんだけど」
確かに佐山の言う通り、遼太郎は道子に対して、爪の先ほどの恋愛感情も持っていない。
遼太郎が心から想うのは、みのりだけだ。それは遼太郎の真理のようなもので、誰と付き合うことになっても、この真理は死ぬまで変わることはない。
でも、それは道子だってお互い様だ。道子は以前遼太郎の〝彼女〟だった彩恵のように、遼太郎に想いを募らせてはいない。
「もちろん…、好きではないけど…。でも、成り行き上、そうするしかなかったって言うか…。」
そんな風に言葉を詰まらせる遼太郎を、佐山は「バカ野郎」と言わんばかりの目つきで見ている。どうやら佐山にとって道子は、嫌いなタイプの女なのだろう。
けれども、遼太郎にとっては、絶対的な〝みのり〟という存在がいる以上、可愛いとかそうじゃないとか、気立てがいいとか悪いとか、そんなことはあまり関係なかった。
「それに…、あの先輩、あんまりいい噂ないよ?援交してるって言われてるくらいだから…。」
樫原もそう言って、遼太郎に忠告してくれた。それが援助交際なのかどうかは定かではないが、遼太郎が目撃した道子の行為は、もうそんな噂になって流れてしまっているということだ。
「……だからこそ、やめさせないと。知ってしまったからには、見て見ぬ振りできないよ」
「だからって、付き合うことはないだろ?遼太郎、お前分かってんのか?付き合うって、慈善事業やボランティアじゃないんだぞ。あの女とエッチできるかよ?」
佐山からそう言ってまくしたてられて、遼太郎は何も言葉が返せず、黙ってしまう。それでも、佐山の説教は止まらなかった。
「そんななまじっかな気持ちで付き合ったりなんかしてると、見境ないあのブスから本気にされて、そのうち逆に襲われるぞ!」
佐山の口から飛び出してきた激しい言葉に、側で聞いていた樫原も跳び上がった。
「…ちょっ!晋ちゃん!!声が大きいよ!!」
そう言いながら、樫原は学生が行き交うキャンパスに目を走らせ、今の言葉を聞かれていないか確かめた。
佐山も言いすぎてしまったことを少し反省したのか、声のトーンを少し落として、もう一度遼太郎の目を捉えた。
「とにかく……、遼太郎。好きじゃない相手と付き合ってもうまくいかないことは、身を以て経験してるじゃないか。そもそもお前は…、付き合うってどういうことか…、人を好きになるってどういうことか、解ってないよ。」
そう言い残すと、佐山は足を大学生協の方へと向け、早足で立ち去ってしまった。
その後ろ姿を追いかけることなく、遼太郎は樫原と共に見送る。
「…晋ちゃん。悪気があって言ってるんじゃないよ?狩野くんのこと心配だから、あんなにまで言うんだよ?」
必死になって佐山の弁護をする樫原を、本当に『友達思いなんだな』と、遼太郎は思う。
そんな樫原の心に癒され、遼太郎は微笑んだ。
「……解ってるよ。それに…、いつも佐山の言うことは、間違ってない。」
それは、彩恵とのことで思い悩んでいた遼太郎に、いつも佐山は的確なアドバイスをしてくれていたことでも証明済みだ。
遼太郎が理解してくれてることに、樫原もホッと息を抜く。
「晋ちゃんって、ある意味アーティストだから、恋愛に関しても、すごく純粋なんだよね。すごくピュアで感受性が強いから、その場の盛り上がりで女の子を好きになっちゃったりするし。…でも、それでいて、女の子の方に打算があったりすると、すぐに見抜いて気持ちが冷めちゃったりするんだよね…。」
それなら遼太郎は、本当の愛を求めて彷徨う佐山に、逆に教えてあげたかった。
本当に心の底から人を好きになり、その人の全てを愛することとは、どういうことかを――。
佐山の求めるものは、もう既に遼太郎の中に存在していることを――。




