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Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜  作者: 皆実 景葉
高校入試と免許証
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高校入試と免許証 1



 卒業式の日は、忘れられない日となった。


 三月だというのに、とても寒い日だった。風花が舞い、雲の切れ間からの陽射しが降り注ぐ中で、



「好きです……」



と、遼太郎はみのりに告白した。



 高校の日本史教師のみのりと生徒だった遼太郎が落ちた恋は、〝禁断〟と呼ばれるものだった。


 絶対に「叶わない」と思っていたみのり。絶対に「叶えたい」と思っていた遼太郎。



 どちらも立場の違いに苦しんだ。

 十二歳も年下の生徒に恋をするなんて、みのりは罪悪感さえ感じていた。ずっと心の中に想いを閉じ込めて、生きていくつもりだった。

 いつも教師として前を歩くみのりに恋をした遼太郎は、早く大人になって追いつきたくて、ひたむきに頑張った。



 やっと想いが通じ合ったのは、卒業式の日。

 立場の違いというしがらみから解放されて、初めてキスを交わした。


 ……その日から、遼太郎はみのりの恋人になった。

 十二歳の年の差を越えて――。



 この日、みのりは研修用のダークグレーのスーツに身を包み、きりっと引き締まった表情で体育館へと向かった。

 体育館には、大勢の中学生がすでに集まっている。みのりたち高校の教員が体育館に入ってくると、低いざわめきが収まりシーンと静まり返った。


 年に一度、これからの数日間は、次年度の入学者選抜の学力検査いわゆる高校入試が行われ、学校が独特の緊張感に包まれる。



 地域の名門芳野高校は、この学区内の中学生がまず目指す高校で、中学生たちはここに入学するために一生懸命勉強をしてきたはずだ。受験する者も真剣なら、高校の職員の方も、守秘義務が伴い失敗が許されない作業の続く緊張する三日間だった。



 みのりは受験番号と教室番号の書かれたプラカードを持って、生徒たちの列の前に立った。これから生徒たちを教室まで誘導する。いろんな中学校から来たさまざまな制服を着た生徒たちが、神妙な顔つきでみのりの後から付いてくる。生徒への支持は一括して放送によってなされるので、みのりの仕事は、確実に生徒を試験会場へと入れること。隣の教室の誘導係と確認し合って、ひとまず一仕事が終わってホッとした。



 数日前の麗らかさとは打って変わって、この日はどんよりと曇ってうすら寒かった。階段の降り口の連絡係の待機する場所には、ストーブが設置されて、オレンジ色の暖かい光を放っていた。



 みのりが試験監督をするのは、2科目目。問題を配布するのを手伝ってくれる若い男性講師とともに担当の教室へと向かう。初めて入試業務に当たるこの男性講師はちょっと頼りなくて、みのりはなんとなく心許ない。

 ……でも、考えてみれば、みのりが誰よりも頼もしいと思う遼太郎は、この講師よりもずっと若かった。



 手分けをして問題用紙と解答用紙を配り終えると、試験が開始された。5分間が経って、ここで男性講師は教室を出ていく。みのりは気を取り直して、試験問題に取り組む受験生たちの様子を監督し始めた。



 三年前、遼太郎もこうやってどこかの教室で、高校入試を受験した。遼太郎だけでなく、二俣や宇佐美……あの3年1組の面々も。その時、みのりも講師としてこの芳野高校に勤務していたので、同じ場にいて同じ緊張感を共有していたはずだ。


 一旦はこの芳野高校を離れたみのりが、正採用となり再びこの高校で働くことになったのも、やはり巡り合わせだったのだと思う。

 遼太郎が日本史を選択して、みのりがあの3年1組のクラスの授業に行くようになったのも。そして、折しも、不倫関係を続けていた石原と別れる決心をしたのも。すべては、遼太郎へと導かれるための布石だったように思われる。



 遼太郎に出逢えたのは、まさに運命だった。そう思えるほど、遼太郎を愛しく想う気持ちは、生まれてくる前から体と心に刻み込まれていたみたいに自然と溢れてきて、訳もなく止められなかった。


 許されないと思っていた恋心だった。ずっと心の中だけで遼太郎を想い続けていこうと思っていたのに、今のみのりは遼太郎なしでは生きていけなくなった。




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