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フロー・ラビリンス  作者: 倉田樺樹
エピローグ
54/56

 馬公特別行政区中興路通りには、古代から続く占いの店がある。建物はかなり古いが、これまで何度も立て直している。馬公の繁華街でも、スーツドの宿のように、同じ土地に同じような建物を立て直すのは、社会の変化が少ないからだ。

 文鳥占いを売りにしているが、老主人は、姓名判断、九星術、手相、周易、西洋占星術など様々な占いを習得しており、現時点で世界最高の占い師だ。

 それなのに、店は小さくて収入も少ない。その理由は、人々の生活が安定しているので、あまり将来のことを気にしないからだ。

 それが、このところの騒動で、不安にかられた客が殺到するようになった。


 客のなかには、自分の運勢だけでなく、UV38244についても占ってくれと、注文する者もいる。

 実は以前、彼女はこの店を訪れていた。


 そのときは誕生日がわからなかったが、報道などで、彼女が九星術でいう五黄土星の生まれだと知ることができた。


 九星とは、唐代末期に生まれた思想で、気の状態を一白、二黒、三碧、四緑、五黄、六白、七赤、八白、九紫の九つに分類している。

 気とは、目には見えないが、自然界に充満するエネルギーのことで、古代中国に生まれた概念である。道教や漢方などで用いられ、万物は気から成るとするが、西洋科学の素粒子とも異なる。自然の運行を司り、あらゆる存在や事象が、気から影響を受けるとされる。

 九星の思想は、仏教と同時に日本に伝わり、その後暦と関連づけられた。


 五黄土星とは、九星の中央に位置し、他の八星を従え、最も強力な作用を持つ。色は黄色、働きは土。万物を育む反面、すべてを腐らせ土に帰す破壊力を持つ。五黄のもとに生まれると、吉凶が極端に現れる運勢と言われる。


 象意としては、基礎、暴力、墓、死、盗賊、腐敗、天変地異、反逆、残虐、殺意、強奪、強欲、廃棄物、スキャンダル、渋滞、絶望、破産、失業、脅迫、偽造、毒殺、惨殺、葬儀、寄生虫、心中、営業の失敗、名誉毀損、植物の枯れ、家屋破損、難病、古い物などがある。

 五黄の対局は暗剣殺だ。 

 暗闇から突然剣で切りつけられるような危うさがある。

 まさに、彼女の運命そのものではないか。


 

 客のなかにも、彼女に会ったことがあるという者がいる。喧嘩が強いことで有名な、近くに住む十七歳の少年で、遊技場(ゲームセンター)で彼女と会話をしたという。

 知り合ってすぐに離れたが、「今思うと、恐ろしい」と言う。

「それで占いに来たのか?」と聞くと、

「そうじゃなくて、もうすぐ卒業だから進路相談だよ」

 占い師は彼に、西に向かうように告げた。


 それから十年以上が経ち、立派になった少年が挨拶に来た。

 あれから彼は、アドバイス通り西に向かって、今はローマ共和国の大統領官邸で働いているという。

「武術の経験を買われて、大統領夫人の警護を任されています」

「武術というより喧嘩じゃないのかい。守られるほうも強いから楽な仕事だな。UVを怪我させた張本人じゃろう?」

「はい。とてもお若く、僕より十歳年上には思えません」

 今の彼を占うと、

「その大統領夫人とうまくいってないな?」

「ご指摘の通り、何故か嫌われているようなのです。僕のどこがいけないのでしょう?」

 占ってみると、

「相手に嫌われるような、かなり失礼なことをしたようじゃな」

「そんなはずはありません。失礼のないよう常に心がけています」

 

 そこで、籠の戸を開けて、鳥に聞いてみた。

 小動物は、あのときスーツドの少女に出た札をくわえた。そこで、

「彼女と関わると、とんでもないことに巻き込まれる。逃げなさい」

 と、漢語で忠告をした。


「西に向かえといっておいて、いまさら逃げろとはおかしいだろう」

 元不良少年は、本性を出して怒った。

「西に行きすぎたか、もっと西にいくんだな」

「なんだそりゃ。だから占いなんか当てにならないんだ」

 元不良少年は、そう言い残し、店を出ていった。


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