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フロー・ラビリンス  作者: 倉田樺樹
開拓者達1
12/56

 ダニエル・クーパーは、大都市のスラム街で生まれ、スラム街で育った。だが、一生をそこですごしたわけではない。

 飲んだ暮れの父親は若いころ、ボクサーをしていて、彼も小さいころからボクシングを教わったが、 それを実際に使ったことは一度しかなかった。

 彼が十四歳の時、いつものように学校をサボって、近所の悪がき達三人でストリートでバスケットボールの取り合いをしていると、道の向こうから中国系の中年男性が、若い中国系女性と歩いていた。この辺りでは珍しい光景だ。

 その後ろから評判の悪い年上の二人組が、近づいてきた。

 片方が女性のバッグをひったくろうとした。

「やめて。警察呼ぶわよ」

 彼女は抵抗した。

「こんなところに警察は来ないぜ」

 男性も大声で抗議をしたが、言葉が通じない。

「ここは合衆国だ。英語を話しな」


 もう片方がナイフをとりだした。

 その光景を見た彼の仲間は、「おい、どうする?」と聞いてきた。

「金持ちみたいだ。助けるとお礼が出るかもな」

 彼は、中国人の身なりから、そう判断した。

 それに、前から気に食わないやつらだった。もう、俺たちも昔よりはずいぶん体も大きくなった。懲らしめるのにいい機会だ。

 彼は、ナイフを出したほうの背中にボールをぶつけた。

「痛っ」

「ハハハハ」

 相手はナイフを持ったまま振り返った。

「ガキのくせに、俺たちとやろうというのかい」

 彼は、ファイティングポーズをとった。

「へっぽこボクサーの子供のくせに」

 相手はナイフを突きだしてくる。

 それをうまくかわして、ボディに強烈な一撃をくらわせ、隣にいた仲間のあごを打ち抜いた。

「覚えてろ!」

 そういい残し二人組は逃げていった。

「君たち、ありがとう。おかげで命拾いした」

 男性は、たどたどしい英語でお礼をいった。

 その男性は、客家飯店グループというホテル、観光、飲食、不動産を手がける台湾企業の董事長(会長)李文鳳だった。アメリカ企業との商談に訪れたついでに、中華街に行こうとしたが、迷ってスラム街に入り込んでしまったという。


 男性は彼に感謝し、彼の一家を中華街でもてなしただけでなく、進学費用を負担すると約束してくれた。

 彼は、男性の支援で白人の多い学校に転校した。

 黒人差別はあったが、それをバネに猛勉強し、ハイスクールでも成績優秀で通した。やがて名門大学に入学、学生時代に男性の支援でベンチャー企業を設立。スマートフォンと上着を組み合わせた商品を開発。事業が起動に乗ると、自分の所有している会社の株式を全て客家飯店グループに売却した。経営の第一線から身を引くと、ホープオブトモローという非営利組織を立ち上げ、各国の政界や財界に顔を売っていった。

 人権団体「ホープオブトモロー(明日の希望)」通称HOTは、あらゆる差別や偏見と戦い、人類の平等を目指すことをスローガンに掲げたが、何故か会員は上流階級の人間ばかりだった。その理由は莫大な寄付金を請求されるからだ。

 不思議なことに会員数は増え続け、寄付金はどんどんつり上がっていった。その理由は、「あなたの寄付金の額で、子孫の地位が決まります」と言われるからだ。


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