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02 再会は突然に

「………。」

 窓からリビングに夕日が差し込んでいる。

 朝の女の子との出会いから、10時間ほど経っているはずなのに、いまだにあの天使のような笑顔が忘れられずにいた。

「おねぇーちゃん、おはよ~。」

 夕方の5時だというのに、妹のさあちゃんは今頃起きてきたらしい。いったい何時間寝ていたのだろう。

「………。」

 そんなことを妹にツッコむわけでも、呆れるでもなく、ただ窓から見えている夕日をぼんやりと眺めていた。

「?おねぇちゃん、どーしたの?」

 寝ぼけ眼を擦りながら聞いてくるさあちゃん。

「お腹すいたの?」

「………。」

「わかった、体重増えたんだろー。」

「………。」

 私が何も答えずにいると、さあちゃんはあれこれと色々予想してくる。

「…ひょっとして、好きな人が出来たとか?」

 冗談交じりで聞いてきたさぁちゃんの「好きな人」という言葉に、自分の顔がカァーと熱くなるのを感じる。

「そ、そそそそんなわけ、ないでしょう!!!」

 私は慌てて否定するが、

「えっ、マジで!?誰だれ?」

 そんな嘘が通じるわけもなく、さあちゃんは興味津々に聞いてくる。

「べっ別に、好きってわけじゃ……。」

 第一、あの子は女の子。確かにきれいだなとは思ったけど…。

「そっかそっか。剣道一筋のおねぇちゃんにもやっと春が来たんだな~。」

「だから~違うって言ってるじゃん!!」

 さあちゃんは、私の反論に耳を傾けることなく、

「でもおねぇちゃんは、奥手でツンデレ、奥デレだからな~。やっぱり、自分から積極的に話しかけていくしかないよね。うんうん。」

 と、勝手なことを言っている。

「はぁ~~~。」

 深い深いため息をついて、私はまた夕日を眺めながら、金髪の女の子、アンナのことを思い出していた。


「アリサ、ですカ?いいお名前ですわネ。」

 そう言ったアンナの笑顔に、どれくらいの時間見惚れていただろう。

「あの~アリサ?大丈夫ですカ?」

 何にも答えない私の顔を、アンナは心配そうに間近で覗き込んでくる。

「!!!ゴ、ゴメンなさい!!だ、大丈夫です!!」

 間近に迫ったアンナの顔に思わず、ドキッとしてしまう。ほのかに甘いバニラのような匂いがして、私の顔は火を吹くんじゃないのかなってくらい熱くなっている。

「なら良かったですワ。でも歌ってる所を見られてしまったのは、恥ずかしいですワ。」

 ミーナはまた俯き、頬を赤くしながら言った。

「そ、そんなことないですよ。とってもお上手だと思います。」

 私は慌てて否定する。

「天使が歌っているのかと思いましたよ。」

 それはお世辞なんかじゃい、私の素直な感想だ。

「天使なんて、ワタクシには勿体無いお言葉ですワ。」

 そう謙遜するアンナだが、私をまっすぐ見つめて、

「でも嬉しいですワ。アリサ、ありがとーございますワ!」

「~~~。」

 お礼を言って満面の笑顔を見せるアンナに、私はまた顔を熱くさせるのだった。


「だ、誰かに習ってたんですか?」

 これだけ上手なんだから、きっと家庭教師や先生がいるに違いない。私は恥ずかしさを誤魔化すため、ミーナに聞いてみた。

「ワタクシのおばあちゃま、日本が大好きなんですノ。日本にご友人の方がいらっしゃって、小さいころからよくご本を読んでもらっていたんですノ。」

 笑顔で幸せそうに答えるミーナ。本当におばあさんのことが大好きなのが初めて会う私にも伝わってくる。

「?」

 私はここで、ふと違和感を覚えた。

 ミーナの笑顔にばかり気を取られていて気付かなかったけど、着ている白のワンピースが少し汚れていたのだ。所々に泥がついている。

 ここ最近は雨が降ってないから、泥水もないと思うんだけど…。

 そして、ミーナの傍には、これまた泥のついたピンクのポシェットが置いてあった。気になって、ミーナに聞こうとしたその時、

「あ~~~!忘れていましたワ!!ワタクシ、トキ様の所へ行かないといけないんですワ。」

 そう言って、慌ててポシェットを取ると、小走りで丘を降りていく。

 私が呆気に取られていると、ミーナは振り返り、

「アリサ、またお話、しましょうネ~。」

と、大きい声で私に手を振っていた。

「う、うん。またね~。」

 私は何とかそれだけ答えると、ミーナが見えなくなるまで、彼女の後姿を見つめていた。


 そんなミーナとの不思議な出会いを果たし、帰宅してから約10時間、気づいたら私はリビングでずっとぼんやりしていた。ちなみに隣では、さぁちゃんがいまだに私のアピール方法を考えていた。

「いや、逆におねぇちゃんの個性、ツンデレを出してった方がいいかな。今、マンガとかアニメでもツンデレキャラは王道だから。うんうん。」

 王道って言われても。そもそもツンデレじゃないし。

「有紗~。紗綾~。ご飯の準備、出来ましたよ~。」

 1階のリビングから、おばぁちゃんの声が聞こえた。

「はーい。」

「じゃあ、奥デレおねぇちゃん、モテモテ大作戦は、ご飯のあとで続き考えよ♪」

 そんなことを言って笑顔を向けてくるさぁちゃん。いつの間にか大作戦になってるし。私はまた一つ、深いため息をつくのだった。


 私の家はお父さんもお母さんも仕事の都合でほとんど海外にいる。会えるのも年に1回あるかないかだ。そのため、家の家事はほとんどおばぁちゃんがしてくれる。私やさぁちゃんも手伝うことはあるけど、2人とも部活で忙しいのと、おばぁちゃんが働き者ということもあって、あまり手伝えていなかった。家事をやってくれるのは凄く嬉しいし助かるんだけど、おばぁちゃんが夜9時には寝てしまうため、我が家の夕食は必然と6時ごろになってしまう。夜、お腹すくんだけどなぁ~。

 1階へ降りながら、私はまたミーナのことを考えていた。

「そういえば、「トキ様」に会えたのかな。」

 丘に居たってってことは、もしかしたらこの近所の人かな。しばらくこっちにいるなら、また会えるかなも。そんなことを考えながら、階段を降りると、玄関からピンポーンとチャイムが鳴った。

「紗綾~。出てちょうだい。」

「ムリ~。今、奥デレおねぇちゃん改造計画を考えるのに忙しいから~。」

 おばぁちゃんは紗綾に頼むが、出不精のさぁちゃんは、案の定出るわけがなかった。てか私、改造されるの?

「おばぁちゃん、私が出るよ。」

 本日何度目になるかわからないため息をつき、私は玄関に向かう。

「は~い。どなたですか~。」

 私は扉の向こうに居る人に声を掛けながら、玄関を開けた。

「あれ~アリサじゃないですノ!」

 訪ね人は少し汚れた白いワンピースを着て、ピンクのポシェットを下げていた。そして驚きと嬉しさが混じった笑顔で私の名前を呼ぶ。朝から半日離れなかった笑顔が、そこにはあった。






 

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