舟猫レテと お星様になったプータロ
僕の大好きなピースケ兄さんが優しい飼い主様に看取られ虹の橋へと旅立ちました。
暫く過ぎた頃、お部屋の片隅にピースケ兄さんの小さなお仏壇が置かれていました。パープルに輝く鈴のついた首輪からはいつもピースケ兄さんの匂いがしていました。僕はピースケ兄さんがいなくなり凄く寂しかったけど飼い主様はもっと寂しそうにしてたから元気になれるようたくさん遊びました。
……それから15年後
2016年……初夏 僕は優しい飼い主様に抱かれながら19年の天寿を全うしました。
……………気がつくと僕は不思議な場所にいました。
……ここは一体どこなんだろう……
辺りを見渡すと見知らぬ猫達もいてみんなも僕のようにキョロキョロしています。すると案内人らしき猫が現れそれぞれの猫達に行き先を示唆してくれました。
蒼く仄めく炎が道しるべのようでした。
綺麗な星空の下、プータロと見知らぬ猫達グループはまるで分かっていたかのように猫船に乗り込みました。
マタタビ線香花がとても心地好く辺りに芳しき香りを放っています。
臼紫色の猫船はまるで大きな猫そのもののようです。
プータロ達を導いていた蒼く揺らめく炎が点滅し始めました。いよいよ猫船出航時間のようです。
でも猫船にはプータロ達の他には誰も乗っていません。船頭さんすらいないのです。
皆がざわざわ騒ぎ出すとなんと猫船の船首からぬぅっと大きな顔が現れプータロ達はビックリして思わずジャンプしちゃいました。
なんと、船首の先端から現れた猫が喋ったのです‼
「にゃはははは~
やあ、みんな驚かしてゴメンね。僕の名前は舟猫のレテ よろしくね みんなちゃんと乗ってるかぃ?!
僕から落ちたら大変な事になっちゃうからそこにある爪磨ぎロープにしっかりと掴まってるんだよ」
舟猫レテはそう言うとにゃぁ~ごと鳴き、出発の合図を出しました。するとレテの太くて大きな尻尾が水中でグルグルと回り出したのです。レテの尻尾はまるでスクリューのように水を掻きゆっくりと進み出しました。水面は波一つない凪状態で水鏡のように沢山の星々を鮮やかに映し出し、光に満ち満ちています。
プータロ達はキラキラと光輝く夜空や水面を眺めると、その大きな瞳に反射し煌めき、とても言葉では表現できない美しさなのでした。
囁かれるような歓喜の中、ふとプータロの眺める先にぼんやりと青白く発光する球体のようなものをみつけました。
プータロはこれもお星様なのかなと思い、空を見上げるもこの不思議な光りはみえません。もう一度水面に目をやるとこの球体のようなものは水の中で淡く光っていました。
するとその球体のようなものはまるで生き物のように動きだしプータロや他の猫達に近づいて来たのです。更にはその不思議な球体達は凄まじい数となって舟猫レテを取り囲んでいました。
プータロはこれはなんだろう?と
触ろうとした瞬間、それに触っちゃだめだ‼とレテが声を荒げました。
プータロ
「レ、レテさん?!この不思議な球体はなんですか?」
プータロはレテにそう訪ねました。
するとレテは暫く沈黙した後、少し寂しげな面持ちで口を開きました。
レテ
「………どうしても知りたいかぃ?
知らなければ幸せな事もあるのだけれど……」
そう言うもレテは静かに語り始めました。
レテ
「………この球体達はね…君達と同じ猫なんだ。」
プータロ
「えっ?どう言う事?
…まさかレテさんから落ちたらこうなっちゃうの?」
レテ
「いや、万が一川に落ちても僕が救いだしてあげるからこうはならない。」
プータロ
「じゃぁこれは………」
レテ
「この球体…いや、この子達は生まれてから一度も人間と出会う事なく、あるいは一緒に暮らす事が出来ず………身勝手な人間達がドリームボックスと呼ぶ場所で殺め 亡くなっていった可哀想な猫達の魂なんだ………」
プータロはそんな事実すら知らず、気が付くと揺れ動く瞳から涙がこぼれ落ち、その大粒の涙は刹那、銀河のように輝いていたのでした。
プータロ
「そんな……僕が生まれてからご主人様と出逢い、そしてお別れするまでそんな事実があったなんて知らなかった‼」
レテ
「………」
プータロ
「レテさん‼ じゃぁ この可哀想な魂達は一体どうなるの?」
するとレテは微笑みながら答えました。
レテ
「大丈夫だよ。僕の役目は優しきもの達から慈しみの想いを受け、初めて動ける舟猫。
生前、人間の愛を知らないこの沢山の魂達も、もう行き先は決まってるんだ。」
プータロ
「じゃあこの魂達はどこに行っちゃうの?それにさっき触っちゃだめって…」
レテ
「んとね、君を送り出した飼い主様が無事天国に行けるよう祈っているその想いと この可哀想な魂が触れ合うと君とご主人様との目に見えない絆が引き裂かれ、これまでの幸福だった君そのものが全部消えちゃうんだ。」
プータロ
「……こんなにもたくさんの愛を知らない魂達がいたなんて……僕、今までなにも知らなくて…」
レテ
「君、この広大な川の遥か先を見てごらん。何か見えないかい?」
レテにそう言われ、プータロはレテの大きな頭の上に飛び乗ると涙を拭い、まん丸眼を見開くと遥か下流になにかを見つけみした。
プータロ
「レテさん、凄く遠くにキラキラした糸みたいなのがみえるよ。あれは一体なんですか?」
レテ
「それが君達も知ってる虹の橋なのさ」
プータロ
「えっ?僕達が目指してる虹の橋ってあの糸みたいなのがそうなの?」
レテ
「うん。
あの虹の橋はね、この可哀想な魂達だけの為に作られたんだよ。そして実はね、この川には不思議な力があってね、可哀想な魂達がゆっくりと流されていく間、生前のあらゆる苦痛を少しずつ洗い流してくれる川なんだ。そうして嫌なものが全て洗い流され辿り着く場所こそがあの虹の橋なのさ。」
プータロ
「本当に?!凄いよ‼ この川にはそんな力があったんだね‼ グスン…良かった。」
自分達だけが幸せだった事にひどく心を痛めていたプータロでしたがこの真実を知り、救われた気持ちになれたのでした。
でもなぜ可哀想な魂達が近づいて来たのかと疑問に思い、再びレテに訪ねました。
レテ
「あぁ、それはね、
ここはまだ川の上流だから彼らはまだ自分達が死んだ事に気付いてないんだ。だから君達を見つけた可哀想な魂達が救いを求めやって来たんだ。
そうそう、それから彼らが渡る虹の橋は凄く大きいんだよ。
この川がまるでネズミのシッポって思えるくらいにね。」
他の猫達
「????
ねぇねぇ レテさん
ネズミってなあに?
シッポがあるって事は生き物なのかな?
違うよ、ネズミはオモチャだよぉ~‼
なに言ってんだよ!
ネズミは噛み付く恐ろしい怪物だって聞いた事があるぞ‼」
プータロ達は生前のほとんどを室内で暮らしていたのでネズミの事をほとんど知らず、みんながみんなで勝手に想像してはネズミの話を始めてしまいました。
レテ
「やれやれ
例えがまずかったなぁ」
レテはそう言うと苦笑いをするのでした。
僕達は順調に旅を続けているようです。
でも一つ気になる事があるんです。
それは遥か遠くに見えたキラキラした糸のような虹の橋は僕達が目指す虹の橋じゃないって事だ。
じゃぁ、僕達が渡るであろう虹の橋は一体どこにあるのだろう……
レテさんなら全てを知ってるのだろうが、今はなぜか聞く気にはなれない……いや、レテさんがそうさせているのだろうか……
他の猫達もみんな気になっている筈だ。
でも僕と同じ気分なのだろうか………
時折 今まで感じた事のない穏やかで不思議な風がプータロ達のヒゲや体毛をなびかせ舟猫レテはゆっくりと進むのでした。
そう言えば旅を始めてからどれくらいの時間が過ぎたのだろう。
ご主人様と一緒の時はお日様とお月様が交代で見えてたから1日が分かってたけどこの世界はまるでず~っと夜みたいだ。
夜は嫌いじゃないけど
…………お日様と一緒に日向ぼっこしてお昼寝するのも気持ち良かったなぁ。
そんな事を思い出し、物思いにふけっていると舟猫レテは突然速度を上げ、緑溢れる草原のような島へと上陸したのです。
プータロ達
「にゃ、にゃ、にゃにゃぁ~‼
レテさんが歩いたぁ~‼‼」
プータロ達が驚く中
舟猫レテは全員を島に下ろすと至って普通に
巨体な体をのっしのっしと揺らしながら自らも上陸しました。
レテ
「ん~?!
そう言えば僕は水陸両用猫だってみんなに伝えてなかったね。
ニャハハ~また驚かしちゃったかな」
と、何事もなかったかのように全身をブルブルと振るわせ体毛の水を払い飛ばしました。
プータロ達は驚きの余り 口はアングリ半開き、満月のようなまん丸眼になっていました。
レテの体の構造をマジマジともの珍し気に伺いみるプータロ達。
するとレテが草村に入り、なにやらゴソゴソしながら語り始めました。
レテ
「ここに群生する草々にはね、今まで嫌な事があった時の記憶を消してくれる勿忘草が自生してるんだよ。と言っても君達にとっての嫌な記憶は病院の匂いや注射の痛み位かな?」
レテがそうプータロ達に問い掛けると、共に旅をしているミケが突然、身の上話を語り出しました。
ミケ
「私のご主人様はとってもお仕事が忙しくて私は毎日朝から夜遅くまでいつも独りぼっちだったの…
それに私のご主人様はお家に帰って来ても疲れた~って言ってたくさん遊んでくれなかったのね。そんな退屈が続く日々……お気に入りの窓際からお外を眺める事しかなかったのね。
でもある満月が輝く夜、私はどうしてもお外に出たくてご主人様が帰って来て玄関のドアが開いた隙に脱走したのね。
でもそれが間違いだったの。
私を呼ぶご主人様の声を無視して自由を漫喫してたのね。
でも長くは続かなかった…
今まで間近では見た事もない両目が光る凄い音を出しながらこちらに向かって来るたくさんの機械のオバケに追われて私はもうパニックになって細い路地裏に逃げ込んだのね。
なんとか一息ついた頃、今度は知らない野良猫達に囲まれて私はまたパニックになり逃げようとしたのだけどその野良猫達に襲われ怪我を負ったのね。全身が痛くてうまく動けなかったけど必死に自分のお家を探したわ。
そしたら道路の反対側から私を呼ぶご主人様の声が聞こえたからもう無我夢中で道路を渡ろうと走り出したら機械のオバケに引かれて私はご主人様の目の前で虫の息だったの。
ご主人様は必死に私の名前を呼んでいたみたいだったけど私はもうほとんどなにも聞こえなかったわ。
そうして私はご人主様の腕の中で意識が消えたの。
私が勝手に脱走したばっかりにご主人様にとても辛い思いをさせちゃった……
だからせめてご主人様が見せたあの悲しげなお顔の記憶だけを消して笑顔のご主人様だけをいつまでもこの胸に刻み込んでおきたいの‼ レテさん‼ こんな自分勝手なお願い叶うのかな…」
ミケはポロポロ涙を流しながらレテに問いました。
するとレテは目を閉じ、ただコクンと頷いたのでした。
ミケの辛く悲しい過去を知り、涙を流すプータロ達。それを優しく見守るレテ。
プータロ達
「僕達はミケちゃんと違って天寿を全うし、ご主人様とたくさんの時間を過ごせて幸せだったんだね‼」
プータロ達は自分達がとても幸福な星の元に生まれたのかを改めて感謝していました。
ミケ
「私はご主人様の言う事を守らなかった
…言わば自業自得なの。だから…みんな、気にしないでね。
それからレテさん。
さっき、嫌な記憶だけを消して欲しいってお願いしたけどやっぱりいいわ。だって最後にご主人様に抱き締めて貰い、ご主人様から温もりを貰った事、私……私、絶対忘れたくないの‼」
そう決意したミケは涙を拭い去るとその瞳はキラキラと輝いていたのでした。
レテ
「ん~どうやら僕の取り越し苦労だったようだね」
レテはそう言うとニコリと笑いながらミケにウインクをしました。
ミケも笑顔でコクリと頷くと広大な夜空を見上げました。
その見上げた夜空にはきっと微笑むご主人様が浮かんでいた事でしょう。
レテ
「さて諸君。
この大草原に上陸したもう一つの理由を教えよう。きっと楽しいぞ~♪
にゃはははは~♪」
プータロはレテの不思議な能力?に対し疑問を抱き始めていました。
ミケが嫌な記憶を消したい気持ちを最初から知っていたかのように。
そしてこの勿忘草が自生する島に上陸した事。
まさか、ミケちゃんが初めから全てを受け入れる覚悟を見抜いていた?!
そして………なにより、虹の橋の真実を…
そんなプータロの考えとは裏腹にレテのお楽しみの言葉にみんなは目を輝かせながら何があるのかなぁ~♪なんだろね♪
と騒ぎはしゃいでいました。
レテ
「ほらほらみんな、落ち着いて。はしゃぎ過ぎて我を忘れないように♪
ところで君達、さっきネズミがどんな生き物かを話していたよね?
……実はね、いるんだよ。…この島に……本物のネ、ズ、ミ、が‼」
プータロの仲間達
「ええええぇ~?! ネズミィー‼」
「いや~ネズミ怖いよ~‼」
「オ、オレは本物のネ、ネズミと遊ぶぞ……」
「ネズミのシッポ見たい~♪」
プータロの仲間達は興奮を押さえきれず騒ぎだしました。
それを見たレテはお腹を抱えゲラゲラと笑っているではありませんか‼
その異様な光景を目の当たりにしたプータロはポリポリと頭をかきながらただただ苦笑いをするのでした。
---暫く時が流れ---
レテ
「みんな、落ち着いたかぃ? では本物のネズミの誘き寄せ方を教えよう」
そう言うとレテは懐深くに入れていた唐草模様の巾着袋を取り出すと方目で袋の中を覗き込み、今度は袋の中に手を入れ何かを探すようにゴソゴソと漁ると、おっ!あったあったと嬉しそうに言いながらなにやら種のようなたくさんのつぶつぶした物を取り出しました。
プータロ
「レテさん、それってなんですか?」
レテ
「これはね、マジカルピーナッツって名前の木の実でね、ネズミの大好物なんだ。これを……そうだなぁ……
あそこに生えてる巨木の根元にたくさんばらまいて後はみんなで木の上に登ってネズミが来るまで待とう♪」
そう言うとレテとプータロ達はみんなで爪とぎをするとスタスタと巨木に登り始めました。
レテ
「ここからは用心深く静かにね。ネズミ達は警戒心が強いから」
レテはヒソヒソ声でそう言うとみんなでネズミが来るのを待つ事にしました。
時折、穏やかに吹きぬける風が島中の勿忘草をサワサワと揺らします。みんなは息を殺しながらネズミがやって来る時を待ちました。
暫くすると巨木の根の周りに生えた草村からカサカサコソコソと音が聞こえてきました。プータロ達は耳をピクンと立て、音がする場所をまん丸眼で見つめていると、赤く光るものを見つけました。
来ました。ネズミです。赤く光っていたのはネズミの目でした。
プータロ達は興味津々にネズミを見ていると、なんとネズミが立ち上がり巨木の上にいるレテに向かって語りかけたのです‼
ネズミ
「レテさん レテさん。いつも美味しい木の実をご馳走してくれてありがとう。ところで今日は一体何匹の世間知らずな猫達を連れてきたのレすか?」
レテ
「チュータロ君、こんばんは。今宵も素敵な常夜だね。
なんと今回はね、君の事をほとんど知らない子達ばかりなんだよ。」
チュータロ
「は~それはまた難儀な事レすね。分かりました。今回も僕達の事を一から教えて差し上げるレすよ」
チュータロはそう言うと、木の上に登っているプータロ達に地面まで降りるよう伝えると自慢のシッポをまるで鞭のように扱いながらプータロ達に一喝しました。
チュータロ
「全員~‼ 整列っ‼ ピシッ‼」
プータロの仲間達は初めて見るネズミでしたがその見た目とは裏腹に凄まじい迫力のあるチュータロに対し、ただただ圧倒されてしまいました。
プータロの仲間達
「な、なぁ?…ネズミってオレ達が想像してたのと随分違わくないか?」
チュータロ
「ムッ‼そこっ‼ 私語は慎めレす‼ ピシッ‼」
チュータロが再びシッポを振りかざし激を飛ばすとプータロの仲間達は思わず耳を伏せすっかり大人しくなってしまいました。
レテはなぜか巨木の上で頬杖をつきながらなにくわぬ顔で眺めているだけです。しかし、プータロだけは違いました。この時プータロは生前、母親から聞いた事のある、とある昔話を思い出していたのです。
プータロ
(なんて事だ。まさかネズミの逆恨みをなぜ僕達や今までここに来たであろう猫達が受けなきゃいけないのさ…それに本物のネズミには肉球一個だって触れた事ないのに。レテさんは一体どう言うつもりなんだ?そしてこのネズミの態度!なんか段々ムカッ腹がたってきたぞ‼)
するとプータロは怒りに身を任せ鋭い爪と牙を剥き出しチュータロめがけ跳びかかりました‼その光景を見ていた他の猫達は突然怒り狂うプータロの迫力と、なにが起こっているのか理解出来ず、茫然自失でした。
プータロ
「レテさん。どうか止めないで‼ レテさんと、この生意気なネズミにどんな関係があるのかは知らないけど僕達 猫だって昔から恨みがあるのを知ってるよね?!」
プータロがそう言うとレテは特に慌てる様子もなく無言で頷きました。
プータロ
「レテさん、ありがとう………
おぃ‼ネズミ‼ よくも僕達 猫を除け者にしてくれたな!」
プータロがそう凄むとネズミのチュータロが再び尻尾をピシッ‼と叩きながら言い返しました。
チュータロ
「一体なんの事レすか?僕にはサッパリ分からないれすよ‼ よく分かるよう説明して下さいれす‼」
チュータロはそう息巻いた。
プータロ
「じゃぁ聞くけど君達ネズミはなぜ僕達 猫に鈴を着けたんだぃ?
君もこの不思議な住人なら知ってる筈だよね? それに昔は猫とネズミは仲良しだった筈だよ?」
その言葉を聞いたネズミのチュータロは思わず目を反らし怯んでしまいました。
プータロ
「やっぱりね……君の遠い御先祖様が猫を騙して一番を取った事なら知ってるんだよ。それに君達が猫を騙さなければ今でも僕達は良い友達でいられたのに………
遠い昔話とは言え、君達ネズミが撒いた種、つまり自業自得なのさ。」
プータロはそう言うと共にクルリと向きを変え、みんなが見守る中、ネズミを背に歩き出しました。
プータロの背後には項垂れ膝をつき茫然としているチュータロの姿があったのでした。
レテ
「チュータロ君。今回の猫達はいつもの猫とは違い、とても賢い猫が一匹だけ居たね。残念だけど君達ネズミにわざわざマジカルピーナッツを運ぶ仕事も今日が最後だ。それから僕からも一言いいかぃ?
君達ネズミは野良猫達の前では食物連鎖の一貫だって事を忘れちゃいけないね」
大昔の物語りを知る猫とネズミ。そして小さな同情が生んだ猫との奇妙な関係はようやく終えたのでした。
レテ
「あのネズミの顔を見たかい?正に傑作だったよね。僕も一猫として気が晴れたよ。プータロ君 ありがとね♪」
結局、楽しい事とは生意気なネズミをギャフンと言わせるレテの個人的な事情なのでした。
長い間、ネズミとの煩わしい関わりを終えたレテは事の他機嫌良く、鼻歌を口ずさみながら猫草と戯れていました。
その様子を見たプータロは他の猫達がプータロの武勇伝を夢中で語っている事を黙認するとレテの隣にちょこんと座りました。するとレテが嬉しそうに口を開きました。
レテ
「君の知識と機転で面倒な役回りが片付いて助かったよ。ありがとね♪」
プータロ
「………レテさん。もうそろそろ真実を話してはくれませんか。」
レテ
「ん~どうやら賢い君にこのまま隠し事を続けるのは難しいようだね。……分かったよ。ネズミとの一件もあることだし君にだけ特別この世界の秘密をおしえるよ。
ただし今はまだ一つだけ。後は君の感性で知って欲しい。
これは僕からのお願いなんだ。」
これまで見せた事のないレテの丁寧な態度にプータロも驚きましたがすぐさま冷静さを取り戻しました。
プータロ
「それではその一つを教えて下さい」
プータロも改めて丁寧にお願いしました。
レテは先程マジカルピーナッツを取り出した唐草模様の巾着袋を再び取り出すと今度はたばこ小道具一式を出しました。
慣れた手つきでキセルに乾燥させたマタタビ草を詰め込み、右手の爪と爪を擦ると火を灯しました。
レテはたばこをプカリと一口吹かすと目を閉じ余韻に浸るかのような面持ちから静かに語り始めました。
レテ
「………もう25年ほど前になるかなぁ…」
たばこの臭いが嫌いなプータロでしたがレテが吹かすマタタビ草たばこは不思議と心地好く感じていました。
レテ
「あの日も いつものように魂を迎えに来た時ね、すでに感じていたよ。君のように変わり種な子がいるとね。その子は観るもの全て吸い込まれそうにとても澄んだ瞳をしていたよ。そう、つい昨日の事のように今でもはっきりと覚えてる。いや、忘れる事が出来ないと言った方が正しいのか…」
そんな感慨に更け レテは再びキセルを口をやると蛍光色の火種がほんのりと仄めきます。
レテ
「その変わり種の不思議な猫はね、先程 君が見た遥か下流にある虹の橋を渡っていったんだ」
プータロ
「え?あの虹の橋は可哀想な魂しか行けないんじゃ…」
レテ
「本来ならね。でも僕が君達を送り届ける場所はあの虹の橋じゃなく……ん~今はまだ詳しくは言えないけれど、もっと違う世界なんだよ」
プータロ
「…じゃぁ、その猫はなぜあの橋を渡った…いや、渡れたのですか?」
レテ
「ん~話せば長くなるけどその猫はね、実はとても用心深いく警戒心の塊のような子だったんだ」
やがてレテの語る話がビジョンのような形となり直接プータロの精神へと流れ込んで来ました。
レテ
「その子は他の猫達と打ち解ける様子もなく、会話もしない子だった。
僕は例外なく君達にもやってみせたように驚かせると案の定、飛び上がりビックリしてくれてね、すぐに打ち解けたんだ。
でもその子だけは勢いの余りその拍子で川へ落ちてしまったんだ。さすがの僕も これはまずいと慌てて彼を探して回ったんだ。でも何故か彼はみつからなかった。それから半日くらい過ぎた頃かな。
なんと彼は自力で川岸づたいに歩いて帰ってきたんだ。
通常なら通り道の違う彼が可哀想な魂達に囲まれ取り憑かれてしまえば無縁仏となり、強制浄化するしか方法がないんだ。だが僕は我が目を疑ったよ‼ なんと彼は可哀想な魂達を両腕いっぱいに救き抱えていたんだ。初の事例に僕は勿論、仲間達もかなり驚いたよ。
更には彼自らの意思で川に入ると可哀想な魂達を解き放ったんだ。
こんな異例中の異例、想像すらしきれなかった。
僕達案内人は彼をこのまま舟猫に乗せるかどうか随分と議論を続けたんだ。でも彼は自らの意思で船着き場へ戻ってきた。だから予定通り彼を舟猫に乗船させる事にしたんだ。でも後に彼がとてつもない奇跡を起こす事になろうとは僕達舟猫の力を持ってしても予想すら叶わなかった。実はね、彼の魂にはとてつもない潜在能力が眠っていたんだよ。」
プータロは尋常ではない彼の不屈の精神力にただただ圧倒されてしました。 美しい夜空に立ち昇り消えてゆく煙り。レテは最後の一服するとキセルをトントンと叩き、灰を落としました。
レテ
「それから僕と彼と二人だけでこの川を下り旅立ったんだ。本来なら次のグループが来るまで待つのだれけど、僕は変わり種のこの子に凄く興味を抱いて他の舟猫達にお願いした。そして僕達は約束したんだ。例の虹の橋を渡るって。」
プータロ
「その不思議な子が本来渡るであろう虹の橋がある筈なのに、なぜ可哀想な魂達の渡る虹の橋を渡る事にしたのですか?」
レテ
「ん~知ってしまったんだろうね…いや、魂が触れ合った事で彼は全てを悟ったのだろう…
流されていく可哀想な魂達と触れ合った時、彼らのどうしようもない悲痛な想いを。だから彼はあの虹の橋の世界を選んだんだ。」
プータロ
「……あの虹の橋を渡った世界………
一体どんな世界なんだろう…いや、虹の橋を渡ったら……その先の世界に一歩足を踏み込めは僕や他のみんなはどうなるのだろう?
こうして今も考えている事自体、ちゃんと覚えていられるのだろうか………ご主人様との記憶を保てていられるのだろうか………」
プータロはそう考えるとまるで雷音にでも襲われたかのように不安感を隠せずにはいられません。
レテ
「怖いかぃ?」
不安に駈られるプータロへレテは優しく語りかけました。
レテ
「君は生まれて来た時の記憶ってものを今までに考えた事はあるかぃ?」
プータロ
「い、いいえ、そんな突飛おしな事 思い付きもしませんでした。」
レテ
「だよね。自分の存在に気がついた時、大抵はお母さんのお乳を飲んで眠ってまたお乳を飲んでお母さんの温もりを感じてたよね」
プータロ
「よくは覚えていないけど気付いた時にはお母さんの匂いとおっぱい、あと、あと……
いつからお母さんって存在に気付いたのだろう…不思議だなぁ………
こんな事 聞かれるまで本当に気付きもしなかった。
レテ
「フフフ。どんなに考えたって思い出そうとしたって こればっかりは誰にも分からない事なんだ。この僕にもね。」
プータロ
「え~と、生まれた瞬間が分からないように死んだ瞬間も分からないって事…かな? 確かご主人様に抱かれてた事まではなんとなく覚えているけど気がついたらここにいた…そう考えると、なんだか死んだ時と生まれた時って似てるような気がする。」
レテ
「君は本当に賢いね その通り。生と死は全く同じ事なのさ
だからどんなに幸福に生きていても どんなに不幸に生きていたとしても生と死の瞬間はだれもが皆 同じなんだよ。」
プータロ
「レテさん、あの可哀想な魂達を見た時からこの話に至るまで疑問を感じていたんだけど、どうして同じ猫として生まれたのに幸福と不幸の差があるのでしょうか?おかしいですよね?
優しいご主人様に出逢えて幸せな日々を送る猫がいれば一方で野良猫として毎日ひもじい思いをしながらの生活。この差ってなぜあるのでしょうか?誰だって幸せに生きる権利はあるし、幸せに生きたい気持ちはみんな同じ筈なのに一体誰が、何の為にこんな落差を作ったのでしょう」
そう言うとプータロは肩を落とし、少し項垂れました。するとレテはこう答えたのです。
レテ
「猫に限らず、生を受けた生き物達はその瞬間から魂の修行を行うんだよ。」
プータロ
「修行?」
レテ
「そう、修行。」
プータロ
「一体なんの為の修行なのですか?僕にはさっぱり意味がわかりません。」
レテ
「それはね、大切なものを護るためさ。」
プータロ
「大切な……もの…?」
レテ
「そぅ。己を含む、大切なもの
愛する人、愛する家族、かけがえのない命
他にもたくさんの大切なものをね。
そのものたちを護る為に魂を磨き 次の器へと引き継ぐ為の修行なのさ。だからどんな境遇で生まれてきてもいつか幸せを勝ち取る為に全ての生き物達は魂を燃やし輝かせ必死に生きているのさ」
プータロは自分の生前を振り返ると僕も世界の歯車の一分だったのだろうか、ご主人様と共有していた時の中、僕はそんな事思いもしなかったと後ろ髪を引かれるばかりなのでした。
レテ
「さて、僕が変わり種の子と共に虹の橋を渡った後の彼の経緯について語ろう。」
レテはそう言うと再び猫草たばこに火を灯しました。
レテ
「君がみた可哀想な魂達が行くあの虹の橋の先の世界には以前、おかしな階級があったんだよ」
プータロ
「おかしな階級? それに……あった?!とは…?」
レテ
「ん~本来なら天国、地国と呼ばれる二つの世界があり天国では魂の安息が約束され一方地国では魂を磨く修業場と言う明確な役割を果す場所があるにも関わらず、あの世界だけに限っては安息と修行を自由に選べたんだ。
でも安息者達と修行者達による対立が起き、やがて猫達による格付けが生まれてしまったんだ。
双方価値観の違いも手伝い、やがて些細ないざこざから戦争寸前にまで発展し、僕達舟猫や上層部さえも迂闊に動けぬ程、事態は急速に悪化の一途を向かえようとしていたんだよ」
プータロ
「本来ならば安住の地である筈の場所で そんな事があったなんて想像すら出来ません。」
レテ
「そう。しかし事もあろうに僕達の舟猫仲間さえも加担する者が現れ事態はもう滅茶苦茶になってしまったんだ。そこで僕ら舟猫達は早急な事態鎮静の手段としてボスハンティングを始めたのさ」
プータロ
「ボスハンティング???…それは一体なんなのですか?」
レテ
「ん~早い話が生前とても強かったボス猫の魂達を探し出す事さ。
僕達も目には目を、力には力でと事態の収束化を試みる事にしたのさ。でもそれは大きな間違いだと気付いた時にはもう既に手遅れだった……」
プータロ
「……今は大丈夫なのですか?」
プータロはそう聞くと息を飲んだ
レテ
「今は平和そのものさ。でもその紛争で命を落とした僕の仲間もいたよ。皮肉な話だろ、虹の橋の世界で死ぬだなんて。本末転倒ってのはこんな事を言うんだろうね」
レテの口調は冗談混じりでしたが、背中の毛がチリチリと逆立っているのをみたプータロは言い様のない複雑な気持ちなのでした。
レテ
「そんな時さ、変わり種の彼がやってきたのは。でもあの世界はもう滅茶苦茶な混沌の中。だけど僕達舟猫は彼を運ぶしかなかった。他の舟猫達もそうするしかなかった。それが仕事だしそうしないと魂達が溢れ更に大変な事になるから。でもできる事ならそれは避けたかったのは本音さ」
プータロ
「????ちょっと待ってレテさん。今僕達が向かっている虹の橋は可哀想な魂達が行く虹の橋とは別の場所な筈ですよね?どう言う事ですか?」
レテ
「あぁ、実はね25年程前までは猫達の魂はみなあの可哀想な魂達が行く世界へと運んでいたんだよ。」
プータロ
「……つまり、25年前とその変わり種の子が関わっていると言う事なのですか?」
レテ
「今思うと僕ら舟猫達は変わり種な彼の中にあるなにかに一辺の希望を託していたのかも知れない。あるいはそのなにかに秘めたる真実も。正直、あやふやな予感だったかもだけど確かに僕ら舟猫達は今まで感じた事のない[なにか]を感じたのは明確だった‼
そして予感は確信となった。なんと彼こそがその[なにか]の持ち主だった!あの世界の状況をひっくり返してしまったのさ! それもたった独りでね」
プータロ
「その彼は一体何者なのでしょうか?いや、そもそも一体どうやって……」
いつの間にか姿を現していた蒼い満月を見上げるレテ。そのお月様にまるで雲を掛けるようタバコの煙をふかすといっとき霞みましたが美しい月光に照らされたプータロに視線を向けると再び語りました。
レテ
「彼があの世界を代えたきっかけ…それはね、さっき見た君達のよく知らないネズミなんだよ」
プータロ
「…えっ?ええ~っ???
あの性悪ネズミの事ですか?」
驚きの余り、またもやプータロの瞳はクリクリ眼になっていました。
レテ
「ああ、……悲劇そのものだったらしい……
実はね、あのネズミが大好物なマジカルピーナッツなんだけど、この世界では非常に貴重なものでね、千年に一粒手に入るかどうかってくらい超レアな代物なんだ。そしてそのマジカルピーナッツを食べたネズミはね、一部の猫達が憧れて止まない貴重な存在なんだ。
なぜならそのネズミを食べた猫は素晴らしい力を得る事ができる一部の猫達が食べたくて食べたくて夢にまでみる正に幻の食材なんだよ」
プータロ
「……あのネズミ…がですか???
ちょっと俄には信じられないです!」
生まれてから殆んどを室内で暮らしたら猫達には無理もありませんでした。しかもプータロが初めて見た本物であろうネズミがあのような姿では尚更です。しかし、野良猫達にとってネズミは大切なエネルギー原です。
レテ
「プータロ君、ネズミを食べる猫と食べない猫の違いってわかるかぃ?」
レテは舌舐めずりしながらプータロに問いました。
プータロ
「………う~ん…僕は今の今まで本物のネズミを見たことがなかったし、さっきの性悪ネズミをみても食べたいだなんて全然思えなかった。
はっ‼ まさか、レテさん?…」
プータロはレテさんがネズミをバリバリムシャムシャ食べる光景を想像してしまい、堪らず吐き気を催すと毛玉を吐き出してしまいました。
レテ
「ニヤリ♪君の想像にまかせる ごろにゃ~ごっ‼」
レテは再び舌舐めずりをしながら嬉しそうにそう答えました。
プータロ
(やっぱりレテさん、あのネズミが大好物なんだ! ひぇ~信じられない‼)
レテ
「プータロ君……今、僕の事……軽蔑したろう?」
レテがそう聞くとプータロはあたふたしながらも好みは自由だからと苦し紛れに言い訳をしました。
レテ
「とても分りやすいリアクションありがとう♪
でもね、その好みや価値観こそが世界を動かすきっかけとなったんだ。」
プータロ
「そう言えばあの性悪ネズミを誘き出す時、たくさんのマジカルピーナッツをばらまいていましたよね。
千年に一粒しか手に入らないマジカルピーナッツをなぜあんなにたくさん持っていたのですか?」
レテ
「以前は凄く貴重な種だったんだけど、今は大量に栽培する事に成功したからね。
だから今となっては珍しくもなんともないのさ。
さてと……それじゃぁそろそろ語ろう、25年前の出来事を。」
そう言うとレテはどっしりと座り込みました。
レテ
「あの頃、力の強い者と弱い者との差は歴然だった。
強い者達は毎日縄張り争いに明け暮れ、弱い者達は力の強い者達に従う事で個々の縄張り内で守られていた。
それぞれのグループには分担があり、ボスは縄張りを護り、ボスを取り巻く者達は共に参戦し、下っぱ達はボス達の身の周りの世話や給仕をしていた。そうして力づくではあったが均衡を保っていたんだ。しかし、ある時期を境に力を望まず、魂を磨き更なる高みを臨む者達が現れたんだ。
彼等は縄張りを持たず肉体的な強さではなく精神的な強さを求めやがて宗教的な存在となり 縄張り争いやボス達の世話をする事に疲れ果てた猫達は次第に精神思念を重んじる宗派へまるで逃げ込むように入門していったのだよ。弱者達は力づくの社会に疲れ果てていたのさ。
その宗派は無駄な争いをする事も他者の世話をする必要もなく、やがて各自に自由と言うゆとりができたんだ。
だが肉体的な力を望む者達にとっていきなり湧いたように現れた宗派のシステムは面白くない存在だった。
それでも当初はお互いが様子を見合う状態だったが、やがてあちこちでいざこざが起き始めるといつしか火種が生まれ、遂には激しい争いへと発展しちゃったんだ。」
プータロ
「同じ力でも肉体と精神が別々では命として意味をなさないのでは?」
レテ
「その通り。だが双方共、がんとして互いの力こそが正しいと主張し合い、僕達舟猫や上層部の猫達さえも打つ手がなかったんだ。
そんな最悪の状況下、僕達は祈りにも似た気持ちで変わり種の彼を波乱の地へ連れてきたんだ。
でも知っての通り、彼は人一倍警戒心の強い子。当初はどちらにも馴染まず、更には人里離れた山奥へ籠ると暫く姿を現さなかった。 因みにその子の肉体はまるで僕達が憧れて止まない百獣の王、ライオンのような肉体の持ち主だったんだ。事実、当初肉体的な強さを求める者達はこぞって彼をスカウトしたが彼はその誘いを悉く拒み、いつしか彼は腰抜け呼ばわりされてしまったんだ。
同時に魂を磨く宗派達の誘いをも拒み続けるとやがて彼は見かけ倒しの臆病者とされ居場所がなくなり尻尾を巻いて山奥へと逃げ出したのだと皆はそう思っていたんだ。
だがね、実はその全くの真逆だっさのさ。臆病者と言うと聞こえは悪いが彼はとても用心深く尚且つ、とても慎重で実に計算高き行動力の持ち主だったんだ。
彼は山へ籠ると例の木の実とネズミの真実をあっさりと理解するとその木の実を食べたネズミを食すと心.技.体を極め全てを超越する存在となった。
そうして神の如し力を得た彼は里に降りると神通力にも似た能力を用いて強者供を捩じ伏せ縄張りを制し、更なる魂の高みを誇示し、そして誰も持ち得なぬ知恵にて世界を統べたんだ。
今まで偏った力のみを求めてきた猫達にとって彼の力は皆が憧れる絶対的存在となりやがて全猫達は彼を猫神様と崇め奉り始めたんだよ。」
プータロ
「レテさん?
一つ疑問があるのですが……」
レテ
「なんだぃ?」
プータロ
「その変わり種の子が木の実とネズミの関係を見破ったのはどんな方法かは分かりませんがその事件?をさっきレテさんは悲劇と言ってましたね。それは一体なんなのですか?」
レテ
「ん~実はその子も君達と同じくネズミが嫌いだったんだ。事実ネズミの存在を知っていたのだが君と同じく食糧とは思えなかったんだ。でもある日、他のネズミとは違い、神通力を操るネズミ達と出会ってね、彼はたいそう驚いたそうだよ。その一部の神通力を持つ彼らに秘密を教えて貰ったらしい。恐らくネズミ達は変わり種の彼の潜在能力を見抜いていたんだ。
しかし神通力を持つ彼らネズミも深刻な問題を抱えていたんだ。
力を持たぬ一般のネズミ達は日々猫達の格好な食料とされ毎日多くのネズミ達が犠牲を強いられていた。そこで力を持つネズミ達は話し合いの末、変わり種の彼に神通力を分け与える代わりにネズミ達の存続を決意したのさ。しかしその手段はあまりに非情な選択だった。それは力を持つ若い一匹のネズミを人身御供とし彼にその身を捧げたのだよ。当然彼は非人道と拒み続けたが人身御供とし選ばれた若きネズミは己の手で生き血を壺へ流し入れると変わり種の彼に己の命が尽きる前に私を食してと懇願したんだ。全ネズミの存亡の為に。我が命を引き換えにしてまで自らを捧げたネズミに心を打たれた変わり種の彼は涙を流しながらそのネズミの血肉を体内に納めたのだよ。」
プータロ
「うぅ、そ、そんな悲しい過去があったなんて……生半可な覚悟ではとてもじゃないけど今の僕には真似出来ないよ‼」
レテ
「僕もその話を聞いた時は流石に言葉を失ったよ。しかし今思えば人身御供に選ばれたネズミは称賛に値する不屈な覚悟の持ち主だったのだろう。
そうして素晴らしき力を手に入れた彼はその力を一切悪用する事なく、あるシステムを築いた、権力者による民衆の統治をね。」
プータロ
「それ程 凄い力だったんだ。」
レテ
「うん。
その気になれば、あの世界を己の意のまま欲望のまま征服出来る程の恐ろしい力なんだけど彼はみんなの幸せを追及し、6人の賢人達を育て上げあの世界の均衡を保つ力に分け与えたんだ。その際使われたのが木の実を食べたネズミの血を使ったと言っていた。
知っての通り、力を持つネズミの血肉を体内に取り込み凄まじい力を得た。しかし、他の猫達にも同じ血肉を与えればいつ誰が暴走し世界を破滅させるか分からない。そこで彼はその6人に血のみを与え己の支配下としたんだ。
人身御供自らが託してくれた血のみであれば6人の内、誰かが、いや、仮に6人が同時に暴走しようとも血肉の力を得た彼ならば難なくその企てを阻止出来るからね。
そうして皆が幸せで平和な国を造る事に成功した彼は次にこの世界を6つに分けたんだ。
それが
天猫界 猫界 霊猫界 動物界 野良猫界 修業界
この6つの世界を。
そしてこの6つの世界を生まれ変わり死に変わり廻り巡る六道輪命を完成させたのさ」
プータロ
「……ではもし仮に今、例のネズミを食べたらどうなるのですか?」
レテ
「それなら大丈夫さ。既に彼の強大な力によりこの世界は彼のルールでロックされているからね。だからもうあの木の実にも木の実を食べたネズミにも今はなんの効力もないんだ。
そして彼の意思でこの川の先にある可哀想な魂達だけが渡る虹の橋の世界を統治したのさ。だから今、あの世界は愛と幸福のみが溢れる【喜びの野】へと変貌を遂げたのさ♪」
プータロ
「愛と幸福の国かぁ……僕もその素敵な国に行ってみたかったなぁ。でも僕達は違う虹の橋を渡るのだから……彼が作った6つの世界のどこかなのかぁ……なんだか残念だな。」
プータロが羨ましそうにそう言うとレテがボソリと言った。
レテ
「ん?行けるよ。」
するとプータロは
にゃんですとぉ~?!と思わず叫んでしまったのでした。
可哀想な魂達だけが行ける世界…
変わり種な猫神が造成した世界…
愛と幸福に溢れ満ち満ちた世界…
そしてその彼が居る世界へ
そんな夢のような世界へ行けるんだ‼ プータロは希望に充ち満ちていたのでした。
レテ
「いやいや~お待たせお待たせ、むこうの子供達のためにとびきり綺麗な猫草を選別してたんだ。」
そう言うとレテは鮮やかな玉虫色に輝く猫草の束を小脇に抱えながら歩いて来ました。
プータロ達
「わぁ~凄く綺麗な猫草‼ それにとっても素敵な香りがする~♪
こんな猫じゃらし初めてみたわ‼」
プータロやミケ、それに他の猫達も瞳を輝かせながらその猫草にみとれていました。
レテ
「さて、子供達のお土産も用意できた事だし、みんなで一緒に行こう、喜びの野へ‼」
プータロ達
「やったぁ~♪
凄いね‼
正に奇跡だよ‼」
プータロ達は尻尾をピーンとたてながら全身で喜びを表していたのでした。
レテ
「ふふふ、みんな喜んじゃって
それじゃぁみんな、一気に飛ぶから爪とぎロープにしっかりと掴まってるんだよ」
そう言うとレテは不思議な呪文を唱えると神通力を使い、一気にあの世界へと瞬間移動したのでした。すると周りの風景が激しい光に包まれプータロ達は眩しさの余り、目を閉じてしまいました。
レテ
「さぁみんな、虹の橋へ到着したよ」
レテの言葉を耳にするとプータロ達は恐る恐る目を開きました。
すると目の前には今まで見たこともないキラキラと輝きを放つとてつもなく大きなアーチ型の虹色の橋が眼下に広がっていたのです。
プータロ達
「………す、凄い……これが虹の、橋……」
余りの絶景にプータロ達はただただ圧倒されっぱなしです。
レテ
「さぁ、行こうか。
因みにこの橋はね、歩かずとも勝手に僕達を運んでくれるんだよ。」
レテがそう言いながら橋へ一歩踏み出すと体がふわりと浮きながら進み出しました。
レテ
「君達もおいで。」
レテがそう促すとプータロ達も一歩踏み出しました。するとレテと同じようにプータロ達の体がふわふわ浮かびながら前に進み出したのでした。虹の橋の眼下には広大な雲海が広がりまるで雲の上を飛ぶように進んで行きます。
プータロ達
「わぁ~僕達、まるで空を飛んでいるようだね。」
今まで体験した事もない夢のような出来事にプータロ達は大興奮しながら仲間達とはしゃいでいました。
暫く進むとやがて橋を渡りきり目の前には重厚で大きな大きな扉が姿をあらわしたのです。
ふわふわ浮いていた体は次第にゆっくりと地面へ戻りました。すると僕達が来るのを待っていたように高貴な装いをした門番らきし二人の猫が出迎えレテに語りかけました。
門番
「これはこれはレテ殿、それから皆様。遠路遥々よくぞお越し下さいました。さぁ我らが主、猫神様がお待ちかねですぞ。」
門番二人が丁重に語りかけると同時に重厚な門が鈍い音と共に開ました。
レテは門番達にありがとうとお礼を言うと僕達は大きな門をくぐりました。
中に入ったプータロ達は思わず息を飲みました。そこには四季を問わず常に咲き乱れる様々な色とりどりの木々や草花、木々にはたくさんの果実が実り、草花は甘い香りを放ち、小鳥達は楽しげにさえずり清みきった小川が流れ、魚達が優雅に泳ぎ、猫達が穏やかに暮らす まるで桃源郷のような世界なのでした。
プータロ達は余りの美しい情景にすっかり心を奪われ、まん丸眼を見開きただただ圧倒されるのでした。
レテ
「どうだぃ、とても素敵なところだろ。何度来てもこの楽園はお気に入りの場所なのさ。」
しかしレテの言葉はプータロ達の耳に届いてはいない様子でした。
レテ
「フフフ、まぁ、この喜びの野を見て冷静でいられるほうが変だよね。」
すると雅なお屋敷から複数の女性猫達が歩み寄り歓迎の舞いを披露し始めたのです。その余りの美しさにプータロ率いる雄猫達はもちろん、雌猫のミケまでもが頬を桜色に染め見とれずにはいられなかったのでした。
プータロ達が歓迎を受けているのを横目にレテは庭の外れに建ててある三角屋根と柱のみで建てられた小さなコテージに行くと使用人にお土産の玉虫色猫じゃらしを手渡しました。
使用人
「まぁレテ様、いらっしゃいませ
いつもありがとうございます。今日はまた一段と素敵な猫草でございます事。レテ様、いつもの御膳で宜しいでしょうか?」
レテ
「うん。よろしく頼むよ。」
そう言うとレテは旅の疲れを癒すように大きな椅子へ深々と腰掛けました。どうやらこの場所はレテのお気に入りの場所のようです。
レテは例の唐草模様の巾着袋からキセルを取り出すと猫草たばこを吹かしました。
するとどこからともなく一匹の猫がトコトコ歩きながらレテの隣にチョコンと座るとその猫が言いました。
猫
「やぁ、レテさん。暫くぶりですね。お勤めご苦労様です。」
その猫はとても体格が良く筋肉粒々でした。
レテ
「相変わらず精進してるんだね。
たまには僕もこの弛んだお腹を鍛えなくちゃだめだねぇ。」
そう言うとレテはお腹のお肉を摘まみながら笑い飛ばしました。
猫
「レテさんはその姿でも充分ですよ。それに絞り過ぎると水に浮く事が出来なくなりますから」
そんな他愛のない話をしていると料理とマタタビ酒を載せた手押し車を押しながら使用人が歩いて来ました。
使用人
「主様、おいで要らしておられたのに気付かず失礼致しました。
主様もお召し上がりになりますでしょうか?」
使用人がそう訪ねると主様と呼ばれた猫は私もマタタビ酒を頂こうと言いました。
使用人
「承知致しました。少々お待ち下さいませ」
使用人はそう言うと一礼し
「レテ様、どうぞごゆるりと。」
そう言いニコリと微笑み再び奥へと姿を消しました。
二人は暫く沈黙するも穏やかな顔つきで花から花へヒラヒラと華麗に舞う綺麗な蝶を眺めていました。その光景は二人が言葉を交わさずとも互いを理解し合う深い絆を意味しているようなのでした。
主と呼ばれる猫にマタタビ酒が届くと使用人を下がらせ二人の酒盛りが始まりました。
互いにマタタビ酒を酌み交わしながらまるで今日、この瞬間を待ちわびていたように。
レテ
「やっとだねぇ」
猫
「………あぁ、随分待った気がするよ」
二人は嬉しそうにそう囁き、共に憂いを分かち合ったのでした。
一方そのころ
プータロ達は一頻り歓迎の食事を終えると庭の一番奥に佇む寺院に案内されていました。寺院内は神聖で厳かでしたがプータロにだけはなぜか言い様のない懐かしさを感じていました。壁面にはこれまで起きた歴史を順に描いたであろう事柄が描かれおり、レテさんが教えてくれた通りでした。
プータロ
(そう言えばレテさんはどこに行っちゃったんだろう)
そう思いながらも壁画やたくさん並ぶ猫仏像達をおもむろに眺めているとふと一体の仏像が目にとまりました。その仏像には見覚えのある首輪がはめてあったのです。プータロはその仏像に近づくと更に言い知れぬ懐かしさを感じその首輪の匂いをクンクン嗅いでみました。するとプータロは
(この匂い、それにこの色、鈴の形‼ 以前、いつも近くで感じていた首輪だ‼………あっ‼ま、まさか、これは……いや、有り得ない‼)
プータロはそう感じると、ある記憶からか打ち震えだしましてしまいました。
そんな時でした。いつもはのっしのっしと歩くレテがまるで別人のように礼儀正しく歩いて来たのです。しかし、今のプータロの頭の中は大混乱でレテの姿を捉えるだけで精一杯です。
震えるプータロを見たレテはあらかた予想していたようにプータロを見つめると無言で肩を抱き寺院の本殿へ誘い立派な金色に輝き鎮座する猫仏像の御前にお供えされていた清らかなお水を雅な器に注ぎプータロに飲ませ落ち着かせたのでした。
程なくして落ち着きを取り戻りたプータロは自分が確信したであろう事実を話そうとするとレテは察したようにプータロの口を塞ぎ、後ろを見てごらん。と優しく囁きました。
プータロはレテの瞳から目を反らし言われた通りゆっくりと後ろを振り向くとそこには見覚えのある一匹の猫が優しい眼差しでプータロを見つめていたのでした。
猫
「優しいご主人様の腕の中、最後まで看取って貰えて本当に良かったね。かつての私のように……プータロ」
プータロが想像していた事は確信となり、現実となったのです。
プータロ
「兄さん!!
ピースケ兄さん!! ほ、本当にピースケ兄さんなんだねっ!!」
プータロがそう問うとピースケは嬉しそうに頷きました。
プータロはピースケ兄さーん‼
と叫ぶと無我夢中で駆け出しピースケに抱きつき大粒の涙を流しながら思いっきり甘えたのでした。
ピースケ
「ご主人様のお陰で長生きしたねプータロ。お前がこの地へ訪れるのを随分待っていたんだ。本当によく来てくれたね。」
ピースケはそう言うとプータロの頭をワシワシと撫でながら、お前の涙や鼻水で私の毛はベトベトだぞと言うもピースケも泣き顔でクシャクシャでした。
かくして奇跡の立会人を務めたレテ。
レテは他の猫達に事情を語り皆で再開を祝いその日は夜遅くまで宴は続きました。プータロは片時もピースケと離れず寄り添い幸福の中、夢の中までも二人は一緒なのでした。
やがて空が白み出し、まだ夢の中であろうピースケの腕を掴むプータロを起こさぬよう そっと手を外すとピースケとレテはいつものコテージへと向かいました。
ピースケ
「レテさん。私とプータロを引き合わせてくれて感謝します。本当にありがとう。」
レテ
「ん~いやいや、ピースケ君が長年待ちわびてたからね。僕もこの歴史的瞬間に立ち会えて嬉しかったよ。」
二人はコテージの椅子に腰掛けると互いは暫く沈黙したまま共に朝日の光を浴びたのでした。
やがてピースケが真剣な面持ちで口を開きました。
ピースケ
「民衆の為とは言え、私の造り上げた副産物がレテさんの宿命をも変えてしまって本当に済まない。」
レテ
「世界の均衡を保つ為…仕方のない事さ。君が気に病む事はないよ」
長く旅を続けてきたレテとプータロにお別れの時間が迫っている事をプータロはまだ知るよしもなかったのでした。
お日さまが天高く昇る頃、ようやく目を覚ましたプータロ。
まだ寝惚け眼を擦りながらピースケ兄さんの事を思い出すと、慌てて飛び起きピースケ兄さんやレテさんを探しました。
するとお屋敷の外にある庭にいたみんなを見つけたプータロは夢じゃなかったんだと改めて一安心するとみんながいる庭へと駆け出しました。
プータロを見たみんなは
寝坊助さん。おはよーと言いながらプータロの元へ歩き出しました。
プータロはピースケの元へ駆け寄り抱き付くとピースケは心配せずとも私はずっとここにいる。だからお前もこの地に留まり共に暮らそうと言いました。
プータロは大喜びで何度も頷きながらおおはしゃぎしてしまいました。
レテはプータロの幸せそうな姿を暫し眺めるとやがてプータロに寄り添い真剣な面持ちで語り始めました。
ピースケや他の猫達も見守っています。
レテ
「実はねプータロ君、僕はそろそろ次の子達を迎えに行かなくちゃいけないんだ。」
するとまだ何も聞かされていないプータロは
「分かったよ。気を付けてお勤め頑張って下さいね。」
と、レテさんがまた帰って来ると思っていました。
レテ
「……プータロ君、僕達舟猫はね、一度運んだ魂は僕達の記憶を消去しなくてはいけないルールなんだ。」
プータロ
「えっ?…それって一体どう言う事なの?」
プータロはレテが言った事がよく分かりませんでした。
レテ
「本来、君達魂に僕達舟猫や前世の記憶を残す事は固く禁止されているんだ。なぜなら次に転生し生まれ変わった時、この世界の仕組みを思い出すと魂に不具合が生じ、二度と生まれ変わる事が出来なくなってしまうんだ。だから今まで一緒に旅を続けてきたけど君達の記憶を消去しなくてはいけないんだ。ミケ君や他の猫達には既に説明し了承を得ている。と言っても了承の有無を問わず嫌がおうでも記憶は消え失せてしまうんだけどね。」
レテは少し寂しげな顔でプータロの瞳を見つめながら言い聞かせるようにそう言ったのでした。
プータロ
「そ、そんな…いきなりそんな事 言われても、はいそうですかなんて聞けないよぉ‼ そ、それにレテさんとピースケ兄さんは互いに記憶があるじゃないか‼」
するとピースケが言いました。
ピースケ
「我々はこの世界の均衡を保つ特別な存在。だからこの確固たる特別な絆と言う記憶だけは決して消去してはいけないのだ。
賢き我が弟よ。今のお前ならば十分に理解出来るであろう。
それに一番辛いのはお前ではなく、このレテ殿だ。
彼は膨大な時の流れの中、沢山の魂達をそれぞれの虹の橋へ渡し廻る案内人だ。それに過去、何度も共に旅を続けた魂達の中にはレテ殿の知っている魂とも再度出逢っているがその都度レテ殿は決して秘密や掟を破った事のない悲しき宿命を背負わされた冥府の神なのだよ。その悲しき宿命に比べればプータロ…
お前は私とこうして出逢うことが出来た希にみる幸運者だ。
どうかレテ殿の事を友と、いや、親友と想い慕うのであれば気持ちよく送り出して欲しい。」
レテ
「プータロ君。
君にはまだ僕の本当の名前を教えていなかったね。
……今更だけど僕の本当の名前は
ボタミ.メソン.レテ
忘却の川の案内人て意味なんだ」
プータロ
「…レテさんで充分だよ…」
レテ
「……そうだね。ありがとう」
プータロ
「じゃあいいよ。僕はピースケ兄さんと沢山修業を積んで、そんでもっていつしかレテさんの事を必ず…必ず思い出す!!」
レテ
「そいつは頼もしいなぁ。流石はピースケ君の弟だ。
分かったよ。君がいつか僕の事を思い出すことができたなら
今度は三人で、あの思い出あるコテージで心ゆくまで語り尽くそう。それまで……暫しのお別れだね」
そう言うとレテは振り向かず忘却の川へと帰って行ったのでした。
いつしか自分を思い出してくれるであろうプータロを待ち続けながら………
ピースケ
「さて、プータロ お前の信念が本物ならば例え我が弟のお前でも容赦はせぬぞ!心して修業せよ!!」
プータロ
「はい‼兄さん、いや兄上‼」
こうしてレテとプータロ達の長くて短い不思議な旅は幕を下ろしたのでした。
おしまい