黒守勇人チーム
黒守くん周辺の人物登場!です
甲高い音が広場に鳴り響く。昨日、和也達が練習していた場所の右隣に位置する、並の高校の校庭ほどの広さを持つ演習場。本来の名前は第二演習場という名前なのだが生徒からは広場と呼ばれている。いくつかのコートに分かれていて試合をするのにはうってつけの場所だ。その広場の一番左、第一コートで今、二人の生徒が刀を振っている。模擬戦などに使われる学園から貸し出されるものだ。凄まじい速さの打ち合いを一分ほど続けていたがやがて男子生徒の方が女子生徒を押し始めていた。
「ハッ!」
男子生徒が素早く湧構えからの一撃を放つ。女子生徒はそれを受けるが予想以上の威力に刀が大きく弾かれた。
「くっ」
女子生徒が思わず口にする。男子生徒はその隙を見逃さない。流れのままに左上段からの強烈な面を放つ。女子生徒はかろうじてその一撃を受けることに成功するがわずかな遅れと力の差により手から刀がこぼれてしまった。
「はい。勇人君の勝ちー」
元気よくそう言ったのは渡辺千恵。二年生上級組で勇人と同じチームの女子生徒だ。やや茶髪がかったショートヘアーとスラッとした健康そうな体つきは彼女がスポーツマンであることを物語っている。彼女は両手に水筒を持ち、戦っていた二人に駆け寄った。
「水!二人ともお疲れ」
彼女から渡された水筒を先程まで戦っていた二人、黒守勇人と菜ノ原怜は受け取る。怜はその水を丁寧に口に運んだ。
「やはり勇人は強いな。刀では勝てそうにない」
水筒の蓋を閉めながら彼女は言う。少し落ち込んでいるようにも見えた。二人は共に剣を幼いころから習ってきた者同士だ。同学年では並ぶもののない剣の腕を持つ。しかし入学してからの二人の試合では勇人が勝ち続けている。
「いやいや、怜さん。何度も言うがあなたの剣の実力は間違いなく最上位の者だ。勇人に勝てないのは単純に男女の筋力やスタミナの差だろう。別に落ち込む必要はないと思うがね」
そう、やや淡々とした口調で言ったのは同じく二年上級組で勇人のチームの一員である来栖明。ボサボサの髪に眼鏡といういかにもアレな恰好な上に屋外でパソコンをいじっている。画面には日曜の朝にやっている少女向けのアニメが再生されていた。
「おーい!次、私が試合したいんだけど。明、あんたが相手になりなさい!」
千恵が元気いっぱいに手招きする。明はわずかに目を画面から逸らして彼女を見ると大きくため息をつきアニメを停止させた。
「おまえと試合することのメリットがキュアプリを見ることのメリットを上回ったら受けてやろう。さあ述べろ」
「はぁ?そんなの美少女の私と試合できるっていうだけで十分じゃない。アニメなんかと比べないでくれる?」
それを聞いた明はパソコンのマウスに手をかける。
「悪いがおまえは俺の出した条件を満たせなかった。試合はしない。そもそもこんな暑い中でおまえみたいな運動馬鹿と試合したら病気になる。どちらにしろお断りだ」
そう言って再びアニメを見始める明。千恵は今にも飛び出しそうになっていたが怜が「まあまあ」と言って彼女を止める。そして代わりに自分が相手になると言った。それを聞いた千恵は素直に頷いて、大人しくなる。二人がコート上のラインに立つと、勇人は試合の邪魔にならないようコート外に移動し明が座っているベンチに腰をかけた。
「たまには相手になってやったらどうだ?おまえだって嫌なわけじゃないだろう?」
勇人が明に言う。それを聞いた明は再びアニメを止め、勇人の方を向く。
「近接戦闘じゃ勝負にならないよ。千恵が一方的に俺を殴って終わり。お互い成長を望めない無益な戦いになるだけだ。特に俺が」
勇人が「はは」と笑い、目の前で繰り広げられている戦いを見る。千恵が怜の周りを素早く動きながらパンチ、キックを繰り出し攻撃する。怜はそれらをすべて刀でピンポイントに受け止め、刀を握っていない左手で魔術を操る。一見、怜の防戦一方にも見えるが勇人と明には周囲に少しずつ発動タイミングを操る形式の魔術の罠が張られていることに気が付いていた。
「怜さんの勝ちかな?」
明が呟く。勇人は黙って観ていた。怜が千恵の蹴りを刀で受け止めて大きく薙ぎ払う。受け止めていただけの先程までとは違う動きだ。千恵が大きく後退し、二人の距離が離れる。怜は刀を構え千恵をまっすぐ見る。
「来い!」
怜に挑発された千恵は足に強化の魔術を先程よりも強くかける。一歩踏み込み凄まじい勢いで怜に突進した。
「馬鹿かあいつ。少しは学べよ」
明が呆れたように頭を抱えた。しかし勇人はそれでもなお試合を見つめる。
「舞え!黒鷺」
怜が魔術を唱える。日本由来の上級魔術。学生で使える者など全国でも数えられるほどしかいない。怜により魔術が発動され、彼女の周りからおびただしい数の黒い鳥が生まれる。そしてそれらが突進してきている千恵を襲った。躱せないだろう。少なくとも過去はそうであった。凄まじいスピードで前進している彼女が魔術を躱すのは難しい。怜がそう思った刹那だった。千恵の足が空中の何かを捉える。一瞬そこには何も無いように見える。
「魔力障壁を設置しておいたのか」
勇人が呟き、明もそれに気づく。魔力障壁とはつまりは魔力による壁。防御魔術の基礎となるもので決して難しい魔術ではない。彼女はそれを先程の戦闘中に空中の何か所かに配置し、維持していたのだ。
「今回はちょっと頭使わせてもらったよ!」
「使ってねーよ。普段が使わなすぎなんだよ!」
明の突っ込みを気にせず、障壁を足場にしながら華麗にステップを踏んでいく千恵。怜による魔術が彼女を追尾するがあまりの速さについていけない。そのまま千恵が怜に徐々に接近し、近接戦闘の間合いになる。
「もらったよ。怜ちゃん!」
そう言った千恵は魔力障壁を蹴って勢いよく怜に蹴りを入れた。凄まじいスピードで蹴りが怜に迫る。普通の生徒ではまず躱せない。しかし怜はあと三十センチで当たるというところでわずかに体を逸らしその蹴りを躱した。
「はれ?」
千恵が変な声を出す。怜はそのまま千恵の首を掴み地面に抑えつけるようにして千恵を拘束した。左手に握られた刀の先が彼女の額に迫る。
「ギ、ギブ」
目を大きく見開いてそう言う千恵。見ていた明も驚いた様子だ。アニメを止め忘れている。怜は千恵の降参を聞き、彼女の拘束を解くと刀を鞘にしまって額の汗を手で拭った。
「ふう。まさか黒鷺を越えてくるとは……驚いたぞ千恵」
清々しくそう言う怜。その顔にはまだ余裕がある。
「もおー、驚いたのはこっちだよ!死ぬかと思った!」
「いや、黒鷺を越えるとは思わなかったから……少し真剣になってしまった」
「その前は真剣じゃなかったってこと?」
「いや、そういうわけでは……」
「怜ちゃんの意地悪!」
そう言い怜に抱き付く千恵。怜は「た、助けてくれ」と言ながら勇人の方を見ている。勇人はそれに笑いながら手を振った。
「おい、勇人。中級組のお前の友人のチーム決まったみたいだぞ?」
明は女子二人がじゃれ合っているのに見向きもせずに勇人の肩を叩く。勇人も和也のチームのことが気になり、二人から目を話して明が操作しているパソコンの画面をのぞき込んだ。
「おまえこんな情報どこから手に入れているんだ?」
「学園には俺みたいなのが結構居て、そいつらが学園内の情報を特定の掲示板に書き込んでるんだよ。今なんかしょっちゅうチームの結成報告が書きこまれているな」
勇人が和也の名前を見つける。その下には智花の名前もある。
「ええと……和也、智花、八田と雨堤……雫?」
「知り合いか?」
「いや、俺は知らない。女子だし智花の友達かもしれない」
「学園のデータベース見てみるか?」
「ああ、頼む」
明がキーボードを軽快に操作して学園のホームページからデータベース画面に移行する。学園のデータベースには各生徒の能力値が今までの成績を基に掲載されている。ログインにはパスワードと網膜認証が必要でこのパスワードは教員と上級組の情報管理の分野で優れた成績を収めた五十人にしか公開されてない。そのためこの権限を持っている生徒はチームに一人は欲しい人材となる。パスワードを入力すると画面が網膜認証画面に切り替わる。明が眼鏡を外して画面をまっすぐ見た。すると「clear」の文字が表示され、画面がデータベースに切り替わる。
「ええと中級組の二年生……雨堤雫。」
情報を入力していく。すると生徒が絞りこまれていき、雨堤雫という女子生徒の情報が写真付きで出てきた。
「うわ、なんだこいつ。ちっちゃいな」
「あんたが言うな!」
気が付くと後ろから怜と千恵も覗いている。怜はひどく疲れた様子だ。
「ええと……まじかよ。こいつ全能力値C以上だぞ」
そう言われて勇人が彼女、雨堤雫のデータを見る。確かに全ての能力でCランクを越えていた。このランク付けはA~Eの五段階で二十種類以上に分けた能力を評価するものなのだが全能力がCランクを越えているのは上、中級組を合わせても非常に珍しい。もちろんCランクは決していい評価と言うわけではない。しかし人には長所と短所がある。例えば明は情報とサポート魔術に関する能力はA,Bが多く素晴らしいが、攻撃魔術、体術といった能力は軒並みEだ。このようにいい評価の能力も悪い評価の能力もあるのが普通なのである。もちろん例外もいるが。
「攻撃魔術や体術に関する能力の中にはA,Bも結構あるな。戦術や指揮系統もBがある。かなり優秀だ」
勇人の言葉にその場にいる一同が頷き、唸る。それくらいに雨堤の能力は高かった。中級組なことを疑うほどに……。
「まあ、八田慎二という例が既に存在するからな。入学後に能力を伸ばすものもいるさ」
この学園ではカリキュラムの都合上、一年生と二年生の間ではクラスの再編成は行われない。そのため入学後に能力に伸ばしたとしても二年間は同じクラスなのだ。そしてその最たる例が八田である。彼は入学後に劇的に能力を高め、今では上級組でも平均以上の能力を備えているとすら言われる。
「そうなるとあれか?おまえの友達のチームには二人も中級組(仮)が存在するのか?そんなチームを組むなんておまえの友達もたいしたものだな」
明が嫌味っぽくそう言う。確かにその通りだった。正直、勇人は友達と言えど八田が和也と組んだことすら意外に感じていた。模擬戦は決してお遊びではない。けが人も相当数出る。何より自分の力を示すチャンスだ。彼にとって和也や智花が悪いとは言わないが釣り合っているとは言えない。
「まあ強者は強者に引かれると言う。八田目当てで入ったという可能性が高いだろう。フォーメーションも彼女が前衛をやるのであればベストと言える」
言い終わると少し考え込むようにして遠くをみる勇人。三十秒ほどそうしてから「挨拶でもしてみるか……」と呟く。彼は雨堤雫と言う女子生徒が気になった。和也と智花のチームメイトであること、中級組ならざる能力を持っていること、そしてそれだけの能力がありながらの四人の中の誰一人として彼女を知らなかったこと。少し不思議に感じる。もちろん和也と智花のチームが強くなったことは嬉しかった。この機会に力を伸ばし、いい成績を収めてくれたらと思う。
「よし!あと一戦したら終わりにしよう。俺と明、怜と千恵でタッグマッチだ」
「わかった」
「OK!」
「まじで?」
怜、千恵、明がそれぞれ返事をする。そうして再び広場に甲高い音が鳴り始めた。




