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虹の誓約  作者: mosura
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胎動

物語が動き始めます。

「た……す……て」

「え?」

和也は気が付くと知らない場所にいた。真っ白な壁に真っ白な天井。その白はまるで自分の存在すら白に染めてしまう、そんな感覚を覚えるような場所だ。全く知らないにも関わらずどこか懐かしい気もする。

「たす……て……」

声が聞こえる。弱々しい少女のような声だ。その声に聞き覚えはない。だがあまりに弱々しいその声に和也は自然と答えてしまう。

「誰だ!どこにいる?」

返事はない。和也は目を凝らす。するとその空間の奥に水晶のような七色に光る柱型のものが見えた。和也は思わず手を伸ばす。

(プシュー……シューン)

高性能な自動ドアが開閉するような音が後方から聞こえる。和也は振り向こうとする。しかし何故か振り向けない。体が拘束されたように動かない。

「助けて!」

その声に触発されるように和也は必死に体を動かす。手を、足を必死に動かそうとする。だが動けない。その間にも何度も「助けて」という声が聞こえる。和也にはその悲しみや恐怖が伝わってくる。思わず和也の目から涙がこぼれる。そして光が視界を覆う。七色の光、虹の光が世界を覆う。

「助けて!…ゆうっ」

「かずや!」

「…」

「……」

「……ジィ」

「ジリリリリリリ」

「ジリリリリリリリリリリリリ」

「……!」

和也は勢いよく体を起こす。場所は自分にとって最も見慣れた場所、自分の部屋だ。窓とカーテンの隙間から光が差している。暖かい日の光だ。いつもと同じように朝六時半にセットされた目覚まし時計が音をあげている。目覚まし時計を止めるとゆっくりと立ち上がりリビングに向かった。いつもよりも目も頭もすっきりしている。たまに見る悪夢が体の調子をよくするという話を聞いたことがあるが本当なのかもしれない。リビングではいつものように父親が朝食の用意をしていた。

「おはよう和也」

「おはよう父さん」

いつも通り挨拶する。和也の父はコーヒーを淹れているところだ。

「今日はいつもよりすんなり起きてきたね。和也が起きてくる時間帯はだいたい僕がコーヒーをカップに注ぎ終わって砂糖の容器を持っているときだからね」

「うーん……。凄い夢を見たせいかも。目が冴えている」

「夢かい?凄い夢って言われると気になるね」

「凄すぎてよくわからない夢だった。見ている時は怖かったけど改めて思い出すとそうでもないかな。あー……あと」

和也は少し言うのをためらう。そんな和也に父は少し不思議そうな顔をするが問い詰めたりはしない。朝食の用意が整ったようなので二人は席に付く。コーヒーを一口飲み和也が再び話しだす。

「夢の内容に全然覚えはなかったんだけどさ、一つだけはっきりと覚えのあることがあった」

和也の父は何も言わない。ただ和也をじっと見る。

「実はさ、目が覚める直前に名前を呼ばれたんだ。その声は……母さんの声だった。全体的によくわからない夢だったけど、それだけははっきりとわかった」

「ほう。母さんが?」

和也の父がトーストをかじる。

「母さんの夢ならいい夢じゃないか。いいなー。僕も母さんとラブラブな夢見たいな」

「うん。まあそれはいいとしてさ」

「ん、息子が冷たい!」

「ハハハ」と軽く笑い再びトーストをかじる父。一方の和也はまだコーヒーしか飲んでいない。

「母さんの声、とても焦っていたんだよね。まるで逃げて欲しいかのような叫び声で俺の名前を呼んでいた」

「うーん……ちょっとそれは嫌だね」

コーヒーを一口飲んで続ける。

「僕もその場にいたわけじゃないから確証はないけど……もしかしたら和也を助けた時の母さんかもね。和也はあの時のことは殆ど覚えてないだろうけど、無意識に頭に残っているのかもしない」

和也は考えながらトーストをかじる。十二年前に何が起き、和也と母がどういう状況にあったのかは既に何度も父や医者から聞き知っている。だが和也には実感があまりにも湧かなかった。何度聞いても自分とはまるで関係のない史実のようにしか捉えられない。

「まあ所詮夢だし。久しぶりに母さんの声が聞けて得したと思うことにするよ」

「そうだよ~。母さんは僕たちを見守っていてくれるんだ。だから僕もお礼に母さんの写真にチュウを」

「あ!やべ。そろそろ学校に行く用意しないと。いつもより早めだったから余裕だと思っていた。父さん今日何時くらいに帰ってくる?」

「あ、はい。八時くらいです」

「俺、今日から授業終わった後少し魔術の練習をするからさ。帰るのがいつもより遅くなる」

「そうなの?魔術の練習なんて偉いなー。僕は全然魔術使えないからね。父さんの分まで頑張ってくれたまえ。くれぐれも無茶はしないように」

「うん」

和也は急いでもろもろの準備をする。着替えなどをすべて終え、自分用の弁当を作ろうと冷凍食品を取り出した時だった。智花が弁当を作ってきてくれると言っていたことを思い出す。

「あれ?ということはまだ時間に余裕はある?」

このまま家を出ればいつもより三十分くらい早く着くことになる。しかし和也はすぐに学園に向かうことにした。たまには早めに着くのも悪くはないだろう。智花や八田の驚く顔も見ることができる。

「行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい。気を付けてね」

いつものように父親に見送られながらいつもより少し人気が少ない道へと出て学園に向かった。道中和也は今朝見た夢について未だに考えていた。父には母の叫び声のことしか話さなかったが他のことも気になっていたのだ。あの白い空間はどこなのか、声を挙げていた主は誰なのか、その声の主は何に怯えていたのだろうか、そして……彼女が最後に助けを求めたのは誰なのか。普段夢など気にも留めない和也だが今回の夢は気になった。だから考える。考えて、考えて、考えて。気が付けば和也は学園の正門の前に着いていた。


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