戦場
fate映画観ましたw(
「うわあぁぁぁ……」
空に青年の声が響き渡る。声変わりの時期らしい少し高く、響き渡るような声。しかしそれは魔術師が戦場にて発するにはあまりに臆病な音に思われる。魔術師は戦場では指揮を執る側。その魔術師がそんな情けない声を発すれば、部隊の士気に関わる。もっともここにその部隊はいない。彼らは先陣を切って、すでに戦闘を始めている。彼らが今いるのはその真上だ。
「シンプルに行きます」
急いで大きめの輸送機に搭乗した四人を前に、笠原優一はこう言った。シンプルなのはいいこと。戦争など経験したことのない四人にとって、詳しい作戦を言われたところでわからないし、実行もできない。宿題のようにやることを決めてもらった方がやり易い。人間、他人の指示に従って生きている方が楽である。
「上空から一気に敵の首領、マキナ・フローレンのいる地点へと降下。彼女を即座に鎮圧後、ジェラルド・マレフィウムの居場所を吐かせます。あとは私がそのまま彼女のもとへ向かいましょう。あなたたちの役目はマキナの方です」
「いや、それ上手くいくのか?」
八田慎二が苦笑いを浮かべて質問する。彼の言うことはもっとも。言うは易く行うは難し。そもそもの問題として、まずマキナの居場所がそこまで正確にわかる保証はない。和也の持つ虹の欠片はそんなにもはっきりと反応を示すものなのか?少なくともアルフレッドとの戦いではそんな感じはしなかったが。
「水瀬君、もうすでに感じるものがあるでしょう?ここの中だとどこですか?」
「……」
和也がホログラフィックの地図上の特定の範囲を黙って指し示す。直方体の倉庫が多数。錆びや劣化の具合から相当古いものであることはわかるが、それでも大きさとあまりにも異様な鈍い金属光沢が迫力を感じさせる。この多数の建物の中のどこかにいるのであろうか?和也は自分の人差し指を見つめた。自分でも意外なほど、明確に彼女の場所が判明したことに驚く。そして同時にいつもよりも多くの魔力が体の中に、血の中に流れていることを実感する。
「なるほど」
少し嬉しそうな表情をする和也。その横顔を智花が不安そうに見つめている。智花が手を伸ばしてそっと和也の肩に手を乗せようとすると……
「和也!」
銀髪の少女が抱き着くように和也に飛びかかる。和也はぶつかりそうになった彼女の頭を手で抑えて、そっと体を支えてあげた。
「和也、お空飛ぶ?」
「うーん……飛ぶというか落ちる?」
「私は空が大好きなの!だから楽しみ!」
雫が笠原に視線を移す。笠原は困ったように笑った。
「彼女も作戦には同行します。安心してください。彼女の面倒は主に私が見ますので。それに彼女も戦えるので大丈夫です」
雫の表情は半信半疑といったところ。まあそれはそうだ。彼女は、見た目はただの子供、頭脳もただの子供、抱えているものは爆弾。本来ではあれば、和也と同様に戦場に赴くべき存在ではないのだから。
「場所は特定できたとして、マキナをどう殺す?当然、有力な護衛もいるだろう。本人の実力も高い。俺らだけで殺れるか?」
「そうですね……」
笠原は、八田を笑いながら見る。それに八田はなんの反応も示さない。至って真剣な表情である。真剣?なにか変だ。
「主に私が戦います。皆さんはサポートで結構。護衛どもはどうせ来ているであろう彼女たちに任せます」
彼女たち?誰のことであろうか?まあどちらにしてもさらに細かく場所を特定するには
実際に赴くしかない。幸い自分たちが直接戦闘する機会は少なそうだ。頑張ってサポートするようにしよう。和也がイリスを見る。
「あ、ちょうど出てきましたね。さすがに早い。では私たちも行きましょう。遅れたら彼女たちに押し付けられなくなります」
笠原がそう言うと、輸送機のハッチが開く。強い風が四人に吹き付けた。その中で和也は見る。
「あれ?」
心臓が急激に高鳴りを始める。自分が気づいていないことがある。このまま進めば大きなものを失う。そんな感覚に支配される。和也は急いでなにかを叫ぼうとするが、強烈な風がそれを許さない。
「あ……」
気が付くと空を舞っている。とっさに背中に装着されたパラシュートを確認した。大丈夫、大丈夫。苦しい。呼吸が整わない。のどが詰まる。
「和也!」
声のほうへ顔を向けた。イリスが嬉しそうに手を振っている。彼女の銀色の髪が、まるで星のようなきらめきを放つ。
「綺麗!」
透き通るような声に誘われて、和也は空を見た。下では大きな爆発音がする。今も多くの命が失われ、赤い血が流れているのだろう。しかし美しく雄大な空がそれらをかき消す。和也の目に七色の何かが……。
「……⁉」
和也はハッ!と息を呑む。激しく呼吸して、息を何とか整えようとする。ふと、頬にふさふさの何が触れた。よく見るとそれは見慣れた可愛らしい縫いぐるみ。
「和くん!」
森谷智花。ずっと一緒に生きてきた幼馴染。手を伸ばす。彼女の手に触れる。それだけで呼吸が楽になる。二人は手を繋いだまま、分厚い雲を突っ切った。叫ぶ。臆病で、情けない声で。そうして視界が開けた。
「八田くん!」
雫がそう叫ぶと同時に、六人を煙が覆った。ただの煙ではない。八田の発動した幻術による煙。魔術師であればそれが魔力でできたものであることは容易にわかる。二人の咄嗟の判断素晴らしかった。なぜなら、目の前に広がるのは黒と灰色と赤。耳を劈く忌まわしい音があちらこちらから聞こえてくる。右でヘリコプターが爆発した。左で魔術により人が霧散した。目の前で……二十歳ほどの青年がハチの巣になった。でも六人には何も起こらない。煙が存在をかき消してくれている。
「パラシュートを開いてください!着地しますよ」
大きな声で笠原が指示を出す。和也は慣れない手つきで紐を引っ張ってパラシュートを開いた。智花やイリスも何とかなったみたいだ。そんな中、雫がパラシュートを開いているにもかかわらず、凄まじいスピードで降下していく。
「安心しろ。あいつが先陣切ってくれるみたいだぜ」
八田の言う通り、雫は小さい体を丸めて転がるように、鮮やかに着地する。その瞬間、反乱軍の兵士と思わしき物が十人ほど彼女に気が付いた。アサルトライフルの銃口が彼女を捉える。
「蠍の尾よ……」
彼女の手にいつの間にか握られたパルチザンが、弧を描いて空気を切る。するとその槍にリーチよりも遠くにいる兵士三人の頭が吹き飛んだ。
「魔術師か……。一斉に畳みかけろ!」
弾丸が雫に降り注ぐ。しかし彼女の表情に変化はない。迫りくる弾丸を嘲笑うかのように無視する。弾丸は彼女の体に到達する前に、彼女の周りを覆う魔力の壁によって、消滅した。
「まじか……」
和也にとっては衝撃の光景。今まで幾度となく魔術師は強いと言われてきたが、実感はなかった。しかしここにきてようやくそれが証明される。自慢ではないが、雫が体に纏っている程度の魔力なら和也も容易に可能。それでいとも簡単に銃弾を防いだ。
「くそ……」
兵士がうめき声をあげる。雫のステップをまるで見切れていない。魔術を使った加速に手も足も出ないのだ。でも和也には捉えることができる。練習で彼女と戦うときの方が速い。これくらいなら序の口だろう。それでも兵士を圧倒できる。
「片付いたわ」
気が付けば、十人全員が殺されていた。雫が顔についた返り血を、綺麗な制服で拭う。
「わかったでしょう?魔術師は反則的なの。熟練の兵士が、ひよっこの魔術師に手も足もでない。通常武装では魔術師にかすり傷一つつけられない。魔力を使えるとはそういうこと。ここからは自信をもっていきましょう」
「戦場ですので、あちらこちらから銃弾やら爆弾やらが飛んできます。魔力を常に纏っていてください」
和也が魔力を覆う。身体が綺麗な球形の青い魔力に覆われた。
「そういえば和くんのは球形なんだよね。練習したけど、私にはできなかったよ。やっぱり和くんはすごいね!」
そう言いながら、智花も魔力を纏う。以前よりスムーズに、効率的にできていることがわかる。八田は相変わらず、素晴らしい。イリスは……彼女も綺麗な球形。透き通るような透明さで、魔力が視覚できないほど。
「では、進みましょう。私が先頭、すぐ後ろに水瀬くんが着いて来て下さい。だいたいでもいいので、方角を教えていただければ進み続けます。それと敵の雑魚兵は無視しますが、魔術師に遭遇した場合はすみやかに排除します。あなたたちが普段使っている陣形をとってください。戦場では、いかにスムーズにことをこなしていくかが鍵になりますので、おしゃべりはなしで」
瞬間、笠原が地面を蹴って飛ぶように前進する。和也たちもそれに習って、加速する。スピードはとてつもなく速い。それでも最低限、和也が着いていける程度には加減しているのだろう。そして、和也は見た。進行中の笠原の体が、綺麗な球形の魔力に覆われていくのを。その魔力は黒い。その黒に和也は魅入られる。何もないのだ。黒が連想させる悪や恐怖はない。ただ孤独と沈黙がある。
「……」
進む。進む。周りはほとんど見えていない。助けを求める声を聞いた気がする。崩れた家の瓦礫の中から子供の泣き声が聞こえた気がする。でも聞こえないふり。着いて行くので精一杯。ときどき自分たちも銃で撃たれているが、魔力が防いでくれると信じて進んでいく。そしてその間も徐々に欠片の共鳴が強くなっていった。
「近い」
和也が全員に大きな声でそう伝える。と、同時に笠原がナイフを数本取り出した。それを、スピードを維持したまま、正面に投げる。すると目の前で魔力の衝突による爆発が起こった。
「なぜ貴様がここにいる⁉」
炎の中から聞こえてきたのは女性の声。凛とした美しい、しかしわずかに掠れたような声だ。
「くそ、ただでさえ騎士団の幹部どもが来ているというのに……。厄介なことになる前にここで殺す!行くぞ、我ら、ワルキューレに敗北はない」
和也には攻撃が来るのがわかった。だから和也は刀を抜く。飛来する投擲物に当たるように刀を構えた。
「え?」
刀で防いだ感触がない。それでわかった。攻撃を防ぐことができなかったのだ。しかしこの前ほどの痛みではないので、軽傷だと判断。
「馬鹿、下がれ」
襟を後ろに大きく引っ張られた。そして自分の前に八田が出る。八田の発動した防御魔術が再度飛来していた攻撃を防いだ。さらに八田の前にイリスが出ていく。
「和也をいじめるなー!」
イリスの発動した魔術らしきものが前方に広がり、一帯の建物を崩壊させる。砂埃によって、視界が遮断され、前方からの攻撃が止む。
「一旦、撤退」
「了解。サラスヴァティ・ヴェータ、サラスヴァティ・ヴィーナ」
音色が響き渡る。八田がフルートを吹いているのだ。幻術が戦場に広がる。美しく、人を惑わせる空気の波動が鼓膜を振動させる。その間に八田以外の四人は物陰に身を潜めた。
「水瀬くん、大丈夫?」
雫が不安そうに聞いた。智花は今にも泣きそう。そんなに傷が酷いのだろうか?
「結構やばい?」
「いえ、見た目は殆どノーダメージ。でも……ワルキューレの魔術よ。直撃して、外傷がないなんておかしい。体内に直接干渉するものか、あるいは精神に関与するものの可能性がある。なんでもいいから違和感があったら言って」
「うーん……」
ない。本当に何ともないのだ。しかし確かに痛みは感じた。ではやはり何かしらの異常があるのだろうか?
「虹の魔力が和也を守ったんだよ」
イリスが冷静に、それでいてちょっと嬉しそうにそう言う。
「和くんは大丈夫なの?」
「うん、和也の魔力凄いもん。あんな魔術じゃあ、体に到達する前に殆どが相殺されちゃうよ。凄いね、和也!」
そこにいる三人はいまいち理解できないといった表情。智花はとにかく和也が無事らしいことに安堵する。和也も痛みを感じた肩に触れて、外傷がないことに安心した。雫はそんな二人の表情を確認すると八田の方を見て、手招きをする。
「先生は?」
「さあな、飛び込んで行っちゃったから。煙で向こう側がさっぱり見えないんだ。戦闘音も聞こえるが……俺の幻術下だからな。混乱して適当に攻撃しているか本当に戦闘しているのかはわからない」
雫はその報告を聞くと周囲を見回す。そして、そっと瓦礫と瓦礫の隙間からさきほどまで戦闘の起きていた場所を見た。
「……」
二人の女がいる。ワルキューレと呼ばれる敵側の魔術師の一人だ。キョロキョロと何かを探しているようだ。まあ十中八九自分たちをだろう。笠原はいない。彼女に殺されてしまったのだろうか?それならありがたいが……。
「いいえ」
それはありえなかった。あの男がこの程度で死ぬはずはない。笠原の使う魔術はオリジナルのもの。並みの魔術では容易に消し飛ばされてしまう。目の前の女も相当の強者だが、それでも笠原が彼女に敗れる姿は想像し難い。
「何かありそうね。今すぐにでも追いつきたいけど……」
雫はそう呟いてパルチザンを掴む。と、そのわずかな金属音に反応して、ワルキューレの一人がこちらに振り返った。息を潜める。
「誰かいるな?」
「八田くん、任せた」
雫は隠れ切るのは無理と判断。後ろに控える四人に逃げるように合図し、そのまま石の壁を破壊して、彼女たちの前に出ていく。
「音、ほとんど立てたつもりなかったんだけど……」
「……」
雫を見たその女は手にしたレイピアを突くような体勢で構えた。後ろのもう一人はアサルトライフルを構えているが戦闘体勢にはなっていない。
(強い……)
雫はレイピアの女のみに意識を集中させる。手にした綺麗な槍を刃までの距離が長くなるように構えた。
「ふっ」
雫の額をレイピアの細い刃が掠めた。あまりにも美しいフォームから繰り出された刹那の突き。雫は目を丸くして驚きながらも間一髪でそれを躱す。攻撃への「気」の切り替えがほぼなかった。スピード、狙い、タイミング。どれをとっても完璧と言える。
「今ので死なないか」
大きく後退した雫を感情のない冷徹な目で見ながらポツリと呟く。攻撃してなお崩れないフォーム。まるで移動などしていないかの如くつま先から剣の先までが揺るがない。そして、それが雫の反撃を完全に完全にシャットアウトする。
「技量でははるかに向こうが上かしら……。久しぶりね、このクラスは……」
汗が頬を伝う。雫はじっと敵の目を見つめながら小さく呟く。
「トリシューラ」
雫の周りに三本の光槍が生まれた。それは模擬戦で、妃に向かって投げた槍と同様の輝きを放っている。それを相対する存在に向かって放った。技量で負けるとなれば、遠距離からの魔術による攻撃しかない。
「ほう、珍しい魔術を使う。だが……」
三本の槍は女の手前で爆発した。魔術で防いだのだろう。剣の腕のみならず、魔術師としても超一流。それくらいは裕にこなすはずだ。何度も何度も攻撃して防がれる。魔力の残量もそう多くはない。これでは絶対に勝ち目がなくなってしまう。しかし雫もまた優秀な魔術師だ。数多の爆発で視界が遮られた。その隙を見逃さない。「あの槍」を手持ちの武器に憑依させる。そうすれば互角になるだろう。それには長めの詠唱と一時的な武器の使用不可という代償があるが……今ならその隙がある!
「おまえごと行くぞ!」
八田が叫ぶ。雫と敵の女二人を八田のフルートから放たれた音色が包んだ。雫はしっかりと確認していた。逃げろといったにも関わらず、残った一人を。どうせ水瀬和也が「置いていけない」とかいう主人公的発言をして、しょうがないから彼が残ったのだろう。それでも今回ばかりはありがたかった。自分だけでは時間すら稼げなかったから。そしてここからは違う。
「インドラよ……」
優しく、悲痛な、甘くて、煩い音が鼓膜を揺らす。それにより五感が狂っていく。右と左、前と後ろがわからなくなる。でもそれでいい。すでに発動は始めている。幻術が消えるころには憑依も終わっている。そうすれば……。
「わが剣は無心にて、不動」
響くようなその声を聞き、絶望する。終わった。侮った。完全に虚を突かれた。一切の対応ができない。まさに己が心臓を貫こうとしているレイピアを見つめながら、なにもできない。冷静に考えれば、彼女が幻術への対策をしていること可能性は十分にあった。にも関わらず、あっさりと隙を与えてしまった。一度は幻術が効くかどうか試してみるべきだったのだ。いや……。おそらく無理だった。力量に絶対的な差があった。
(はあ……これで終わりか)
雫の胸をレイピアが貫く。血があふれて、呼吸が苦しくなる。
「と思ったか?俺の幻術なめんな」
八田の掌底が女のみぞおちを捉えていた。女が目を見開く。彼女ほどの達人が完全に一本取られた形。大きく後ろに吹き飛んで背中を地に打ち付ける。
「どういうこと⁉」
驚いた表情のまま、八田に尋ねる雫。その間も刺されたはずの胸が無傷であることを手で触れて確認している。完全に殺されたと思った。向こうも完全に殺したと思っただろう。幻術を掻い潜り、無防備の雫に必殺の一撃が入ったはず。でも確かに雫は無事で、相手は吹き飛ばされたのだ。
「俺の幻術の本領は感知不能と多重発動。あんな露骨な幻術は使わないぜ。仲間守るのに使うならなおさらな」
「貴様……」
起き上がった女はお腹を押さえながら八田を睨んだ。さきほどの繊細な剣技とは異なる強烈な覇気が二人を襲う。
「その拳法と笛による幻術……おまえは……」
「先を急いでいるんだ。ここは逃げさせてもらう」
そうして再び、八田が幻術を使う。今度は完全な時間稼ぎ用のもの。そして走り出す二人だが、すぐに動きを止めた。いや、止めざるを得なかった。
「うーん、それはやばい」
行く手には五人の魔術師が銃を構えている。先頭に立つのはさきほどいたもう一人。魔術師が使う銃弾となると無効化するのは厳しい。そして後方からは、幻術を恐ろしいほどのスピードで突破した女がレイピアを構えながら迫ってくる。
「止まってもしょうがないわ。突破可能性が高い前方へ!」
相手の腕にもよるが、銃弾であれば致命傷動き出した二人に向かって引き金が引かれるかと思われたその瞬間、彼らの足場が地割れを起こして崩れた。銃弾は青空に向かって放たれる。
「ようやく見つけた」
地に拳を打ち付けたモーションのままでそう言うのは二人の知っている顔であった。学園の生徒会書記 岩田五郎。彼が使うのは地への干渉を主とする魔術。敵の真下の地面に干渉して、足場を崩したのであろう。そして今度は五郎が魔力を纏った掌を地面に乗せるようにして触れる。
「隆起」
崩れた地面から岩が次々と突き出す。敵の兵はそれに吹き飛ばされ、ぐったりとして起き上がらない。五人の敵の魔術師を無力化した。彼もまた“あの”生徒会の一角であることを改めて感じる。
「次から次へと……。何者だ、貴様ら!」
後ろから迫っていた女が恐ろしい形相で、雫に切りかかる。そのスピードは先よりもさらに速い。このクラスのスピードとなると、緋ノ宮妃や黒守勇人を彷彿させる。対応できない。だから一撃もらう覚悟で体を逸らす。致命傷は避けられる。
「会長よりは遅いですね」
声とほぼ同時。雫に剣が届く前に、女の体が吹き飛ぶ。倒れた女の頭は原型を留めないほどにグロテスクな物になっていた。誰がどう見てもわかる。死んでいる。ショットガンによる一撃。あのスピードで動く標的の急所を確実に打ち抜く腕。彼女ほどの強者にまるで感づかれないほどの移動と攻撃タイミング。そして魔術師を一撃で仕留めるほどの威力。その男はすました顔で、眼鏡を中指でくいっと上げると二人のもとへと歩み寄った。
「いやいや、探しましたよ。雨堤雫さん、八田慎二さん」
「司徒……教介……」
「ええ、覚えていてくれて嬉しいです」
「何故あなたがここにいるの?」
教介は考えるような素振りを見せる。雫はそれに疑うような目で応じた。彼女にも教介がここにいる理由はなんとなく想像がつく。緋ノ宮妃に着いて来たのだろう。問題はわざわざ来るのであれば、なぜ笠原の誘いを断ったのかだ。別個の理由、それも行動をともにすれば不都合が生じる理由という可能性が高い。その相手に作戦の情報を渡すわけにはいかない。
「まあ、そうですね。一番正直に答えるのであれば、会長の我が儘に付き合っているという答えになります」
「で、その会長さんはどこ?当然、来ているんでしょう?」
「ああ……」
教介は困った表情をする。そして辺りを見回して、呆れたように肩をすくめた。
「言いにくいのですが……。詳細を告げずにどこかに行ってしました。やることがあるらしいのです。こんな場所でなにがあるのやら」
「それであなたたちはなぜここに?」
「会長に水瀬和也に会えと言われたので。私たち三人と菜ノ原怜、黒守音羽で手分けして探していたのです。幸いこうして早い段階で見つけることができましたが……水瀬和也と森谷智花はどこですか?」
雫は「ふっ」と息を吐く。いくら生徒会が優秀といえ、ここは戦場。そこにのこのこと着いて来て、しっかり説明もされないで別行動とは気の毒だ。まあ何の疑問も持たずに命に従っているのも呆れるが。雫は八田を見る。八田は意図を感じ取り、教介の質問に答えた。
「さっき戦闘になったからな。先に進んでいるように言った」
「目的地は決まっていますか?」
「ああ、和也がわかる。あいつには発信器を持ってもらっているから、それを追えば追いつくぞ」
「そうですか。では追いますよね?ご同行しても?」
八田と雫は共に頷く。緋ノ宮妃の意志は不明だが、どちらにしても彼らは着いてくるに違いない。ならば協力する方がいいだろう。彼らの力を借りられるのは大きいし、勝手に行動されるのを避けることもできる。
「そういえば菜ノ原怜や黒守音羽はどこよ?」
「ああ、実は私たちも別行動していたんですよ。今から連絡して、合流……しようと思っていたんですが、どうやら彼女らはとても優秀みたいですね。すでに水瀬和也ら三人と合流済でした。我々も向かいましょうか」




