反乱軍
大地が抉れて、砂煙が舞い上がる。数多の爆撃や銃弾が視界の中で交錯する。その地に残るのは力のある者であり、故に叫びは聞こえない。まだ十五歳前後の少女にはあまりに過酷な環境だ。それでも彼女は笑う。笑うのだ。この力がある限り、自分は勝ち続け、我らの意志は潰えることはない。ただただ無慈悲に力を振るうだけでいい。
「失せろ!」
彼女の言葉とともにオレンジの光線が降り注ぎ、目の前の愚か者たちを吹き飛ばした。その者たちの中には敵の将軍、確かカール・ソーンとかいう名前の男もいる。それなりに名のある兵士だったと思うが……。まあそんなことはどうでもいい。この男は私より弱かった。ならば死ぬのみ。
「流石です、マキナ様。このたびの戦いも我が方の勝利です。我らが四姉妹の強さ、もはや敵なしでしょう!」
「……」
「ま、マキナ様?」
マキナと呼ばれた少女はさきほど自分が吹き飛ばした地に歩いていく。そして眼下にいる男を見下した。黒人の屈強そうな男。その右腕は存在しない。さきほどの一撃で負ったのだろう。左手で傷を抑えながらも鋭い目つきでマキナを睨み返している。
「遺言はあるか?」
マキナが嬉しそうに問いただす。しかし男はそれに応えない。ただしきりに彼女のことを睨みつけた。
「言いたいことはあるかって聞いているんだよ。三度も雑魚を引き連れて攻めてきながら、みじめに負け面を曝している将軍様は何を言うんだ?」
男は応えない。そんな彼にイラついたのか、マキナは顔を蹴り飛ばして、何度も頭を踏みつける。さすがの彼もその痛みに呻き声をあげた。そしてそれを聞いたマキナ嬉しそうに口元を釣り上げる。
「死ぬのは怖いか?そうだろ?でもな、それがルールなんだよ。弱いからな。弱者は死ぬ。それこそ神が作り上げた新世界のルールだ。安泰の時代は終わったんだよ」
「ふふ」
「あ?」
国連軍大隊指揮官カール・ソーンは笑った。その反応にマキナは怒りを露わにする。そして銃を抜くと彼の額に抉るほど強く銃口を押し当てた。それでもカールはそんな彼女を真剣な表情でまっすぐに見据える。
「いつの時代も変わらないな。戦いは人を狂わせる。新しい世界などない。我ら人間が作りだした因果がそのまま具現しているのだ。それでも我々はいくつもの悲劇を乗り越えてっ……くうぅ……」
「くだらん」
一発の銃声とともに男の体が地に伏せる。マキナはそれに見向きもせずに後ろに待機していた三人の同い年と思われる少女たちのもとに向かう。一人の少女が駆け寄ってきて、マキナの顔の血を拭い取った。
「人質はいかがいたしましょう?」
「殺せ。交渉など意味がない。どうせそういうのに支障がないような人間がここに来ている。それより例の襲撃の準備を急げ。時間はないぞ」
「わかりました。よし、おまえら行くぞ!」
その少女はその場にいた兵士たちを引き連れて拠点へと引き換えしていく。それと入れ替わるように待機していた二人の少女がマキナの元に歩み寄ってきた。二人とも少し不安気な表情だ。
「本当に件の作戦を実行するのですか?事前の情報によればゼフィールも試合観戦に訪れると言われています。騎士団幹部は失礼ながらあなたの最も警戒すべき相手です。それに実質突っ込むような形になりますが……」
四人の少女の中でも一番年齢が上であろうその少女。口調から緊張が伺える。もう一人の少女も同じような状態であろう。マキナはその質問を聞くと「くくく」と笑い始めた。二人はゆっくりと一歩後退する。
「はっ、馬鹿め。敵の小賢しい罠に決まっているだろう。話を持ち掛けて来た奴らは全員拷問して殺したよ。その中の一人が敵の作戦をペラペラと話したさ。大方、私の虹の欠片が狙いだろう。東京の魔術学園の教員の作戦らしいが……極東の島国ごときに誘われるとは私たちもずいぶんと馬鹿にされたものだな」
彼女の体からオレンジ色の光が溢れ出し、彼女の感情を表すように大きく揺らめく。そして彼女は嬉しそうな表情で唐突にカッ目を見開いた。その目は二人の少女を捉えている。
「だが、敢えて襲撃してやろう。もちろんこちらのオリジナルのシナリオを加えてだ。敵はもしかしたらもう襲撃してこないと考えているかもしれない。あるいはまだ予定通り襲撃してくるのを待ち構えているか。どちらにせよ、予想の裏をかく襲撃で、報告に上がった虹の欠片をいただく」
「対象はわかっているのですか?」
「それはこちらの協力者がやってくれる。私たちは一人を除き、殺すのみだ。実行は二週間後とする。直前に各要注意人物の配置と目標人物の詳細、誰が何を担当するかが手元に行くから待っていろ。それと……」
マキナが二人に近づいていく。そして……優しく抱きしめた。
「今日はご苦労だった。私のお姉ちゃん……」
二人の少女は顔を合わせる。そして困ったように笑うとマキナと呼ばれるその少女を、反乱軍の頭領であるその小さな体をそっと抱きしめ返した。
「以上が今回の報告になります。まとめますと我々が派遣した交渉人およびエージェントは皆殺しにされました。また長期に渡り続いて国連軍と反乱軍の戦いは実質的に反乱軍側の勝利に終わったことになります」
眼鏡をかけたスーツ姿の女性がきびきびと対峙する男、笠原優一にそう告げる。その報告を聞いた笠原は「ふむ」と頷いただけで特別何かを述べはしない。
「例の作戦どうなさいます?基本的には応じないと考えるのが妥当ですが……」
「いえ、それは実行してください。特別変更もありません。私が用意しますので任せて」
笠原はあっさりと作戦の継続を決定する。それでも眼鏡の女性は同様せず、この男の表情を、動作を凝視する。彼が気になっているのはどちらかというと国連軍の敗北ほうか。
「戦力的には国連軍のほうが上だったと思いますが……」
国連軍は現状、世界最強の軍隊である。それは兵器の充実や優れた統率力という点だけではない。国連軍が持っている絶対権限。魔術師の招集を促す命令を持っていることにある。国際連合に加盟しているあらゆる国のあらゆる魔術師を任意のタイミングで招集可能なもの。これは最強の七人、騎士団幹部とて例外ではない。だから基本的には人間同士の戦いにおいて国連軍の負けはありえないのだ。それが敗北した。これは何を意味するか?いや、そもそも本気を出せば負けはありえなかったはずだ。それこそ騎士団幹部を招集すればいい。何が彼らをそうさせなかったのか……。
「反乱軍の少女はどの程度、橙色の欠片を使いこなせていますか?」
「報告によれば、その少女の力が最大の脅威になっています。ほぼ完璧に使いこなしていると見ていいかと」
「やりますね」
それを考慮したとしてもやはり国連軍敗北は納得がいかない。まあ直接的な被害を受けるわけではないのであまり深く考えるより、この後の双方の動きを見た方がいいだろう。
「では解散にしましょう。今後もあなたたち政府は基本的にはイリスの調査と騎士団の動きの監視に力を注いでください。特に道明寺神子の監視は怠らないように。灯台下暗しと言いますからね。おまけに一番何を考えているのかわからないので」
「わかりました。しかしあなたも気をつけてくださいね。我々は“あなた”も監視していますから」
その女性はそう言い終わると同時に笠原の目の前から消える。幻術の類を応用した実質の分身。まあ相手に物理的な干渉はできないのでどっかの忍者が使うものに比べると用途は限られるが。それでも個人でそれを使える者など数える程度にしかいない。
「それだけ監視されているということでしょうか」
しかしすでに動き出している。誰もそのスピードを緩めようとはしないだろう。ならば加速していくしかない。強力な存在を相手するにはそれしかないだろう。
「案外早いかもなぁー。最もどういう道をたどるかはまるでわからないですけど」
そう呟くと窓に近づき外を見る。すると演習場で必死に訓練に励む生徒たちが目に入った。この時期にこの時間まで練習しているということは例のイベントの参加者だろう。慣れない手つきで刀を振るおうとする彼を二人の女子生徒が必死にサポートする。そしてその彼の姿をもう一人の男子生徒はすこしだけ羨ましそうに見ている。その隣のコートでは相変わらず一人で暴れまわっている女子生徒を他の三人が必死で抑えている。そんな彼らの姿は少し滑稽で、それでいてとても眩しい。普通に生きれば“彼女”とあんな風に……。
「もう遅いかな」




